冒険者の現状(2)
第一防壁上部から第二防壁を確認した、Sランク冒険者達三人。
彼らが目にした光景は・・・第二防壁には魔獣はいないのだが貴族の邸宅は破壊され、第三防壁から避難してきた住民達、そして第二防壁に居を構える貴族達が既に死に絶えている状況だ。
この状況・・・倒れている住民や貴族も武器を持っていたことから、お互いが争ったことは明確だ。
動揺を隠せない冒険者達。
「魔獣や魔族の危険はなさそうだ。辺りを警戒して第二防壁内を調査して、可能であればそのまま第三防壁の確認だ」
第一防壁から第二防壁に移動して慎重に行動する冒険者達。
目の前で現状を確認してみると、倒れている住民達の傷は魔獣につけられたものではないと理解することができたようだ。
「何故このような事を・・・」
そう言いつつも、第三防壁への出口へ向かう。
通常であれば、馬に乗っていく程の距離なので馬を探しつつ進んでいる。
だが、そこで第二防壁内部の惨状の原因を理解してしまったのだ。
厩舎にたどり着いた冒険者達。しかし、そこで目にしたのは食い散らかされた馬の残骸だった。
「まさか・・・食料が枯渇したのか・・・」
ある程度フロキル王国の現状を理解していた冒険者達は、難なく真実にたどり着く。
「第三防壁に向かうぞ!!」
となると、脱出するしか生きる術はないので、既に魔獣達が侵攻していた第三防壁を確認しなくてはならない。
あの場所を突破できない限り、自分たちの命はないのだから当然だろう。
「ロイド様、この冒険者達は現役時代の勘が戻ったのでしょうか?」
「そうかもしれないな」
良い判断をしているので、テスラムさんもあの冒険者達の評価を少々上げたようだ。ウジ虫からハエ程度だが・・・
かなりの時間を要して第二防壁の上に到着した冒険者。
辺りを警戒しながらなので、かなりの疲れが見える。
当然ながらここでは魔族に侵入された経験があるので、既にホルムンデに魔力を譲渡済みで、譲渡した二人は魔力回復薬を飲んで万全の体勢だ。
三人は恐る恐る第二防壁上部から第三防壁をのぞき込んでいる。
「「「な・・・」」」
そこで彼らが見たのは絶望の光景。
そう、軍隊のように完全に統制が取れている魔獣の群れが第二防壁に向かって整列していたのだ。
そう時間がかからずに、第二防壁に攻撃を仕掛けるのだろう。
「退却だ・・」
必死で第一防壁に戻る冒険者達。
防壁内に到着して堅牢な門を閉じると、肩で息をしつつも話を進めている。
「何故あれ程の魔獣が・・・いや、あの状況を見ると魔族へ進化した個体も一体や二体ではないだろう」
「どうするんだ!これでは何もできないではないか?」
「いや、この惨状を理解した王族が見えないのが唯一の希望だ。彼らはやはり身の安全が担保できているどこかに潜んでいるに違いない。いや、すでにこの国から避難しているかもしれない」
戦うと言う選択肢が取れない冒険者達は、僅かな希望は王族たちの所在場所を突き止めると言う事だった。
王族たちであれば更に安全な場所を知っており、そこに避難していると言う結論に達したのだ。
「だが、食料はどうなっているんだ?」
「強欲なあいつらの事だ。ため込んでいるに違いない」
「そうすると、時間はないぞ。いつあの魔獣の群れが襲ってくるかわからん。あの数だ。第一防壁ですら突破しかねない」
疲れた体を無理やり動かし、王城に戻る冒険者達。
「安全な場所に避難していると言う推理に間違いはないな」
「座して死を待つより、潔く一体でも魔獣を討伐する方が騎士の本懐ではないか?」
映像を見ている俺達は、落ち着く飲み物を口にしながら暢気に映像を見ている。
だが、大した力を持っていない冒険者達は必死だ。
一階から家探しを始めるが、そこでも現実を突きつけられている。
そう、使用人達が部屋で餓死している状況だ。
