まさかの魔族撃退
フロキル王国第三防壁内部にいるSランク冒険者三人と、最上級魔法による燃え盛る炎によって大ダメージを受け続けている魔族。
冒険者達は魔力切れから動きが相当鈍くなっているが、目の前の魔族の状態を見て勝利を確信したようだ。
「これで一先ずは安心か。流石の私もこれ以上の攻撃はできないし、攻撃を受けることもできない」
「我らも同じだ、だが、貴殿の攻撃は素晴らしかった」
本当に少しづつではあるが自然回復により魔力が回復し始めている冒険者達は、炎に包まれて倒れてしまった魔族をよそに第二防壁方面へ移動を始める。
残念ながら、この魔族はここまでの様だ。
進化して間もない魔族であったために大した力も持っていなかったので、今回はこれで良しとしておこうと思う。
「貴殿へSランク冒険者二人分の魔力を譲渡すれば魔族は討伐できることが証明できた。あの攻撃を魔獣の群れに放てば、奴らを一掃できるのではないか?」
「いや、それは無理だ。あの攻撃は一極集中型なので、広範囲に広がっている敵に対しては無力だ」
「しかも、我らレベルの魔力を持ち、譲渡する技術がなければ実現不可能だろうな」
一瞬この状況が打破できるかもしれないと思っていただろう冒険者達。だが、現実を改めて認識すると容易にこの状況は改善することはできないと言う結論に達したようだ。
「とすると・・・今後はどうする?第三防壁内部には魔族に進化した個体は容易に侵入できることが証明されてしまった。そう遠くない未来に魔族が再び襲来するだろう」
「個体数が少ない場合は、各個撃破することはできるはずだ。だが、複数の魔獣相手の戦闘となると連携がとられてしまい、魔族を一気に旬滅することは私の攻撃では不可能だ。更に、連戦になると魔力が補充されない限りあの魔法を発動することはできない」
「あれほどの魔法だ。詠唱時間も隙になるな。第三防壁内部に少数侵入した場合にのみ討伐に赴き、基本は第二防壁内部で待機とするのが現実的か?第二防壁であれば、魔族と言えどもそう易々と侵入することはできまい」
話しながら第二防壁内部に到着すると、第二防壁上部から見ていたであろう面々から情報を得た人々から大歓声を送られる三人のSランク冒険者達。
「フッ、私の最大の攻撃によって魔族を討伐したことを知っているようだな」
「悔しいが、貴殿ほどの集中的な攻撃は私にはない。次回も魔力譲渡で協力させていただくとしよう」
「うむ、私も魔力譲渡で貢献させていただく」
「ではその時はまたお願いしよう」
実際に<炎魔法>の最上級魔法を放った冒険者は、得意満面に第一防壁に向かって歩を進めている。
「こいつ、他人の魔力を使ってはいたがそこそこの攻撃ができるんだな。だが、調子に乗っていやがるから、他の二人の冒険者に逃げられてるのに気が付いてねー」
「どう言う事ですか?」
「うん?わかんねーかスミカ?他の二人の冒険者も、他人の魔力まで使用できりゃ魔族に対して何かしら有効な攻撃手段はあるはずだ。だが、敢て一人の冒険者に攻撃を押し付けた。万が一の時に逃げられるようにな」
「そうだったんですか。そっか、魔力譲渡を魔族から離れた位置で行っておけば、自分は安全地帯にいられますからね」
「そう言う事だ」
気を良くしている魔族討伐を成し遂げた冒険者は、残りの二人の冒険者がヘイロンの読み通りの考えをしているとは一切思っていないように見える。
だが、ヘイロンの考えは正しいだろう。あいつらの表情を見れば、いやでもそう思えてくる。
実際にどうなのかは、次回の魔族襲来時に判明するはずだ。
今現時点で、第三防壁内部には誰もいない。魔族すら完全に死亡している。
そして、冒険者達は途中から馬に乗って第一防壁を目指している。
