スミカの決断
俺の話は終わり、ヨナ、俺、ヘイロンはスミカを見つめている。
ようやく瞬きをしてゴクリと唾を飲んだ後に水を飲むと、決心したかのようにこちらを見た。
俺としては正直に言うと彼女を<回復>を持てる水剣所持者に選定したいが、彼女の意思が大事だ。
水剣の話をしてしまい水剣欲しさにしたくもない復讐に付き合わせてしまったら、きっと水剣の能力を完全に使いこなすことはできないだろう。
水剣側が無剣を持つ俺に対して非協力的とみなす可能性があるからだ。
俺も少々緊張した面持ちで彼女の回答を待つ。
スミカは俺達を見ると、改めて俺と目を合わせて彼女の結論を話し始めた。
「ロイドさん、あなたの気持ちは良くわかります。いえ、わかっているつもりになっているのかもしれません。正直私が置かれた状況が最悪だと今まで思っていましたが、遥に上を行っている人がいるなどとは思いもしませんでした。そこまで腐ってしまっている国、王族であれば粛清やむなしだと思います。そう言った人々がいなければ、必死に生活している人々がもう少し幸せに暮らせるのでしょう」
共感はしてくれたようだ。
「ただ、全員一概に悪かと言うと、この目で全員が見られるわけではないので何とも言えません。むしろその中にもとても良い人がいるかもしれません。そんな人達を一括りに復讐対象にしてしまうのだけは納得ができません」
確かに俺も一時期はそんな事を思っていたし、ヘイロンにも同じことを言われた。
「嬢ちゃん、甘いな。俺も嬢ちゃんと同じことをロイドと長い間語り合った事が有るよ。でもな、現実を見ろ。知らないから仕方がないが、あの時に第一防壁内部にいる王族までここに来ていたんだ。つまり、全ての防壁の人達に悪魔襲来の情報は伝わっていた。戦う力が無い者はいい。だがそうでない者は少しでも力になる行動を起こすべきだろう?散々市民から搾取している連中が、いざと言うときに何もしないなんて許されることではない。当然ここのギルドや癒着している高ランクと言われている冒険者も同罪だ」
ヘイロンが、俺達が長く話し合って出た結論を説明し始める。
「それに、その後の悪魔討伐のパーティーでは、数多くの第三防壁内部に住む連中が戦闘現場を見に来た。中には小さい子供を連れて遠足気分のやつらもいた。本当の英雄は亡くなり、俺達が悲しみに暮れている時にだぞ!!その時に、俺達は真実を伝え続けていたんだ。だがやつらは一切耳を貸さずに、むしろ王族の名誉を傷つけるのかと憤慨し、そのせいで投獄されたやつらもいるんだ」
話を聞いていく内に、スミカは下を向いていく。
「挙句の果てには、市民はやつらの壁になるのが当たり前だと言って来る者がいて、全員が下品な笑みを浮かべていたぞ。きっとスミカは次は罪もない子供たちの話をしてくるだろうから先に言っておく。あんな連中を見て育った子供にまともなやつは一人としていない!」
最早スミカは何も話せる状態ではなさそうだ。自分の甘い考えを鋭く指摘されて、落ち込んでいるのかもしれない。
「あの事件から既に10年近く経っている。当時の子供も大きくなっているが、現状俺達の扱いは悪化する一方だ。それに、冒険者仲間が言うには、防壁内に居住を構えている商人から聞いた話によると、現状の体制に異議を唱えているやつは第三防壁内部の住人では皆無だそうだぞ。やつらに善人がいるなんて言う性善説は捨てろ!」
最後は、力がこもってしまい少々強い物言いになったが、言いたいことは伝わったと信じたい。
これを聞かせて、最終的なスミカの判断を待つ。
その間に、主人が料理を運び込んでくれた。
「そうそう、追加で伝えておくぞ。あいつらは一目散に逃げたから大した被害はないが、俺達市民は多数の被害、当然死亡者も多数いる。ここの主人も愛する家族を失って、店も大破した所から這い上がっているんだ」
