ロイド一行、自慢しに行く
数日が経過した。第二防壁内の暴動は縮小傾向にある。
何故ならば、暴動を起こした側の体力がなくなってきたからだ。
すでに暴動の矛先は貴族の邸宅ではなく、王城・・・つまり第一防壁に向かっている。
しかし、所詮は普通の人に防壁を破壊するなどできるわけがない。
そして、その防壁内部の状況と言えば、こちらも雲行きが怪しくなってきた。
明らかに食事の量が減っているからだ。
「国王陛下、申し訳ないがもう少々量を多くしていただけないだろうか?十分な食事がないと、魔族との戦闘時に遅れをとってしまいますからな」
「「その通りだ」」
国王もこう言われる事を分かっていたのだろう。淀みなく返す。
「それは重々承知している。だが、その方らも我らの食事を見ただろう?王族である我らの食事よりも遥かに多い量をその方らに回しているのだ。これ以上は分配を変えることはできん」
冒険者達も、実際に目の前の食事の量は自分達の方が多かったので文句が言えなくなっている。
「これならば第四防壁にいる魔獣共を狩って食料にするか?」
魔族を倒した冒険者である魔導士のホルムンデとか言うやつが、偉そうに言っている。
だが、さすがに国王が現実を突きつけた。
「いや、それはできないだろう。数日前でさえ魔獣が溢れていたのだ。当然魔族も確認されておる。それでも行くならば我らとしては食料を得られるので助かりはするが・・・」
「む、であればやめておこう。万が一があっては困るからな」
「その方が賢明であろう。だが、第三防壁内部に少数の魔獣か魔族が侵入してきた場合は依頼するかもしれん」
「ああ、背に腹は代えられんからな」
魔族討伐を行って数日たったからか、討伐直後の自信満々な性格はなりを潜め、以前の見栄だけにこだわる性格に戻っていた。
「ロイド様、良い感じになってきましたな?魔族の方は動きを見せておりませんので、この状態であれば一月もすれば全員餓死です。しかし、それでは少々退屈です。ユリナス様を害した連中に更なる絶望を与えるために、ここで我らも動きましょう」
「お!良いじゃねーか。何をするんだ、テスラムさん」
ヘイロンは、母さんを害した・・・と言うテスラムさんの言葉に大きく反応した。
同じく、アルフォナとヨナも前のめりになっている。
スミカとナユラは通常通りだが、反対する気配なない。
「あと数日もすれば、第二防壁内部の面々はまともに動けるものはいなくなるでしょう。今でさえ緩慢な動きしかできていないのです。そして、王城については今の消費量から行けばその後数日に同じ状況になると言った所でしょうか?」
「俺もそう思うぜ。それでどうするんだ?あいつらに共食いでもさせんのか?」
ヘイロンが中々きわどい事を平気で言ってくる。
母さんが絡んでくると、ヘイロンの行動は見境がなくなって来る時がある。
「フム、面白いですな。それは考えておりませんでした。ですが、あの連中はこちらから何かせずとも、その程度は自発的に行動に移しそうではありますな」
怖い笑顔のテスラムさん。
だが、否定できない所がフロキル王国のクズ加減を表している。
「我らとしては、逆に食料・・・いえ、おいしい食事を彼らの前で悠々と食べるのですよ。修行の成果を見せる場にもなります」
「うん?どの辺が修行の成果になるんだ?」
不思議な事を言ったテスラムさんに、疑問を呈した。
だが、<六剣>所持者達は理解しているように見える。
周りを見ると、全員が緊張した面持ちになっているからだ。
「ロイド様、我ら<六剣>所持者はそれぞれの基礎属性を極めております。例えば、ナユラ殿の<光>であったとしても、極めてしまえば如何様にも使えるようになるのです。<光魔法>によって薄い膜を張ることで、防壁にもなります」
「ああ、そう言う事か。奴らの前で食事を見せつけて、万が一襲ってきても防御をする。その防御方法は<六剣>の力を使った物とすることで、修行の成果を見せる・・・と」
「左様でございます。そうですな。万が一相手を傷つける、若しくは防御が不完全であった場合は、その者には特別な修行メニューを行っていただきましょう」
「「ひぅ・・・」」
相変わらずの反応をするのはヘイロンとスミカだ。
「防御による力を見せることによって、我らが真なる<六剣>所持者と言う事を知らしめましょう。更なる絶望を目の前で見せるのです」
「それは良いが、なんで相手に傷をつけたらいけないんだ?」
多少傷をつけても問題ないように思えるんだがな?
