国王唖然とする
突然勢いよく開かれた扉。
通常は不敬の極みだが今は緊急事態であるために、至急の伝令などは即報告でいるようになっているので問題ない状況だ。
「陛下、申し上げます。我が騎士が魔獣を順調に討伐しておりましたが、突然魔族が現れました。あの魔族には今の我らでは太刀打ちできません。Sランク冒険者の面々も、現在は魔力の回復中です」
「む、戦況は好転したと聞いているが?」
「あの魔族が現れるまではその通りです。ですが、このままでは押し切られる可能性が高いでしょう。是非宝物庫のアイテム使用許可をお願い申し上げます」
「それほどか。だが魔族が現れてしまっては止むを得まい。ここで迷っているようでは、国主とはいえん。良いだろう、国宝を放出するのだ。魔族を含めて魔獣共を確実に全滅させろ!」
この場にいるクズ兄の顔色が面白いことになっている。
「おいおい、このクズ見ろ!!面白くなってきた。本当に面白くなってきたじゃねーか。なんだこの顔色。薄汚れたゴブリンみたいじゃねーか。いい気味だぜ」
「ああ、クズ兄のこんな表情が見られて楽しいのは確かだな。だが、この国王の自信・・・このアイテムにそんな力があるのか?」
既にあの国の宝物庫の中身は、根こそぎ俺達が持っている。
全員で分けた状態で持っているのだが、俺が持っているアイテムにはある程度の力はあるが、驚くほどの力があるわけではない。
「ロイド様、<六剣>そして<無剣>と比較してしまうのでそのような感想になってしまうのです。思い出してください。あの王子でさえアイテムの力を使って魔族を討伐できたのですぞ」
「そうだったな。とすると、この近衛騎士隊長はその威力を知っていると言う事か」
「そうなりますな。ですが、今回Sランク冒険者達が優勢になったと聞いたので、使用しない選択を取ったのでしょう。愚かとしか言いようがありませんな」
「まぁ良いじゃねーか。おかげでこっちは楽しめるんだ」
そう言って、ヘイロンを始め全員が改めて謁見の間の映像に目を落とす。
「では、国王陛下!今、なおこの時も我ら近衛騎士は必死で戦闘をしております。一刻の猶予もありません」
「相分かった。ついてまいれ」
国王と近衛騎士隊長は速足で謁見の間を出ようとする。
だが残念、既にお前らの近衛騎士連中は一掃された後だ。まったく間に合っていないぞ。
映像には、クズ兄はどす黒い顔色をしながら一歩も動けずにいる状況が映し出される。
「ゾルドンよ、どうした?緊急事態故、お前にもアイテムを授けよう」
「は、はっ!ありがたき幸せ」
動揺しつつも、先を急ぐ近衛騎士隊長と国王の後を慌てて追いかけるクズ兄。
急ぎ足の為、あまり時間がかからずに宝物庫の前に到着する。
「ダメだ、苦しくなってきた。なんだこいつ!!生まれたての小鹿かよ??スミカもそう思うだろ?グハハハ」
「フフフ、そうですね。本当に情けないですね」
「潔く自らの罪を認めるのも、騎士道精神だ。だが、こやつにはそのような事はできないだろうな」
クズ兄は、どす黒い顔はそのままに、震えが抑えられないようだ。
国王が、宝物庫を解錠して扉を大きく開ける。
すると、中には広い空間があるのみだ。
いや、あの宝物庫は本当に大きな部屋だった。この映像を見て改めて思い出したほどだ。
映し出された映像は、部屋の中身とあいつらの表情が両方わかるように映されている。
「ギャハハハ、テスラムさん!素晴らしい!!素晴らしいじゃねーか?この呆然とする様と空っぽの巨大な空間!!両方を同時に見られるなんて、なかなか笑いを引き立ててくれるな!!」
「な、これはどういうことだ!!なぜ何もない!!!鍵が壊された形跡はなかったぞ!!」
慌てふためく国王。
「ば、バカな!!これでは騎士達を救えない!!」
「いや、それだけではないぞ騎士隊長!万が一第二防壁まで破られてみろ!!抵抗する術が何もないと言う事だぞ!」
流石は国王。ある程度は状況を理解しているな。
そうでなくては、絶望の表情を見ることができない。
