スミカとヘイロン
一文無し、そして計画無しを言い当てられたスミカは下を向いて微動だにしないが、暫く硬直した後に突然顔を上げて、
「おっしゃる通りです。お恥ずかしながら・・・。それで、命の恩人に厚かましいお願いとは重々承知しているのですが、・・・」
「良いぞ!!」
「もしよければ、私も・・・えっ?いらないぞ!!・・・ですか?そうですよね、こんな右も左もわからないような・・・」
「いや、良いぞと言ったんだけどな」
「??あの、私最後までお願いを言いましたっけ?」
「そんなの言わなくてもわかるだろ?一緒に行動しよう・・・だよな。だが、いくつか俺達に関する秘匿事項を話さなくてはいけなくなる。さっきのギルドの扱いを耐えている理由にもなるんだがな。当然秘匿だけに重い話があるし、きっと優しいスミカには受け入れられない話もあるだろう。なので、少々重い話だけを先にさせてもらう。そして、その時点でついて行けないと思ったら別行動をすれば良い」
「そこまで配慮していただいてありがとうございます。あの、そちらの方は私なんかが同行させて頂いても良いのでしょうか?」
「ロイド様が良ければ、私は何の問題もない」
やはりヨナはこの娘を気に入っている。
話し方が敬語でなくなっているのがその証拠だ。
あ、俺には常に敬語だけど、きちんと敬ってくれているからなので安心してくれ。
「とりあえずは、宿に行くか。そこで飯でも食いながら話そう。あそこは状況に応じて配慮してくれるから秘匿の話もできるし、飯もうまいぞ!!」
「ありがとうございます」
そう言って、宿に戻るとヘイロンが席いた。
「よう、ロイドにヨ・・・いや、嬢ちゃん。待ってたぜ」
スミカがいるので、ヨナの名前を呼ぶのを避けたのだろう。
もちろんここの主人も同じように対応してくれることは知っている。
ヨナの所持スキルに<隠密>があることを知っており、そのスキルで俺を護衛している事も当然知っている。
なので、名前を第三者に知られたくない事も理解しているので配慮してくれているんだ。
「よう、ヘイロン。待たせたか?」
「いや、そうでもないぜ」
このヘイロン、年は俺より少々上で27歳。ちなみにヨナは俺の16歳よりもほんの少しだけ上だ。
だが、ここで明らかにしてしまうと俺の命が終わるので、秘密にしておこう。
「実は今日、俺達がダンジョンで依頼遂行中にどこぞのAランク共に誘われて、そいつらに同行したこの娘、スミカが置き去りにされたんで助けたんだ。その流れで俺と同行する事を希望しているから、ある程度事情を話そうと思ってな」
「そうか」
ヘイロンは、俺達の事情は知っている。あの時あの場所にいた当事者だからな。もちろん俺が復讐を計画していることも知っている。
彼はその協力者だ。
だが、彼にも<基礎属性>の六剣についての話は一切していないし、パーティー勧誘の話もしていない。
なぜならば、もしパーティーを組んで六剣についての秘匿事項がばれたとしよう。いや、同行していれば何れはばれるだろう。
その時に、ヘイロンも六剣の所持者になれるとは限らない。
いや、俺がこれだけ信頼を置いているから大丈夫たとは思うんだが。
しかし、問題は更にあって、俺の初期状態と同じようにあまりに地力がないと六剣の力を使いこなせずに体にダメージが来る。
未だに無剣を使いこなせていないが、無剣は最強の剣だけあって色々な能力が高いのか、俺の体に対して致命的なダメージになり得る機能は今の所解放されていないようだ。
残念ながら他の六剣にはそんな完璧親切設計機能はついていない。いや、正確には六剣毎にそれぞれ癖があり、優しいパターンの剣もあるらしい。
だが、ほぼ全ての六剣は、自らが制御するしかないのだ。
これはメモにもあったし、ヨナ一族にも口伝で継承されている。ヨナも身をもって体感したという事だ。
つまり、資格があっても地力が無い物が六剣を所持して力を使うと、場合によっては自ら得た力で自らを滅ぼす可能性があるという事だ。
例えば強力過ぎる攻撃をした反動に耐えられない大怪我等だろうか?流石にそこまではメモにはない。
そうそう、それと優しい六剣は闇剣ではないのかもしれない。
