フロキル王国、兵糧攻めにあう
目が覚めて寛いでいると、既に修行に行かされていたヘイロン達が部屋に入ってきた。
少々涙目に見えるのは欠伸でもしていたのだろう・・・と言うことにしよう。
「お待たせいたしました。そろそろお昼時ですので映像をご覧いただきます」
「ああ、ありがとう」
再び映像に目を移す。
第三防壁内部には人はおらず、魔族や魔獣も来ていない。
人々は、一旦非難した第三防壁内部に戻る気はないようだ。
散々騒いだ片付けをある程度終えた頃なのだろう。少々汚れている部分はあるが、そこそこ奇麗にはなっている。
避難してきた人々は第二防壁内部の食事処へ、第二防壁の住民は食料を求めて商人が運営している売り場や食事処に移動し始めている。
だが、食料の売り場には商人は誰もおらず、当然食料等が売られていることも無い。
一方、食事処では怒声が聞こえている。
「私を誰だと思っている。伯爵であるぞ。何でもいいから今すぐ食事を作って持ってこい!」
所々の食事処は、宴会?の片付けを終わった段階だったらしく、店の扉は開いたままだ。
その状態を開店していると勘違いした面々が、あちこちで同じような文句を言っている。
その他の食事処は、開店すらしていない状態だ。
その為、扉が開いている・・・開店していると思われている店の数が少ないところに人が集まってしまい、余計混乱に拍車をかけている。
「ロイド様、これから面白くなってくると思われます。楽しみでございますな」
「そうだな。あの冒険者共はどこにいる?」
「彼らはいち早く第一防壁内の王城に移動したようです」
「クソ、そうするとあいつらが困るのはもう少し後か」
「ですが、そう遠い未来ではないでしょう。王城の備蓄もたかが知れていますからな」
となると、あの冒険者共が王族を脅すのは王城の備蓄が消え始めてから、つまり数日後と言ったところか?
少々悔しい思いをするが、もう少しの我慢だ。
いや、そんなに時間がかからないうちに、第二防壁の住民たちが第一防壁・・・つまり王族に攻撃するかもしれないな。
それに、第二防壁内部ではすでに不穏な空気が流れ始めている。
ここにいる高位貴族共は、近衛騎士を全て失っている。
あちこちで騒いでいる貴族に付き従っているのは、ただの使用人であり護衛ではない。
一方、第三防壁から避難してきた商人達は旅を経験している者が多い為、ある程度は戦闘経験があるはずだ。
護衛を雇っていたとしても、道中の魔獣対処の経験は一度くらいはあるだろう。
つまり、通常では決して見ることのできない高位の存在に対する反逆行為が行われる可能性が高いのだ。
常に俺達第四防壁の住民を見下してきた連中、そして、同じように自分より下の存在を見下し続けてきた連中が、その下の連中に良い様にされる。
中々粋な復讐だと思わないか?
思わず頬が吊り上がっていたのか、ヘイロンも同じような笑みを浮かべている。
「ロイド、楽しみじゃねーか。流石の俺でも今後は予想できるぜ。下に見ていた連中にあの貴族共はやられるんだ。もうすぐ、もうすぐだ!さんざん偉そうにしていた奴が泣きわめく様が見られるぞ」
「ああ、もうすぐだ」
映像では、貴族連中があちこちで喚き散らしている状態が映し出されている。
ある画面で、貴族が店の机をひっくり返して騒ぎ出した上に店主を殴り飛ばした。
「この愚図が、お前らはつべこべ言わずに食事を持ってくればいいんだ!」
「ですから、食料がないと言っているじゃありませんか!!」
殴り飛ばされた店主も、反論している。
「昨日までは大量の食料があっただろうが!早くしろ!!」
「その食料を皆で一気に食べてしまったので、残っていないんですよ!」
「貴様!まだそのような事を言うか!!それでは検分するぞ。万が一食料があった場合は・・・不敬罪だぞ!!」
不敬罪。つまりは死刑だ。
やはりこの国は変わる事がない、いや、変われる事ができないのだ。
店の奥に土足のままズカズカと侵入する貴族。
