冒険者とリアナ王女
俺の義母姉であるリアナの情報以外には目立った情報や動きはなかったため、その日は解散することにした。
リアナ救出に関しては、俺に一任された。
あの状態を見る限り、今すぐ大きな変化があると言うことはなさそうなので一晩考えさせてもらうことにしたのだ。
とは言っても、正直俺の結論は決まっている。
罪もない人間を、そして俺と母さんを守ろうとしてくれた者を救うのは当然だと思っている。
そんな事を思いつつ、翌日の朝を迎えた。
一旦食堂で皆で食事をした後に、俺の部屋に向かう。
昨日の夜は修行が行われていたようで、ヘイロンとスミカも酔いつぶれて寝坊するなどと言うことは無く、普通に食堂に現れた。
早速映像を確認すると、絶望的な状況に置かれていることを理解した冒険者一行は夜通し王城を調べつくしていたらしい。
宝物庫は、ある程度目立たない王城の端にある通路を通る必要があるので、まだそこまではたどり着けていないが、このまま行けばあの通路はすぐにでも見つかるだろう。
予想通り、見つかり辛い通路を見つけた冒険者達は喜びを隠せていない。
「おい、やっと見つけたぞ。この先に脱出経路があるかもしれん」
「魔獣、魔族襲来前に見つけることができたな」
「ああ、だがゆっくりしている暇はない。急ぐぞ」
希望が見えた冒険者達は、通路を速足に進むと宝物庫の扉が見える。
ここは行き止まりになっており、この扉以外には何も存在していないのだ。
「む、開かないぞ!!」
冒険者達は扉を押したり引いたり、横に移動させようとするがびくともしない。
同然だ。堅牢な鍵がかかっているからな。
「おい!中に誰かいるのか!!」
「ひぃ・・」
ドアを叩きながら叫ぶ冒険者に対して、中にいるギルドマスターが悲鳴を上げてしまった。
自分の体を食べられてしまうかもしれない恐怖によって、悲鳴を上げてしまったのだ。
「いるなら開けろ!!そこに食料があるんだろ!!俺達も籠城させろ!!!」
「うわ~!!」
自分達の事を食料と言われたと思ったギルドマスターは、錯乱状態だ。
他の面々も同じような状況だが、唯一毅然とした態度を取り続けているリアナが回答した。
「冒険者の皆さん、残念ですがあなた方をここに入れるわけにはいきません。ですが、あなた方が想像しているような環境でもございません。ここには既に食料もなく、魔獣に対抗する術を一切持たない私たちの最後の場所でございます」
「うるせー、そんな言葉を信じるわけがないだろう!!」
冒険者達は、扉を攻撃する準備を始めた。
かなり混沌としてきたぞ。唯一まともなのはリアナだけで残りは豚の集まりと、錯乱したギルドマスター、下を向いて震えている近衛騎士隊長、呆然としている国王がいるだけだ。
「ロイド、あいつらの攻撃が扉を破壊したらあの王女、やばいんじゃねーのか?」
「あの程度の攻撃であれば問題ないと思いますが・・・念のため、もし助けると決めておられるのでしたらば保護に向かった方がよろしいでしょう。如何しますか?」
全員が俺を見ている。
俺は一呼吸置くと、俺の気持ちを伝えることにした。
「俺は、あの姉・・・リアナだけは助けようと思う」
「私も賛成です。あのお方はまさに王族にふさわしい人ですから」
「騎士として命を懸けてお守りするに値するお人だ」
「私も賛成」
「お姉ちゃんと同じです!」
ヘイロンとテスラムさんも頷いてくれた。
冒険者達は攻撃の準備が整ったようで、ホルムンデに魔力を譲渡した時に発動すことができる最強の魔法をぶち込むようだ。
俺達はすかさず<空間転移>を使用して宝物庫の中に移動する。
もちろんヨナの<闇魔法>による隠蔽も忘れない。
到着した瞬間、テスラムさんの<風魔法>による防御で宝物庫内部全てをカバーする。
魔法の発動速度、認識し辛さ、強度、全てが他の<六剣>とは桁違いなのがわかる。もちろん<風剣>は顕現させていない状態で・・・だ。
