王都に希望が見える
「フン、こいつらは本当に救いようだないクズ共だ。あのSランク魔導士・・・なんて言ったか?ホムンクルスだったか?・・・」
「ホルムンデですよ、ヘイロンさん」
思わずと言った感じで、スミカが訂正している。
「良いじゃねーか細かいことは。あんな使用人が話しかけた時に呼んだ名前なんぞ、憶えてられねーよ」
俺達は、第三防壁上部から攻撃を仕掛けていたSランク冒険者のうち、魔導士であるホルムンデと言う冒険者が映されている映像を見ていた。
彼の行動を見るに、使用人に真実を告げぬまま第一防壁に囲われている王都に避難、そして王都が危険にさらされれば転移魔道具で国外に避難する予定なのだろう。
同じように、体の何れかに魔道具を着けた連中が王城のとある控え室に集まってきている。
あそこの国のクズ共は、皆考えることが同じなようで助かる。
全員が違った行動をされると対処が面倒くさいのでありがたいと言えばありがたいが、腐った一面のみを見させられ続けている俺達としてはうんざりしている。
「ロイド様、彼らは行動が読み易くて非常に助かりますな。今有効な転移魔道具を持っているのは、あの控え室に全員集まっております。<空間転移>であの場所に移動してヨナ殿の<闇魔法>で一旦意識を刈り取り、ナユラ殿の<浄化>で魔道具の機能のみ破壊致しましょう」
「そうするか。自らが危機的状況になった時に最後の頼みの綱である魔道具が起動しない。その状況を想像するだけで満たされる気持ちになるな」
「ヨナ、ナユラ、頼んだぞ」
二人と共に、<空間転移>で控室に転移する。
既にヨナの<闇魔法>による認識阻害で、Sランクと言われている冒険者の最高峰でも俺達の侵入に気が付いた気配は一切ない。
侵入と同時にヨナが放った<闇魔法>によって一瞬意識を飛ばしたこの場のクズ連中、その隙に未だ<六剣>に完全に慣れていないナユラは<光剣>を顕現させて<浄化>をおこなう。
瞬間に魔道具の機能のみが破壊されて、俺達は離脱する。
「相変わらずはえーな。行ったと思ったらもう戻ってきた」
「いや、作業自体は簡単だったし、移動も転移ができたからな」
彼らの意識は一瞬だけ飛んだので、誰も異常を感じ取ることはなく作業を終わらせることができた。
すると、王族の近衛騎士が控室にいる面々を謁見の間に連れて行く。
「良く集まってくれた。キュロス辺境伯が出陣したと思われるのだが、状況は刻一刻と悪化するばかりだ。それに我がフロキル王国が誇るSランクの冒険者達の攻撃でも、大した成果は得られなかったようだな」
流石に非常事態であるので、情報収集部隊を王都内に放っているのだろう。
Sランク冒険者を代表して、ホルムンデが答える。
「我らSランクと言えども、少々実戦から遠ざかっておりましたので威力の調整がうまく行きませんでした。もう少し実戦で感覚を取り戻せば、あの程度の魔獣の群れは瞬く間に排除してご覧に入れます」
「そうか、成程。お前たちはそのためにこの王城に集結したという事か?」
「はい、出撃の報告をしようとしていたところです」
ホルムンデとか言う冒険者は、若干冷や汗をかいている。
「ギャハハ、面白くなってきやがった。こいつは自分の首を自ら絞めていやがる。それに、犠牲じゃないが周りにいるSランクと言われている冒険者共も道連れだな」
「ああ、今までの成果があったのでSランクになったのだ。そのまま地位に溺れずに研鑽を積んでおけば、あの冒険者が言った通りあの程度の魔獣の群れなど敵ではなかったはずだ。鍛錬を怠り、騎士道精神を忘れた者の末路など、あんなものだ」
と同時に、王城の控室にいた商人達にも謁見の間で国王から声がかかる。
「その方らは、討伐に必要な資源を提供するためにここに来た。そうだな?」
「その通りでございます」
慌てた様子で商人たちは収納の魔道具から魔力増量のアイテムや、防御力増加のアイテム、そして攻撃力増強のアイテムなど、かなり貴重なアイテムを惜し気もなく取り出した。
「こいつら、中々気前がいいじゃねーか。あの時にこれくらいの気前の良さがあれば、ユリナス様は・・・」