それを止めようと進行方向の前に回り込む店主。
「どけ。そこまで慌てていると言う事は、やはり食料を隠しているな?」
「バカ言ってんじゃねー。この先には俺の秘伝のレシピを書いた書物があるだけだ」
「それでは検分されても問題あるまい?」
貴族は、商人を左手でどかすと更に中に入り込む。
扉を開けると、店主の言っていた通り一面に書物のようなものがびっしりと並べられている。
店主の言う通り、食料が一切ない事を理解した貴族は舌打ちを共に急ぎ足で店を後にして自らの邸宅に戻り始めた。
邸宅の備蓄を確認しに行ったのだろう。
だが、昨日までの宴会?で自分の邸宅にある備蓄も出してしまっていたのを思い出したのか、邸宅に戻る途中で天を仰いでしまった。
「こいつ、散々暴れて謝罪もねーぞ。まぁ、第二防壁で店を構えているようなやつも同じレベルだから、謝罪することもねーがな」
「えっと、ヘイロンさん。この人空を見たまま動きませんよ?」
散々喚き散らしていた貴族の今の状態を見て、スミカが言った。
「そうだな。きっと喉を潤すために雨が降るのを待ってんだろうな」
「そんなわけないじゃないですか。いくら私でもそれくらいはわかりますよ」
くだらない二人の会話をよそに、いよいよ他の店では暴動が起こり始めた。
さっきの貴族は検分と言う名の軽い家探しだったが、他の貴族共はそうではなかったようで店で暴れ始めたのだ。
「おいおい、こいつら昼飯がなくなった程度で騒ぎすぎだろ」
「ですが、お昼を抜くだけではなくて食料がない事実を突きつけられているので、焦っているのではないでしょうか?」
「ハハ、わかってるよスミカ」
同時刻、王城では普通に王族とあの冒険者三人が昼飯を食べている。
残り少ない備蓄をありったけかき集めたので、数日は普通に食事をして問題ない程度の食料があるようだ。
冒険者共は第二防壁の惨状を見ていないので、今まさにこの時に食料危機が訪れているとは思ってもいないだろう。
だが、この場にいる王族連中は違う。
事情を理解したうえで貴族の少ない備蓄を奪ったのだ。
「流石に飲み過ぎたな。今日はそれほど食欲がわかない」
「「私もだ」」
そう言いつつ、出された食事に殆ど手を付けていない冒険者共を射殺さんような目で見ているのがその証拠だ。
わずかな食糧が目の前で無駄にされているのだから、そうなるだろう。
だが、冒険者達は一向に気が付く気配がない。
そんな不穏な空気を醸し出している昼食は終わった。
だが、第二防壁の喧騒は収まるどころか激しさを増している。
防壁内部にある畑は既に完全に荒らされていた。
実はこのクズ国王、備蓄をかっさらった後は魔族からの脅威に対抗するため、そして万が一第二防壁からのクレームを排除するために、第一防壁の門を固く閉ざした状態にしている。
第一防壁は最も堅牢な防壁であるので、あの魔獣程度ではそうそう超えてくることはできないと言う優れ物だ。そこだけは認めよう。
そんな防壁に遮られてしまえば、第二防壁内部の喧騒など聞こえて来るわけもない。
そして、そのまま一見穏やかな日常風景にも見えなくもない第一防壁内部の一日は終了した。
だが、第二防壁の喧騒は暴動になり始めている。
貴族の邸宅に、商人や、あろうことかギルドマスターまでも加わって襲撃したのだ。
すでに近衛騎士のいない貴族など彼らの敵ではなく、かなりボコボコにされている。
「この・・私を・誰だと・・・」
「うるせー、散々威張り散らしやがって。お前らこそ食料を隠しているんじゃねーか?」
「こいつら無駄に財宝蓄えていやがるからな。丁度いい、この際だから俺達が有効活用してやる」
「や・・やめろ・・・」
ドカ・・・
多数から攻められて貴族は気絶した。
誰も助けようともしないし、むしろゴミが減ったと喜んでさえいる。
俺から見れば、お前らも等しくゴミだがな。
まるで盗賊だ。だが、そんなことをしても食欲が満たされるわけもない。
ざまあみろ!