王城の面々も・・・
「ロイド様、あのギルドマスター・・・一時目的もなくフラフラしておりましたが、今は王城のある第一防壁に向かって歩いているようです」
テスラムさんの指摘があり映像を確認すると、確かにあいつは第一防壁に向かっている。
あいつがいる第二防壁内部はかなり整備されているエリアなので、ネズミ等の非常事態に食料になりそうな物も一切存在していない。
このままの状態が続けばそう遠くない未来に湧き出してくるだろうが、その時にはあのギルドマスターはそいつらの餌になっている側だ。
やがて映像の中のギルドマスターは、第一防壁の入口にたどり着いた。
第一防壁上部には国王直属の足だけは速い隠密?密偵?が第二防壁側を監視しているので、すぐに国王に連絡がいくだろう。
こいつらは第一防壁が封鎖されてからは決して第二防壁側に行こうとせず、フロキル王国らしい人柄をしている。
もちろん褒めている訳ではない。
王城の中では、食事の時間ではないので各自がそれぞれの部屋で過ごしている。
国王は、密偵?から第一防壁入口にギルドマスターが到着したと報告を受ける。
「そうか。周りに他の第二防壁の連中がいなければ、ここに連れてこい」
「承知しました」
密偵?が退出すると、
「ふ~、これでこちら側の戦力が上がったな。あの冒険者共に対抗できる術を準備しておかんと、今後王族が苦しむ一方だ」
魔族討伐、魔族が進行してきた場合の防衛手段として、魔導士のホルムンデを含む三人の冒険者を抱え込んでいる。
しかし、明らかな食糧難に陥っている状態でも彼らの体調を維持するために、不本意ながら自らの食事すら削って与えているのだ。
この状況であれば、程なくして冒険者達が更なる要求をしてくることは間違いないだろう。
王族など、近衛騎士などの直属の武力がない状態であれば、彼らとまともに戦える力は持っていないからな。
だが、この国王はやはり見る目がない。あのギルドマスター程度はSランク冒険者達の足元にも及ばないだろう。
そして何より手負いだ。その状況を知った国王がどう出るか、非常に楽しみだ。
「テスラムさん。こいつらの所に行くのは、あとどれくらいで行けると思う?」
「備蓄を確認いたしましたが、明日の朝には底をつきますな。そんな状況であればこそ、あの国王は味方を一人でも多くつけたいと思ったのでしょう」
「そうすっと、あっちに行くのはその三日後位・・・つまり四日後程度ってことで良いのか、テスラムさん?」
「それが良いでしょう。逐次状況を把握して多少の変更はあるかもしれませんが・・・その間はヘイロン殿、修行ですぞ」
ヘイロンは、テスラムさんに話しかけた返しに修行と言われたせいか、やっちまった!という表情をしているが、最早これは決定事項だと理解してるのかそれ以上の文句は言ってこなかった。
やがて、国王の部屋にあのギルドマスターが入室してきた。
「どうしたその状態は?右手は??」
ギルドマスターがボロボロの状態で、右手までなくしているのに驚愕している国王。
ギルドマスターは力なく答える。
「国王陛下、第二防壁では食料が枯渇して暴動が起きております。既に全ての貴族邸宅は襲撃され、見るも無残な状態です。これは第三防壁から避難してきた商人達等によるものです。私は防ごうとしましたが多勢に無勢でこの有様です」
そう言って力なく下を向く。
「何言ってんだこいつ?その商人崩れの盗賊元締めをやっていやがったくせに、まるで自分は何もしてないように言いやがる」
「それがこいつらなんだ。良くわかっているだろう、ヘイロン?」
「わかってる。わかってるがな。何だか腹が立つんだよ」
再び映像を見る。
「それは・・・大儀であった。だがこちらの食料も尽きかけておる。だが、万が一の戦力になるその方には最後の備蓄を与えよう」
なんだと??こいつがそんな行動を取るなど予想だにしなかった。