「ヘイロン殿、こやつらは安全のためにここにいた等とは口が裂けても言えない状況になっております。突然国王より王城にきた理由を問われてしまったので、止む無く慌てて貴重な資源を提供しているのでしょう」
「まあそうだろうな。具体的に資源を提供するように圧力をかけられているしな。ざまーねーぜ。だがテスラムさん、あいつらが今提供した魔道具以上の物資を隠し持っているなんてことはないよな?」
「私が知る限りではないですな。よほど焦っていたのでしょうか、かなりの高品質のアイテムを提供していますな」
実際に商人は、アイテムを国王の前に提出した後に下を向いて若干悔しそうな表情を見せている。
下を向いているので、国王側にはその表情はばれていないが・・・
「では、Sランク冒険者達よ!見事魔獣達を討伐して見せよ。この商人達から提供されたアイテムは自由に持っていって構わん」
「お任せを!!」
Sランク冒険者達にしたら自分が必死で抵抗した実績にもなるし、いざと言う時には転移で逃げる算段だ。
その際に、貴重なアイテムのオマケ付であるならば願ってもない状況だろう。
決してそうはならないが・・・
喜々としてアイテムを選定しているSランク冒険者達。
「こいつら、本当は全部のアイテムを掻っ攫って行きてーんだろうな。だが、国王の前でいつもの通り醜い醜態を繰り広げるわけには行かねーから大人しくしつつも、有用なアイテムは全て持っていこうとしている・・と」
「王族だった者として、臣下にのみ危険を押し付けるのは許せません。やはり一度この王族一同腐った部分は完全に排除する必要がありますね」
やがて、Sランク冒険者達はアイテムの選定が終わったのか、謁見の間を出ていく。
王族直下の情報部隊が展開されている事を知っている彼らは、一応第三防壁に向かって歩を進めている。
アイテムの性能を試す程度に戦闘は行うつもりだろう。
そして、貴重なアイテムが並べられていた場所に一つもアイテムが残っていない惨状を見た商人は、絶望の表情を浮かべていた。
「良い表情じゃねーか。だが、まだまだこんなもんじゃねーぞ。今は命の危機を感じていないようだから、真の絶望なんかじゃねー。間もなく本当の絶望を味合わせてやる」
一方、第三防壁の上に再び現れたSランク冒険者達。この場には各貴族の近衛騎士や王族の近衛騎士の一部も集まっている。
あくまで一部だけだ。
互いに協力して魔獣を討伐するために集まっているのではなく、抜け駆けをしないように互いが互いを監視しているだけの面々だ。
そんな中に到着したSランク冒険者たちの一行。
手には見たこともないような高品質のアイテムを多数持っている。
騎士達からは期待の目で見られているSランク冒険者達は、早速アイテムを使用した試し打ちを始めることにしたようだ。
自らが所持しているレアドロップの武器に加えて、商人から合法的に手に入れたアイテム。
この二つを組み合わせて、攻撃の準備を始めている。
ホルムンデとか言う魔導士は呪文を唱えて魔力を練り、投擲用のアイテムに力を込めている。
魔力を十分に貯める事ができている投擲用のアイテムを手に持つと、再び呪文を唱えてレアドロップである自分の武器に力を込める。
やがて、二つの武器に力を溜める作業を終えたホルムンデは、投擲用のドロップを魔獣の群れに投げつけると、今だ地面に到達していない状態のドロップに対して、二つ目の武器から魔法を発動して攻撃した。
すると、投擲されていたドロップに魔法が着弾し、辺りにいた魔獣を根こそぎ瞬滅することに成功した。
「流石はSランク冒険者であるホルムンデ様!」
騎士達からは、希望の視線を投げかけられている魔導士。
本人も、想定以上の威力が出ていたことに満足したのか気を良くしている。
「はっ、そこそこの威力だが、あの投擲の魔道具があとどれほどあるかだな」
「ヘイロン殿の言う通りだ。しかもあの程度で慢心するようでは騎士道精神が足りん」
確かにそこそこの威力であり、あの攻撃を連発し続ければ魔獣の数は一気に減らす頃ができるだろう。
だが、本人の力不足のせいか投擲のアイテムの飛距離もないし、ヘイロンの言う通り魔道具の数にも限りがあるだろう。