ここまで騒がしいと、さすがに魔族襲来と撃退の報は国王に届いているはずだ。
王城に到着した冒険者達は、慣れた様子で謁見の間に向かう。
その途中でも、城内にいる貴族を含む面々から大英雄のような扱いを受けており、表情がかなり緩んでいる。
謁見の間に到着すると、国王、そして傍に控える宰相と近衛騎士隊長も満面の笑みで冒険者達を迎える。
「此度は、第三防壁にまで侵入してきた魔族討伐、実に天晴である。第三防壁外周を囲っている魔族も討伐できそうか?」
「いえ、私の攻撃は一点集中型ですので、広範囲に散らばっている魔獣共を一掃することはできません」
残りの二人も、申し訳なさそうな表情で頷いている。
「そうか。であれば、今後も万が一第三防壁に魔獣や魔族が侵入した場合には防衛を命じる。何れは諸外国が異常を察知して魔獣の群れの外側から攻撃を仕掛けることになるだろう。その時に、我らも魔獣の群れの内側から全戦力をもって打って出る」
「「「承知いたしました」」」
「以前のフロキル王国に戻った時点で、その方らの第二防壁居住を許可しよう」
「「「ありがたき幸せ!!」」」
傲慢の国、フロキル王国では、第二防壁に住むのは貴族である事を意味する。
つまり、上級国民だ。そこに住むと言う事は貴族になれると言う事なので、三人は嬉しさをこらえきれていない。
この状況が改善することは無いんだがな・・・浅はかすぎて失笑するレベルだ。
「今日は疲れたであろう。王城にて休むと良い。今後の事も考え、この緊急事態の間はその方達は王城に住むことを許可しよう」
最大の賛辞と褒章と思わせるようなセリフだが、国王自らの近衛騎士部隊も隊長だけを残して全滅しているため、自分の身の安全を守れるだけの戦力を近くに置いておきたいだけだ。
こいつらはそういうやつの集団なのだ。
「国王陛下にお願いがございます」
魔族を討伐した冒険者が真剣な表情に変わった。
「今回は一匹の魔族を討伐するために全魔力と、ここにいる二人のSランク冒険者の魔力を全て使いました。つまり、今後魔族を討伐する時には三人分のSランク冒険の魔力が必要になると言う事です」
「そこまでの力でないと倒せないのか。だが、他のSランク冒険者や近衛騎士達が全滅したのだからそうなのであろうな」
「そこで、もし魔力回復薬がありましたら、私共にいただけないでしょうか?今後襲来する魔族が単体とも限りませんので、自然回復では連戦が不可能なのです」
「そうしたい所ではあるが、最高級の回復薬は今この王城には存在しない。だが、少々品質が劣るがそこそこの効果がある回復薬は準備させよう」
国王は、近くにいる宰相に高位貴族から回復薬を全て徴収するように指示を出した。
高位貴族としても、自分を守ってくれる者へ渡すのだから文句は言ってこないだろう。
やがて、三人の冒険者達はそれぞれに与えられた部屋に行くと、眠り始めた。
「ロイド、正直予想外だぜ。まさかあんなに弱っちい魔族であっても討伐されるとは思ってもみなかった」
「ああ、だが問題ない。状況は悪化するばかりで改善などするわけはない。奴らは外部からの救出を待っているようだが、それも有るはずがないしな。むしろ、長期的に苦しんでくれるのだから喜ぶべきだろう」
翌日、そんな俺達の思いをよそに第一防壁内部と第二防壁内部では祝勝会が行われている。
魔族討伐の英雄であるゾルドン王子や近衛騎士達の敗戦は知っている国民だが、新たな英雄が現れたので、喜びに溢れている。
こんな状況なので、大量の食事やお酒が振舞われている。
もちろんこの国には一般の国民・・・平民はいない。なので、備蓄すらも開放した大宴会と言ったところだ。
緊張感のない奴らだ・・・この宴会を行ったことでより危機的状況になった事に気が付いていない。
今日も、もう一話投稿させて頂く予定です。