フロキル王国の今後
フロキル王国に対しての復讐は完全に終了した。
第一防壁までの全ての防壁は破壊され、内部の建物で原型を保っている物は一つたりとも存在しない。
もちろん王城も含めてだ。
だが、第六防壁と称しても良い位置に俺達が作った防壁は健在で、王城を中心に魔獣と魔族を完全に包囲・幽閉しているのだ。
魔族と魔獣はこの世界での個体存在最大数は決定している。
つまり、こいつらをこの場所にとどめておけば、魔王城侵攻の際に邪魔になる雑魚・・・魔獣と魔族を減らせるはずだ。
その為、フロキル王国の魔獣と魔族はそのまま放置することにし、第六防壁の補強を更に実施することにする。
そして、万が一第三者がその壁を超えることのない様に・・・いや、普通に超えることは不可能なのだが、念のためリスド王国からフロキル王国の現状を各国に案内してもらうことにした。
ナユラとキルハ国王は俺の要望を快く聞き入れてくれ、早速各国に情報を飛ばしてくれたようだ。
「ロイド様!ロイド様の案は素晴らしいですな。これで魔王城に攻め入る際の道中に、無駄な体力を使うことは無いでしょう」
「それはそれとして、フロキル王国唯一の貴族の生き残り・・・キュロス辺境伯はどうすんだ?あのまま辺境の地を治めてもらうだけか?」
「ヘイロンの言わんとしていることは理解している。魔王・悪魔連中への復讐が終わったら、フロキル王国の王都に充満している魔獣や魔族を一掃して、王都も管理してもらうのも良いかもしれないと思っている」
「ロイドさんはどうするんですか?」
「俺はスミカと同じ冒険者として生きていくさ。今更国を統治するなんてできないし、する気もないしな」
俺の答えに微笑みで返してくれるスミカ。ナユラがこの場にいれば同じ反応をしただろう。
そう、俺は復讐の後はのんびりと過ごしたいのだ。
今までは復讐の為だけに耐え難きを耐えてきた。どんなに酷い扱いを受けようが、理不尽な状況に追い込まれようが耐えてきたのだ。
だが復讐が完遂されれば、自分の幸せを見つけても良いだろう。
それに、こんな俺に常に力を貸し続けてくれているヨナにも自分の幸せを見つけて欲しい。
「ではロイド様、一旦現状をキュロス辺境伯に報告して次の作戦を考えましょう。私も情報収集を魔王方面に一点集中できますので、より精度の高い情報を得ることができると思います」
「それはそうだな。キュロス辺境伯は俺達に多大な協力をしてくれたんだ。結果を報告するのは筋だな」
とりあえずヨナとテスラムさんを引き連れて、キュロス辺境伯の元へ転移した。
門の外には鍛え上げられた騎士が門番をしていたが、俺を見るなりそのうちの一人はキュロス辺境伯に連絡をしに行ってくれたようだ。
「ロイド様、応接の間にお越しください」
残った騎士は、俺を応接の間に案内してくれた。
部屋に入ると、既に連絡が行っていたのかキュロス辺境伯本人が待っており、俺達の入室と共に笑顔で近づいてきた。
「これはロイド様。状況に変化でもありましたか?」
「一応あの王国・・・王都は既に魔獣の群れに占領されました。王都の連中への復讐は完了です。辺境伯の助力によってフロキル王国周辺には魔獣が大量に湧き出てきたのも、非常に助かりました。感謝します」
「とんでもない。我らの失態はこの程度では挽回できると思ってはおりません。今後もロイド様に忠誠を誓い、力にならせていただきます」
この御仁は、忠誠心も高く全ての能力も秀でていると言っても過言ではない。
こんな人が味方になってくれるとは心強い限りだ。
「ありがとうございます。次は最後の復讐対象である魔王討伐を行うことになるので、その時に何かあれば頼らせてもらいます」
「是非お待ちしております」
魔王の討伐と聞いても、キュロス辺境伯や傍に控えている近衛騎士は眉一つ動かすことは無かった。