いくら自分の身を守るためとはいえ、ほぼ最後の食料をこんな奴に分け与えるとは・・・
「ロイド様、お忘れですか?この国王は未だ転移の魔道具が起動できなくなっていることを知りません。その事実が知られていれば、決して食料を分けるようなことなどしておりませんよ」
テスラムさんの指摘で、俺は大切な事を忘れていたと気が付いた。
国王は最終的に、自分だけは転移魔道具を使ってこの状況から脱することができると思っているのだ。
そう考えると、この行動にも納得することができた。
「あ、ありがとうございます。この命、国王陛下のために!!」
そんな思惑を知ってか知らずか、ギルドマスターは大粒の涙を流して感謝している。
宣言通り、国王は残り少ない備蓄の食料をギルドマスターに与えた。
利き腕をなくしているギルドマスターは、ぎこちない動きながらも左手を使って食事と水を勢いよく口にする。
既に備蓄が突きかけているので大した量ではないが、それでも一息つくことができたギルドマスターは報告を続けることにしたようだ。
「国王陛下・・・もう一つ報告がございます。あのロイド、従者、冒険者崩れのヘイロンと言う者、裏切者の騎士アルフォナ、リスド王国のナユラ王女、そして残り男女が一名ずつ私の前に現れました」
「なに?リスド王国の王女だと?間違いないのか?」
「はい、私は直接ではありませんが何度かお見掛けする機会がありましたので、間違いありません」
「なぜリスト王国があ奴と共にいるのだ。まさか!!あの国は魔獣を利用して我らを滅ぼそうとしてるのではないか?」
「私もそのように思いました。そして、冒険者崩れのヘイロン、そしてスミカ?と呼ばれていたような女も<六剣>を使いこなしていたのです」
「・・・・・・」
ようやく国王は<六剣>が俺の手元で完全に活用されていることを理解したらしい。
「この状況を大きく変える力は残念ながら我らフロキル王国には残されておらん。だが、奴らはどうやって現れた?未だ第二防壁内部に潜んでおるのか?」
「そこはわかりません。突然現れて目の前で食事をして去っていきました」
<水剣>に手を切り落とされたとは決して言わない・言えないから、説明としてはこうなるだろうな。
暫く考え込んでいた国王は、宰相を呼んで全てを話して聞かせた。
「そうですか。我らとしては最早如何ともしがたいですな。最後にあの冒険者共とぶつける手もありますが、<六剣>所持者達には手も足も出ないでしょう」
「では座して死を待つのみか・・・」
国家運営の能力はなかったと思わされる連中だが、一応は国王と宰相だ。既に打つ手がない事を理解して全てを諦めたように見える。
実際には、国王はトンズラする気満々なんだがな。
「現状は理解した。もう休むから下がれ。ギルドマスターにも個室を与えておけ」
そして、私室に残った国王。
「どうしてこうなってしまったのか・・・いや、最早そんな事を考えても仕方がない。一旦退避するか・・・」
国王の体に魔力が漂うのだが、それだけだ。
「む、なぜだ??」
必死で魔力を放出し続ける国王。
やがてどうあっても起動することができないと理解した国王は、魔力を使用しすぎたせいもあって汗をかいて震えている。
「ロイド!!良い事を思いついたぜ。今こいつに会いに行ってやったらどうだ?」
「ヘイロン殿、それは面白いですな。外部への情報漏れを防ぐために、前回少々楽をしたスミカ殿が<水剣>による結界をお願いしますぞ」
「ヘイロンさん!何余計な事を言っているんですか?うぅぅ、わかりました。わかりましたよ!でも、もし失敗して追加の修行なんてことになったら、ヘイロンさんも一緒ですからね」
「なんじゃそりゃ!!ふざけんなって!!!」
「いえいえヘイロン殿、スミカ殿のおっしゃる通りです。万が一スミカ殿が能力を十全に使えていない状態であると私が判断しましたら、貴方様もセットで修行ですぞ」
ヘイロンの悲鳴が響き渡ったのだった・・・