「くそ!!どうなっていやがる!!」
そう言いつつも、必死で家探しを継続する冒険者達。
この広い王城を調査し続けている内に日が暮れそうだ。
当然俺達は途中で飽きたので宝物庫の中の確認だけして一旦解散とし、夕方にヘイロン、スミカを含む全員で再び映像を見ている。
その時に見た宝物庫の中では、長女だけが俺に対する手紙を書いていた。
その他の連中は絶望の顔をして座り込むか、ブツブツと怨みがましい事を言っているだけだ。
実はこの手紙こそ、テスラムさんが言っていた状況の変化だ。
この窮地に陥って、自分の今までの行いを省みることができたらしい。
俺と母さん、そして第四防壁の住民に対する心からの謝罪が書かれている。
俺が第四防壁に居住地を移して母さんと暮らしている時、そして、その後母さんが死亡した後の魔族討伐の観光名所となった時、何れの時もこの人だけは第四防壁に来なかったような気がする。
興味がなかったから来なかっただけかもしれないが・・・
この手紙が俺の手元に来る可能性は限りなく低いと分かっているであろう現状での行動だけに、キュロス辺境伯以外にも真っ当な人が残っていた事に驚いた。
再び俺の部屋に<六剣>所持者全員が集まり、長女の現状をヘイロンとスミカにも説明しておいた。
するとヘイロンは、
「ロイドの言う通り、あいつだけは唯一王族の中であの場所に観光に来てねーな。見たことがねーからな。だが、それが罪の意識からならまだ許せるが、興味がないと言う事だったらあんな手紙程度では許すことはできねーぞ」
そこに、テスラムさんが驚くべき報告をしてきた。
彼は俺達があの手紙の存在を知る前にその情報を得ていたので、関連する情報を集めていたようなのだ。
すでに王城には人がおらずどこをどのように調べたのかはわからないが、彼の情報ならば間違いはないと思っている。
その情報は・・・俺には少々驚きの情報だった。
あの第一王女は、俺達の追放に対して国王に大反対していたらしい。
そのせいで国王やその他の王族からも距離を置かれており、政に対しても一切の発言権がなくなっていたと言う。
そのせいか、俺の現状についてもつい最近まで知ることができなかったようだ。
そして最後にテスラムさんはこう付け加えた。
「ロイド様、あのお方はキュロス辺境伯と志を同じくした正当な王族です。私もあの手紙の内容を知るまではこの情報を掴んでおりませんでした。もし宜しければ、あのお方・・・リアナ・フロキル第一王女だけはお救いする事をお勧めします」
「ロイド様。もしかしたらあの方は、ロイド様とユリナス様と良く遊んでいた方かもしれません」
ヨナも記憶を必死で手繰っているようだ。
そう言われると、俺もそんな気がする。
どうしようか悩み、ヘイロンを見る。
「俺としては、テスラムさんの情報を考えるとあの王女は救うべきだと思うぜ。もう一度言うが、あの王女だけはあの場所に観光に来ると言う、ふざけた真似はしなかったからな」
ヨナも頷いている。
「ロイド殿、そう言えば私も王城務めの際に聞いたことがある。王族の一人だけは国王に反発し、まともな扱いを受けていないと・・・特にあのゾルドンが自慢していました。俺の提案を否定するからだ・・・と。これは、あのゾルドンがあの場所を観光名所にすると言う提言を否定したからでは?」
アルフォナも、不本意ながらゾルドンに仕えさせられていた時の情報を思い出したようだ。
ここまで情報が集まっていれば、あの第一王女・・・リアナ・・・俺の異母姉はまともなんだろう。
全て事実とすると、俺よりも厳しい立場で過ごしていたに違いない。
誰一人として信頼できる仲間がいないこの王城で・・・
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