人族と比較すると、超常の力を持つと言われている魔王。
その魔王討伐関連で力を貸してくれ・・・と伝えたのにも関わらずだ。
はっきり言って、命の危険がある戦いに身を置いてくれと言っているのだが・・・
普段、魔獣の群れの対処を日常的に行っている辺境伯ならではなのかもしれない。
「今回の作戦のおかげで我が領土の魔獣が減少しておりますので、魔族への進化を心配する必要がなくなったと思います。この状態が維持できるのであれば騎士達も開拓を行うことができるので、非常に助かります」
暫くそんなたわいもない話をしていたが、魔王討伐の協力者として万が一目を付けられると危険が増すので、宝物庫からもらい受けた武具を殆ど渡すことにした。
あの近衛騎士隊長が使っていた武具も回収してきているので、この武具も渡している。
「これは!!こんな素晴らしい武具をこのように大量によろしいのでしょうか?」
「もちろんです。こちらで持っていても宝の持ち腐れなので・・・キュロス殿に使ってもらえると助かります」
「それでは遠慮なく使わせていただきます」
キュロス辺境伯は近衛騎士に目配せするとその騎士は部屋から出て行き、複数の騎士達、そして荷台と共に再び現れた。
かなりの量があるために人が運ぶと効率が悪いので、荷台を持ってきたようだ。
俺とヨナそしてテスラムさんが出した武具を全て回収して部屋を出て行ったのだが、騎士達の目がキラキラ光っていたのは見間違いではないだろう。
人族最高の武具が目の前に大量にあるのだ。
そして、それを自分達の武器にできるので喜びを隠しきれなかったのだろう。
俺達には必要のない武器だが、あの近衛騎士隊長でさえ魔族側がかなり不利な条件ではあったが一撃で倒すことができた武具だ。
辺境伯やここの近衛騎士達が持つのであれば、相当な力の増強になるだろう。
最後に、魔王討伐後の話も聞いてもらった。
「魔王討伐、完全に復讐が完了したら王都の魔獣や魔族も殲滅します。そこで、キュロス殿にはあの王都も治めて頂きたいと考えています」
「何を仰いますか。王都を治めるのは、新たなフロキル王国の国王になるロイド様以外にはありえません」
この御仁ならそう言うと思っていた。
「いや、俺は国を統治する器ではないしその気もないので・・・。復讐が終わったらゆっくりと母さんを弔いたいんです。そしてその後は、自分の身の振り方も考えたいと思っています」
「そうですか。では一時的に・・・本当に一時的に私がその任、承ります」
結局は俺の為になる方向、俺の意図を汲んだ方向に動いてくれる御仁。
本当にありがたい。
これである程度大切な話はすることができたかな?
おっと忘れていた。
「そうそう、キュロス殿。フロキル王国からは貴殿ともう一人、姉であるリアナも救出済みです。今は我らと居を同じくしており、リスド王国にいます」
「おお、そうでしたか。今回の王都遠征でもリアナ様とはお会いすることができずに心配していたのです。それは良かった」
貴族として最大の戦力を誇り、そして気高いキュロス辺境伯にはあの姉を会わせることができなかったのかもしれない。
万が一、姉とキュロス辺境伯が互いに情報交換して全ての事実を知った場合、その場で辺境伯や姉に反旗を翻される可能性もあるのだから、豚共にしてみれば当然の処置かもしれない。
もう少しゆっくりしていけと引き留める辺境伯には悪いが、伝えなくてはいけないことは全て伝えたので、俺達はリスド王国に帰還することにした。
キュロス辺境伯には、万が一の連絡用にテスラムさんのスライムを一匹つけている。
あの御仁は、スライムで遠距離の連絡ができることに驚いていたが、有用性にはすぐに気が付いていた。
これで、この御仁にも万が一がありそうな場合は即座に連絡がつくようになったので安心だ。