フロキル王国、現実を理解し始める
「では皆の者、一旦王都内の屋敷に帰還し、大至急出陣の準備をするように。必要に応じて領地からも派兵するように早急に指示を出せ。<六剣>の奪還および裏切り者共の捕縛は準備が整い次第実施する事にする。急ぎ手配しろ」
「「「「はっ!!」」」」
国王の宣言を以って、ここで喜劇は一旦終了だ。
「なぁロイド、こいつらって本当にバカなのか?今の話は、王都を囲っている魔獣をどうするかの話じゃなかったのか?いつの間にか俺達の捕縛に変わってるじゃねーか」
「ヘイロン殿、彼らは現実に目を向けられないのです。ですが、あの国王の指示の中には領地からの派兵もありました。その依頼を行う時点でフロキル王国からは一切出ることができなくなったという事実に気が付くでしょう。そこからが見ものです」
「テスラムさんの言う通りだな。俺達はその時をただ待っていればいい」
「では、改めまして修行を開始しますか。ナユラ殿もお手すきの様子。今後の為にも即修行を開始する事をお勧めしますが、如何ですかな?」
「あれ?テスラムさん修行なんて始めたのか?俺聞いてねーけど」
「ヘイロン殿は一番に退出されましたからな。その後に修行の話が出た次第です」
「じゃあ、俺も混ぜてくれ。現状で満足なんてしちゃいねーからな」
「流石はヘイロン殿!騎士道精神に溢れている」
「では、ご迷惑でなければ私も加わらせて頂きます。何とか<光剣>にもっと認められるようになりたいと思います」
「決まりですな。ではロイド様。我ら<六剣>所持者一同、Sランクダンジョンにて修行を開始させて頂きます。何かありましたら眷属を通してご連絡ください」
「俺も行かなくていいのか?」
「ええ、ロイド様の<無剣>に対する教えは私では行うことはできません。<剣術>の基礎等は追々でも良いでしょう。正直に申し上げますと、<無剣>の特化能力であるスキルレベルの増加等があるはずなので、その力を使えば私が教えなくとも技術は即身に着けることができると思います。<無剣>とはそれ程の力を持った剣なのです」
「なんだかインチキっぽい感じなので、罪悪感がなくもないが・・・わかった。じゃあ今日は俺はゆっくりさせてもらうよ。ひょっとして、喜劇の第二幕が開演するかもしれないからな」
<六剣>所持者の面々が俺の部屋から退出する。
ここからSランクダンジョンまでは通常では数日かかると思うのだが、彼らにしてみれば一瞬だろう。
場合によっては、修行の一環としてヨナの<闇魔法>で全員を早く移動させる位はしているかもしれない。
だが、今日は少々気持ち的に疲れたので、俺はお言葉に甘えてゆっくりさせてもらうとしよう。
相変わらずの魅力をさらけ出しているフカフカのベッドに横になり、意識を手放す。
その間は、喜劇を確認することはできないが大きな動きはない。いや、動けるはずがないので、問題ないだろう。
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ロイドは休み、<六剣>所持者達はSランクダンジョンを破壊するのではないかという程の力を出しつつ修行している最中、フロキル王国の王族、貴族は、共通の敵である裏切り者アルフォナとロイドの捕縛、<六剣>の奪還に向けて動き出した。
そもそも<六剣>は彼らの物ではないのだが、彼らにはそんなことは一切理解することはできない。常に自らが正義であるからだ。
今彼らの目の前にある仕事は裏切り者の捕縛を行い、褒美として<六剣>を与えられることだ。
<六剣>の力を得ることができれば更なる地位に上り詰めることができる上に将来も安泰間違いなしなのだから、必死にならないわけがない。
全員が王都内にある居城に猛烈な勢いで帰還し、出撃の準備を整える。
こうなってしまっては、周りの貴族も手柄を奪い合う敵になる。
一切の遅れは許されない。
辺境伯などは実際に王都まではかなりの長旅になるので、道中の安全を確保する為に屈強な近衛騎士を多数引き連れており、そのまま出撃できる体制を整えている。
だが、領地に対する援軍は実施できない。
