国王本当の状況を理解する
俺達は、暫くそれぞれ肉と魚の料理を楽しむ。
「お、嬢!!そっちの魚料理もうまそうだな。少しだけ分けてくれよ」
「ん、」
と言う感じで、結局全員魚と肉の両方をつまんでいる。
テスラムさんとヨナの味付けは、それぞれが非常に美味い。
かなり早めの夕飯なのだが、難なく腹の中に納まりそうな勢いだ。
「あぁ、王城の料理人の作る料理もかなり美味しかったのですが、こうやって皆さんと修行して体を動かし、そして談笑しながら食べるお食事が美味しすぎて体重が気になってしまいます。テスラム様とお姉ちゃんの作るお料理、凄いです」
ウットリとしながら食事をしているナユラ。
食事をする仕草も優雅だ。
一方のスミカ。今は行儀は良いが、気品はない。ここが王族として厳しい教育を受け続けた者との違いだな。顔は可愛いんだがな。
食事も終盤に差し掛かろうとしてきた。
「ロイド様。それではそろそろあの愚王にスミカ殿の<回復>をかけて、当初の目的通り我らが食事を堪能している姿を見せつけると致しましょう。スミカ殿、防壁の術は当然解除してはいけませんよ?」
「お任せください!お腹も膨れてきていますし、全く問題ありませんから!!」
食事をすればスペックが上昇するような言い方だが、スミカの場合はあながち間違いではないかもしれない。
「終わりました」
一瞬で<回復>を終了したようだ。
常に聞こえていた唸るような声が聞こえなくなった。
「及第点ですな。一瞬ですが防壁の一部に揺らぎが見えましたぞ」
「え・・で・・でも及第点なんですよね、大丈夫ですよね?」
「だ、大丈夫なんだろ?及第点と言う事は、合格だよなテスラムさん?」
慌てたスミカとヘイロン。
悪い笑顔ではなく、普通にほほ笑みながらテスラムさんは答える。
「ええ、今回は良いと思います。まだまだ課題はありますが、特にヘイロン殿のあの攻撃の見事さに免じて今回は及第点です」
「いよっしゃー!やったぞスミカぁ~」
「ありがとうございます、ヘイロンさん!!」
手を取り合って喜び合う二人。
そして、それを生暖かく見ている師匠的な位置づけのテスラムさん。
「フフフ、嬉しそうな姿を見るのは楽しいですね」
「出来の悪い妹も可愛い」
「だが、ヘイロン殿が素晴らしい攻撃をしたのも事実だ」
残りの三人も食事を進めつつ、話をしている。
この状態でもクズ国王の話は出てきていない。
「お前ら・・・このフロキル王国の偉大なる国王を足蹴にするなど、万死に値するぞ!!」
「あん??」
ナユラと手を取り合って喜んでいたヘイロンの声色が一気に変わる。
アルフォナも射殺すような視線でクズ国王を睨みつけている。
テスラムさんは目を細めて見つめているが、ヘイロンやアルフォナのように殺気は表に一切出していない。
「アルフォナ殿、ヘイロン殿、すぐに心を乱してしまうのは減点ですぞ」
そう指摘すると、睨みつけつつも殺気は抑えることに成功したようだ。
クズ国王は、殺気を受けて喉が詰まってしまって何も声を発することができなくなっていたが、開放されて肩で息をしている。
そこに優雅にナユラが立ち上がり、クズ国王へ歩を進める。
「愚王に現状をお伝えします。ある程度は把握されているでしょうが、この王国は既に外部との接触が完全に断たれております。そして、無謀ともいえる宴会のせいで第二防壁の食料は枯渇。ここも明日の朝・・・いえ、先ほどギルドマスターに与えていましたので、朝も十分ではない程度の備蓄しかないでしょう」
ついさっき起こった事すら完全に把握されていることに驚いている国王だが、ナユラは気にせず話を続ける。
「あなた方が唯一の期待としていたキュロス辺境伯は、既に我らの力によって脱出済みですのでご心配なく」