『クッ、これ程まで差があるとは・・・まだまだ修練が足りん』
『まじか・・・』
アルフォナとヘイロンの呟きがスライムを通して聞こえて来る。
他の<六剣>所持者達も同じような感情を持っているようだ。
冒険者の攻撃が丁度扉に当たった瞬間だったので、スライムを通していない声でもここにいる連中に聞こえることは無かっただろう。
「なんだこの扉!魔族を滅したこの私の最大の攻撃が通らないだと!!?おい、早く開けろ!!!」
テスラムさんの予想通り、ホルムンデとか言うやつの攻撃は通らなかったようだ。
これなら焦って来ることもなかった。
と言うのも、リアナを助けることは決めたが、どうやってこの場から救出するかを決めていなかったのだ。
このまま姿を隠したまま連れていくか、全員に宣言して連れていくか・・・悩んでいると、
「本当に最後だから、姿を見せても良いんじゃねーか?」
ヘイロンのあっさりとした助言があったので、俺達は豚一行とクズ、そしてリアナの前に現れることにした。
扉の外ではSランク冒険者達が騒ぎ続けているが、とりあえず無視で良いだろう。
ホルムンデが連続で魔術を発動しているが、そんな事をしたら魔力回復薬が無駄になくなるのがわかっていないのだろうか。
どのみち奴らの力では、この扉を破壊することなどできはしないのだから・・・
そんなことは置いておき、ヨナの<闇魔法>を解除してもらった状態とした。
彼らからすると突然俺達一行が現れたように見えるのだが、かなり体力を消耗している状態らしく驚いた表情はするが、騒ぎ立てることは無かった。
国王の私室で俺達が現れた話を聞いているので、驚きも少ないのかもしれない。
「よう。二度と会うことは無いと思ったが、忘れ物をしたんでな。引き取りに来た」
「何を言っている?既にこの宝物庫の中身はお前らが全てを持って行っただろう」
力なく国王が返事をする。
「いや、宝物庫の中身はどうでも良い。俺が忘れたのは・・・リアナ姉さん・・・あなただ」
全員の視線がリアナに集中してしまった。
当の本人は”何が起こっているのか?”と言う表情をしており、固まってしまっている。
「リアナ姉さん。俺は正直姉さんの事をあまり覚えていないけど、母さんや俺に良くしてくれていた事実は理解している。そんな姉さんが、こいつらと運命を共にする必要なんてない。俺と一緒に来てくれないか?」
すると、予想通りに豚共が騒ぎ始めた。
「何を言っている。お前の面倒を散々見てきたのはこの俺だ!そんな女より俺を何とかしろ。恩を仇で返すのか?」
「あなたは何もしてないでしょうが!!ロイドの為に骨を折ったのは私よ」
・・・・・・
豚共が騒ぎ続けているが、一切気にせずにリアナ姉さんに近づく。
「リアナ姉さん。ここにいるのは俺の本当の仲間で、信頼できる連中だ。今俺達はリスド王国を拠点にしている。こんな魔獣に完全に包囲されている場所よりも、俺と一緒にリスド王国に来て欲しい」
「でも、私はあなた・・・いいえ、ユリナス様すらお助けすることができなかったのよ」
「そんなことは無い。リアナ姉さんが俺達のためにあの国王に色々言ってくれたこと、そのせいで扱いが変わってしまったことも知っている。そんな姉さんをこんなところに置き去りにしたら、俺が母さんにこっ酷く叱られる」
「・・・」
姉さんは不安そうに豚共や近衛騎士隊長を見る。
ギルドマスターは少々おかしくなっているので放置だ。
「この方々は・・・」
「こいつらは、母さんを死へ追いやった元凶。ポーションすら提供せず死なせた上に、その場所を観光名所にしやがった。そんな奴らを助けることはできない」
姉さんは、自分が俺達のためにこの豚共から良くない扱いを受けていたにもかかわらず、豚共の今後を気にしている。
優しい気持ちは大切だが、限度があるだろう。
ここでこの豚共を許してしまえば、あの悪行を許したことになるからだ。
姉さんの瞳が揺れている。