なぜならば、王都から領地までは距離がありすぎて、援軍到着時点ではこの作戦は終了していると判断しているからだ。
無駄な行動に力を入れるよりも、最も効果的な行動を合理的に執っている。
この腐ったフロキル王国の中では、唯一常識を持っていると言っても過言ではない貴族だった。
だが、普段は辺境に籠っているので、ロイドやアルフォナの話の真実を知ることができなかった。
その為に、王子の迫真の演技に騙され、周りの雰囲気もあり出兵を決断してしまったのだ。
この辺境伯は、王子の”自分の片腕を犠牲にしても騎士を守ろうとした”と言う嘘に感銘を受けたのも、出兵決断の理由になっている。
辺境伯は王都の貴族とは違い特権意識などなく、騎士達は民を守る為に命がけで鍛錬をしている。
領地周辺に高レベルの魔獣が闊歩する様な環境なので、少しでも油断すると魔族に進化してしまうのだから、特権意識など持っている暇もない。
一方、他の高位の貴族である伯爵や公爵などは比較的近くに領地を持っているので、そこそこの人数しか引き連れて来ていない。
その騎士の練度は、特権意識が特に顕著な王都と同じく、プライドだけは以上に高いのでレベルが知れてしまっている。
領地の周辺に魔獣がいるにはいるのだがレベルが低く、冒険者達によって討伐されているので騎士の練度を上げる必要性がないのだ。
こういった貴族は、当然自分の身の安全を更に担保するために何をおいても増援を指示した。
とある公爵家は、王都の無駄に広い屋敷に帰還するなり近衛騎士隊長を呼びつけた。
「おい、今からこの国の裏切り者である元王族のロイド、そして近衛騎士であったアルフォナを捕縛することになった。彼らは伝説の<六剣>を本来の所持者から奪った大罪人でもある。即座に討伐軍を差し向ける必要があるので、領地に戻り増援の上大至急戻ってこい」
王都にいる者ならば、伝説の<六剣>が立て続けに抜剣された事実は誰でも知っている。
その<六剣>を奪った上に裏切り者と言うのだから、彼らにとってみれば、たとえそれが元近衛騎士であったとしても捕縛、討伐対象になり得るのだ。
もちろん、基礎属性を持たない元王子などは今更討伐対象と聞いても戸惑う事は一切ない。
「承知しました。即領地に帰還し援軍を編成した上で、王都に帰還します」
敬礼と共に公爵の執務室を急ぎ退出する近衛騎士。
当然、第四防壁の外に魔獣が到達していることは知っているのだが、伝説の<六剣>奪還という誉れある、そして場合によっては自らが<六剣>所持者になれるかもしれないという欲望が、その情報を深刻な物と認識できなくさせてしまっていた。
もちろん、辺境伯以外の高位貴族は全て同じ状態だ。
こんな喜劇が繰り広げられている間、ロイドは熟睡、そして本当の<六剣>所持者はSランクダンジョンでの修行を継続している。
<六剣>について教える立場にある<風剣>のテスラムは、修行を見つつも眷属を通して全ての情報を即座に入手していた。
情報が重要であるという事を何よりも知っている、魔王討伐の旅を唯一経験しているテスラムの技術とも言えるだろう。
当然、唯一まともな貴族である辺境伯である者の情報も得ており、辺境伯の領地の情報収集も始めている。
「ふむ、思った以上に腐った国かと思いましたが、王都から距離がある事が幸いしたのでしょうか?このキュロス辺境伯と言う男、中々の者ですな。ここで他の者達と共に散らしてしまうには惜しいかもしれません」
テスラムに、即ここまで評価される人物は珍しい。
「ですが、ユリナス様の一件の時どの様な状態だったか、そしてその後の行動についても少々調査が必要ですな。詳しい報告はその状況が把握できてからでも良いでしょう」
轟音鳴り響くダンジョン内部で、涼しい顔をして独り言を言っているテスラム。
時折爆風や各属性の魔法、更には何かの破片が飛んでくるが、<風剣>の特化能力である<防御>を使用しているのでテスラム自身には一切の怪我はない。
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