ゾルドンは、改めて一切の宝がなくなった巨大な空間を改めて見て立ち尽くしている。
「く、こうなっては仕方がない。この緊急事態で犯人捜しをしている状況ではなくなっている。ゾルドン!貴様今すぐ騎士達を助けに行け。一旦第三防壁内に避難させろ」
「わ、私がでございますか?」
どす黒い顔を更に悪くするクズ兄。
自分の力を増幅させるアイテムもなく、隻腕の状態で魔族討伐などできるわけがない。
死にに行けと言われているのと同じだ。
「グハハハ!いい気味だぜ、こいつ自身のアイテムは全部ないんだよな?本当の実力であの魔族を始めとした魔獣共の討伐か・・・もって数秒か?」
ヘイロンの言う通りだ。
「お待ちください国王陛下。私は既に魔族を討伐した上に、騎士を守るべく無理な戦闘をしたために隻腕になっております。このような状態では、魔族ではなく魔獣にすら遅れをとってしまいます」
「黙れ!貴様が隻腕になったのは実力が不足していたからだ。だが現状を嘆いていても仕方があるまい。隻腕でも英雄の力を奮えるこの機会を活かさずなんとする」
相変わらず無茶苦茶な理論だな。
だが、そんなことは当の本人が嫌という程わかっているので、このまま進むわけはない。
「そ、そんな・・・私に死ねと言うのですか?」
「そんなつもりは毛頭ない。貴様の実力をもってすれば魔族討伐などたとえ隻腕でも問題ないだろうと思っているのだ。これは、貴様に対する信頼の証だ」
自分にこの不幸が降りかかってこなかった近衛騎士隊長は、ここぞとばかりにクズ兄を焚きつける。
万が一クズ兄が出撃しなければ、自分が行く羽目になるのだから必死だ。
「陛下の信頼を勝ち得た今、全力をもってその期待に応えるべきです。今以上に陛下に忠誠を示せる好機はございませんぞ。我らが近衛騎士部隊も前線で英雄の到着を心待ちにしております。さあ!魔族討伐の英雄たるゾルドン王子よ、奮い立つときです!!」
「ブハハ、こいつ、一目散に逃げだしたくせに随分と立派な事を言うじゃねーか」
「クッ、こんな奴の下にいたことがあるなど・・・自分が許せなくなってきた」
「アルフォナさん、あなたはこんな人達とは全く違います。自分を責めるようなことは言ってはいけませんよ?」
「う、申し訳ないナユラ殿」
映像の向こうでは、魂の抜けたような顔をしているクズ兄は反論する気力もなくなっているようだ。
騎士隊長に本当に背中を押されて宝物庫を後にする。
まるで罪人を引き連れた騎士のような見栄えのまま、第三防壁までやってきた。当然国王はこんな所にまで来ることなどは絶対にない。
近衛騎士隊長は、防壁上部に陣取っているSランク冒険者達に向かって大声で叫ぶ。
「宝物庫の中は、なぜか空になっていました。ですがご安心ください。魔族討伐の大英雄であるゾルドン王子が助っ人に来てくれました。今門の周辺に奴らは来ていますか?」
宝物庫の中身がないと聞いて動揺をしている冒険者達だが、聞かれたことには答えている。
「ああ、まだこの近辺には来ていないがこのままでは時間の問題だろう」
「では王子、我ら近衛騎士が待っておりますぞ」
そう言い、門の近くで待機している商人に開門させ、文字通り背中を押し出してクズ兄を死地に連れ出す。
もちろん自分は即第三防壁内に戻り、すかさず閉門する。
この速さだけは立派だ。
近衛騎士隊長は、防壁近辺の魔獣を一気に始末した実力を持っているSランク冒険者達に急いで近づき、防壁の上に到着した。
「な、なぜ騎士の姿が見えない!」
「あいつらは、お前がこっちに来て間も無く全滅したぞ」
「そんな馬鹿な、なぜあなた方は助けなかったのだ?」
「ふざけんなよ!俺達はさんざん魔力を消費して大量の魔獣を討伐した。そんな魔力不足の状態で、遠距離攻撃などできるわけがないだろうが!」
想定通りの醜い争いを始めてくれた。
本当の地獄はこれからだ。クズ兄、騎士隊長、そしてSランク冒険者もな。
そのあとは、第二防壁内部のクソ貴族どもだ。