「なに!キュロスめ裏切りおったか!!それに、脱出させただと?お前らはここから出る手段があるのか?・・・もしや、この魔道具が使えなくなっているのもお前らが何かしたのか?」
「本当に愚王ですね。このフロキル王国唯一の良心であるキュロス辺境伯は裏切ってはおりませんよ。愛想をつかしただけです。魔道具の件については・・・その通りですね。あなた以外もこの国の面々は自分だけ逃げられるような魔道具をつけておりました。なので、全て破壊させて頂いております」
そう言って、ナユラは<光剣>を顕現して宣言した。
「この<光剣>の<浄化>によって、その様な目的で所持している全ての魔道具は破壊済みです」
「<浄化>にそのような能力が・・・」
自らも<光>の基礎属性を持っている国王は、当然<浄化>を使うことができる。だが、あいつのレベルでは精々アンテッドに対してチマチマした攻撃ができる程度の認識と実力しかないだろう。
最早この国から脱出することもできず、共に滅びることしかできない未来を認識させられて何も声を発することができなくなっている国王。
「今までのあなた方の悪政によって理不尽に苦しめられてきた人々、そしてロイド様の絶対の味方であったユリナス様を陥れた罪!ここで償うのですよ」
まだまだ言い足りないことがありそうな表情をしているが、こんな状態になった国王に言っても伝わらないと思ったのだろうか、踵を返して<光剣>を収納しつつこちらに戻って椅子に座り、何事もなかったかのように食事を再開した。
フロキル王国で最良とされている基礎属性である<光>と<炎>の内の一つである<光>を与えられた国王は、自らの悪政により国を散らすことになる。
「ロ、ロイド・・・今まで本当に済まなかった。悔やんでも悔やみきれない。私の失敗は、お前達を追放してしまったこと、そして民の声に耳を傾けなかったことだ」
全くその通りだ。だが、今更だ。
「だが、お前はどうあっても俺の子であることには違いない。そして、この王城にはお前とは直接血はつながっていないが、兄弟姉妹が多数いる。お前の家族を助けてくれないか?お前たちはこの王都から無事に移動できる術を持っているのだろう?」
言うに事欠いて・・・この状況でも自分の命が優先か。いや、家族を救出対象に含めたところは少し改善されたのか?
だが、俺達の答えは決まっている。
「お前!あれだけの事をして、そんな頼みを俺が受けると思っているのか?」
「だが、ここにいるのは何の罪もない兄弟姉妹もいるのだぞ!」
ヘイロンとアルフォナから殺気が漏れ始めている。
「その兄弟姉妹も、母さんが倒れたあの場所を観光気分で訪れていたけどな。そんな奴らにかける情け等あるわけがないだろう?」
「そ、それはゾルドンが誤った情報を与えたからで・・・」
「黙れ!それでも実際に現場に行けば状況はわかったはずだ。手柄欲しさに余計な手出しをして足手まといになり、不利になれば一目散に逃げだす近衛騎士。その近衛騎士と共に逃げればまだましだったのが、足が震えてその場を動けなくなった腰抜けのせいで母さんは重症を負ったんだ。それに、母さんが重傷を負っていると言う情報は、お前の所にまで届いていたはずだぞ!」
こいつは、母さんが重症を負ったと言う事と、実際の目撃者である第四防壁の面々からの本当の情報も得ていたのだ。
だが、あのクズ兄から得られた情報と、わが身可愛さから嘘の報告を追認した近衛騎士達の情報のみを一方的に信用して、母さんに助けの手を差し伸べることはしなかった。
それが、いざ自分が危機的状況になったから助けろとは笑わせる。
「お前とお前の一族、そしてこの国の面々を助けるつもりは一切ない。とはいえ、第二防壁の連中はもう殆どがくたばっているがな。お前はここで、魔族襲来に怯えながら飢えに苦しめ」
交渉する余地はないと悟った国王は、下を向いた。