状況を理解している主人は何も言わずに黙々と配膳し、部屋から出ていく。
扉が閉められると同時に、スミカは大きく息を吐く。
ようやく決心がついたんだろう。どちらの決心かはわからないが。
だが、あのような連中のなかにも善人がいるかもしれないなどと言う幻想は捨てて貰わないと、俺の真の仲間にはすることはできない。
スミカは俺の目をまっすぐに見つめると、心が決まった者、決意を持つ者の目をして結論を言い出した。
「ヘイロンさん、ロイドさん、そしてお付きの方。いかに私が甘い環境にいて甘い考えをしているかを思い知らされました。確かに突然ダンジョン内部で囮にされて死にそうになりましたし、そこまでできちゃう人達が改心なんかできないですよね。それに、仮に改心できる可能性があったとしても、それまでの行いで亡くなった方々、そして残された家族の方たちまで考えが至っていませんでした」
どうやら決め手はここの主人の話だったようだな。
「私、決めました。これからも迷ってしまうかもしれません。それでも、お互いの心をさらけ出して分かち合えるように、時には指導していただけるように頑張っていきたいと思います。こんな私で良ければ、よろしくお願いします」
スミカは、俺達の仲間になると決心してくれた。
「決心してくれてありがとう。一応伝えておくが、なにも俺は無差別に復讐対象を決めているわけではないぞ。確かに第三防壁内部の全員に対して恨みがあるのだが、ヘイロンが言った通り、力が無い者も多数いるだろう。実際に俺達を見捨てた者、障害になった者、確実に見下した実績がある者を優先する予定だ。だが、選定する余裕がない復讐方法になってしまうかもしれないがな」
「わかりました」
ヘイロンも頷いている。
よし、これからが本番だ。ヘイロンも含めて核心の話をしなくてはならない。
一応、スミカが俺達の仲間になる事を決心した場合に、ヘイロンを含めて六剣の話をすることはヨナには伝えてある。
少し緊張してしまった為、体に力が入ってしまい喉が渇く。
ヨナは状況を把握しているので、俺に飲み物を手渡してくれる。
思えば母さんが亡くなってから、こう言った細かい配慮をしてくれるヨナに随分と助けられてきた。
感謝してもしきれない。
そして、いよいよヨナ以外の信頼できる仲間である六剣所持者が増える可能性がある。
ヨナがくれた水を一気に飲み干し、俺は改めてヘイロンとスミカを見る。
「ヘイロン、そしてスミカ、これからもう一つ極秘事項を伝えなくちゃならない。ヘイロンには長い間俺や母さんのために動いてくれていたのに、秘密を作っていて本当に申し訳ないと思っている」
「はっ、何を言っているんだロイド。俺はな、お前の母親に命を救われたと思っている。極論を言うと、お前の母親の命を奪ってしまった要因になったとも思っているんだ。そんなお前が、俺なんかにそんな気持ちを持つ必要は一切ない」
ヘイロンの熱い気持ちに、俺とヨナは思わず頭を下げてしまった。
「おいおい、嬢ちゃんまで止めてくれよ。恩人たちにそんな事をさせたら逆に俺が居心地悪くなる」
「ふっ、そうだな。でもありがとう」
これから極秘事項である六剣の話をするのだが、随分と気持ちが楽になった。
「先に二つお願いだ。一つ目は、ありきたりで申し訳ないが、二人には俺とヨナのパーティーに入ってもらいたい。ヘイロンは長い間待たせて申し訳なかった」
「いやいや、何かしらの理由があるとは思っていたから問題ないぞ。それにロイドには嬢ちゃんが控えているから、ロイドの身の安全については心配していなかったからな」
ヘイロンから俺のパーティに加入したいと言われたことはない。
逆に俺からもパーティ加入の依頼をしたこともない。
中途半端に秘密が漏れる事や、六剣の使い手になる為の条件が整っていないと判断していたからだ。
だがようやく条件が整った。