まさかあんな連中に配慮したと言う事ではないだろう。
なので、思わずテスラムさんに聞いてしまった。
「力を調整する能力の中でも、抑え込みつつもある程度の力を発揮すると言うことが非常に難しいのです。まして我らが持つ力は超常の力<六剣>です。この力を完全に使いこなせるには、最大の力を使えることはもちろん、力の調整能力も必要になります。そのために、最小の領域での力のコントロールが必要なのです」
と言う事らしい。
確かに、抑え込んだ力を調整するのは非常に骨が折れるのは間違いない。
抑え込み過ぎてもダメ、抑えなさすぎでもダメなのだ。
上にも下にも調整が必要・・・丁度良い所で使うには、非常に高い能力が要求される。
確かにそう考えるとテスラムさんの言う通りだ。
「じゃあどうする?いつ行くんだテスラムさん?俺としちゃー早速行きてーんだがな。既に連中が弱っている第二防壁に行くのはどうだ?」
「頃合いは十分だと思いますが、如何なされますかロイド様?」
「俺としても、第二防壁に向かうのは賛成だ。だがヘイロン・・・良いのか?」
「あん?何がだ?」
「お前、能力の調整ができるのか??」
「ぐ・・いや、問題ない。あの修行を乗り越えたんだ。それに、この場を逃せば更なる絶望を与えることができねーじゃねーか」
なぜかスミカも汗をかき始めている。
どれだけの修行だったんだろうか??
だが、ヘイロンの確認もとれた。
「じゃあ、早速見せびらかしに行くとするか?」
早速俺の<空間転移>を使用して第二防壁内部に移動したが、念のため、人気のないところにしている。
だが、この少し先に行った所では、あのクズギルドマスターがいることはわかっている。
そして、その周りには商人・・・いや、既に盗賊と言った方が良いだろう面々が力なく地面に座っているのだ。
「では<六剣>所持者達、今回は奴らに見せつける意味もありますので抜剣する事を許可します」
「「やった(ぜ)!!」」
以前の話しでは、<六剣>の力を使う際にコントロールしやすいのは<六剣>を顕現させた状態であると言う事だった。決してあいつらに<六剣>を見せびらかせると喜んでいるわけではない。
なので、スミカとヘイロンの喜びは不思議には思わなかった。
六人が、柄についているそれぞれの属性を表す宝玉が一際大きくなっている<六剣>を顕現させる。
あまり力を開放すると完全防御になりすぎる上に魔族に気配を察知されてしまうかもしれないのて、当然力を落とした状態だ。
その状態の<六剣>を腰に差し、歩き出す。
それでも宝玉は光り輝いており、神なる力を宿した<六剣>は見ている者を惹きつける。
そのまま歩を進めクズ連中の前でヨナが机と椅子を出し、テスラムさんが湯気の立ちぼる出来立ての食事を並べる。
「それでは最初は・・・ヘイロン殿!」
「わかったぜ」
緊張した面持ちで<炎剣>を構えるヘイロン。
特に呪文を唱えるでもなく、赤くて薄い膜が俺達を覆った。
基礎属性を使っての防御膜で、中の様子を見ることのできる状態を維持させるのだろう。
クズ連中は、そんな<六剣>には目もくれずに食料を見つめ続けている。
俺達は椅子に座って世間話をしながら食事を口に入れようとしたところ、ようやくクズの一時的な親玉?らしくなっているギルドマスターが俺達を睨む。
その視線がかなり心地よく感じていた。