どの剣が所有者に対して優しい剣なのかは書かれていなかった。
この記載は、メモ、いや、メモと言うよりも本の初めの方に書かれていたので初代が記載したのだろう。
書く事がありすぎて、詳細までは書けなかったんじゃないだろうか。
今回スミカに水剣の所持者になってもらおうと考えたのは、水剣だけは<回復>が特化スキルになっており、体にダメージがあっても自ら<回復>できるから、少々無理をした修行も可能だからだ。
ひょっとすると、初代はこの事を言っていたのかもしれないな。
あの本にもその辺りの事が書かれていたが、この場所で復讐を狙っている俺は行動範囲が狭く、水剣に相応しい人材と相対することが皆無だったために先送りしていて、自ら<回復>を得ようと躍起になっていた部分がある。
もし、俺達に<回復>スキルが高レベルであるか水剣所持者がいた場合には、ヘイロンは今頃炎剣を使いこなせていただろうと思っている。
「じゃあ、あの話をするんだな?」
そう俺達に確認してきたヘイロンは、俺が頷くのを確認すると即座に席を立ってカウンター越しに主人と話をしている。
個室を使うと伝えているんだろう。
ヘイロンは戻ってくると、思った通り個室に向かって俺達を先導する。
室内に入りドアを閉めると、外の音は聞こえなくなる。つまり逆に中の音も外に聞こえないという事だ。
正直、ヨナの<隠密>スキルであれば容易に聞くことはできるが、こんな場所に高レベルの<隠密>がいるわけもないし、逆に近くにいればそれこそヨナが気が付く。
そこまではヘイロンは理解していないので、声を落として俺の事情をスミカに話始める。
実は俺が王族である事、王族とは縁を切っており、むしろ憎みあっている事。
他の王族は実の兄弟姉妹ではなく、あいつらはの極悪非道な所業を平気で行っている事。
そして母さんとの事・・・。
母さんの話になった瞬間に、ヨナは俺にしか気が付かないレベルで少しだけ下を向いた。守り切れなかった思い、敬愛する人がクズの身代わりになってしまった悔しさ、色々な事が思い出されているのだろう。俺も同じだから良くわかる。
そして、一連の話が終了して俺が続きを話す。
「今ヘイロンが話してくれた通り、ギルドでの扱いもそうだがこの国は市民を除くと腐りきっている。つまり第三防壁以内・・・騎士・商人が住んでいるエリアから中央側の住民は碌なやつはいない。母さんが死んだのもあいつらのせいだと言える。特に王族は滅亡するべきだ」
一呼吸おいて、自分の中から湧きがる怒りの感情を抑える。
「そこで俺は復讐対象を二つに絞った。一つ目はあの魔族に連なる者達。あの魔族に命令を下した上級の存在である悪魔がいるはずだ。そして二つ目がこの国の市民以外のクズ共だ。最大の復讐対象である悪魔は探すのが困難だ。なので、母さんを襲った魔族が戻らない事を怪訝に思ったやつらが来るのを網を張って待っているところだ。あいつらにしたら10年20年はあっという間だから、気長に待ち続けて最早10年以上になるな。そしてその悪魔を場合によっては利用するが、第三防壁以内の連中にも復讐をする予定だ」
きっと想像よりもかなり重い話だったのだろう。瞬きすら忘れて俺の話を聞き続けているスミカ。
「ざっと重い話だけをさせてもらった。どうだ?はっきり言って異常だろう?国と悪魔に喧嘩を売ると言っているんだ。正直失敗すれば悪くても死罪、悪魔に拉致されることも考えられる。そんな状況の俺達について来るメリットよりもリスクの方がかなり高いと思うがな・・・だが、スミカとしては置かれている状況では俺達から離れ辛いだろう。なので、ここで袂を分かつのなら金貨50枚を渡そう。これは口止め料も含めているから遠慮することはない」
金貨50枚と言えば、一人で節約すれば一年は余裕で暮らせるだろう。
そうして、俺達と同行しない選択・・・出て行っても当面の問題がない状況にして彼女の本心を知ることにした。
ヘイロンも、何も言わずに状況を見守っている。
彼は、この状況を把握したうえで俺達に協力してくれているんだ。
スミカはどうだろうか?
ヨナも黙ってスミカを見つめている・・・