ゾルドン王子、奥の手を手放す
誤字報告ありがとうございました
「よし、それじゃあ一丁やってみますかね」
俺も元王族だ。復讐の時に備えて王城の構造は忘れることが無いように常に思い出している。
テスラムさんによれば王城の構造は変わっていないようなので、宝物庫はあのあたりだったはずだ。
頭の中で想像すると、感覚的に<空間転移>ができると理解することができた。
「テスラムさんの言った通りだ。それ程難しくなくできそうだな」
「それは何よりです」
新たに得た能力でも、大して問題なく使うことができる。
流石は伝説の剣だ。
「ロイド様、その<空間転移>は私たちも同行させて頂くことはできるのでしょうか?私の<光剣>の力では、直接宝物庫まで行ける手段がない物ですから気になりまして・・・」
「その通りですな。<六剣>は基礎属性を司る物。<空間転移>という強大な力を行使できるのは、我ら<六剣>を従える<無剣>所持者であるロイド様のみです。ですが似たような移動ならば、ヨナ殿の<闇魔法>であれば出来るはずですが、如何ですかな?」
「うん、たぶんできるけど瞬間的な移動は無理だし、長い距離は無理」
テスラムさんの知識が如何なく発揮された。
「それはこれからの鍛練で補えるはずです。とは言え、私も自らの<風剣>以外の全ての力を把握しているわけではございません。ご存じの通り<六剣>は神の化身であるため意思があり、成長します。なので、やがてはナユラ殿の<光剣>も移動の能力に開花するかもしれません」
<六剣>所持者達が、感動している。
「く、そんなことは俺には一切関係ないんだ。宝物庫に行くならさっさと行け!」
一人取り残されている隻腕のクズ兄。
イライラしている様を見るだけでも、心の錘が少しずつではあるが軽くなっている気がしてくる。
「お前に言われなくても行くさ」
何の前触れもなく能力を発動した。
一応仲間にはスライムを通して連絡済みなので、この中で一人だけ慌てふためいている。
「そういえば、こんな扉だったな」
「本当に瞬間移動した・・・これが最強の剣、<無剣>の力か・・・」
クズは呆然としているようだが、俺達には関係ない。
宝物庫の扉には厳重な鍵がかかっているのだが、テスラムさんによりあっさりと解錠された。
「こんなにあっさりと解錠・・・これも<六剣>の力か・・・」
解錠についてもクズが何やら言っているが、これはテスラムさんの眷属による力なので<六剣>は一切関係がない。
わざわざ説明してやる義理はないから黙っているが。
ここに<空間転移>で来る前に念のため警備がいるかと警戒はしていたのだが、テスラムさんによれば魔獣襲来の一報を受けて、謁見の間にほぼ全ての人員が集められて対策会議と言う名の戦闘の押し付け合いをしているらしい。
人のいない宝物庫に悠々と入る俺達。
中央の道の左右には膨大な量の金銀財宝、レアアイテムらしきものが並べられている。
「ロイド様、<空間収納>で収納されてはいかがでしょうか?」
「ああ、だが俺だけが全てを持つのはどうかな・・・例えばあそこにあるポーション、スミカが近くにいない状況であった場合、全員が持っている方が安全につながる」
「とは言え、現時点で収納することができる能力をお持ちなのは、ヨナ殿とロイド様のみですが・・・」
「そこなんだよな。一旦俺達が収納するのは良いんだが、何かしらの方法で分割しておきたい」
「ロイド様。その辺り、問題ないかもしれません。私が運び込んだ上納品は膨大な数があり、収納袋を使用して運んでおりました。その収納袋は、場所が変わっていなければあちらにあるかと・・・少々お待ちください」
アルフォナが、以前自分が使っていたであろう収納袋を探しに奥の方に走っていく。
「ロイド様、申し訳ありません。本来であれば私が眷属の力で調査をしておけばよかったのですが、ここには重要な情報がないと判断しておりましたので」
「いやいや、何の問題もないよ。こんなことで謝らないでくれ」
テスラムさんとしては、この宝物庫の中にある膨大な宝を把握できていなかったことが悔しいようだ。
なんて真面目なんだ、
もう少しヘイロンを見習った方が良いかもしれないな。
そのヘイロンは、
「お~、すげーな。流石強欲王だ」
感心しきりだ。だが、さっき俺が指し示したポーションには背を向けている。
あれが魔族襲来時にあれば母さんが助かったのは間違いない。だが、ここの連中は魔族討伐をした母さんに対してこのポーションを渡すことはなかった。
なので、視界に入れてしまうと怒りが再燃しそうなのでわざと背を向けているんだ。
あいつはそう言うやつだ。
「ロイド様、見つけました。結構な数があります」
アルフォナは十枚程度の布を手に持って走ってくる。
見かけは普通の布袋で、とても特別な能力を持った袋には見えない。
「ありがとう。良かった。これで俺達が万一寸断されたとしても、ある程度安全が担保できる。それに、高価な物を持っておけば情報収集時の交渉にも使えるし、換金して食料を得る事も出来るだろう」
「流石はロイド様ですな。それではこの宝物庫の中身、ざっくりではございますが、何があるかご説明いたしましょう」
よっぽど事前に把握できなかったことが悔しかったのか、この短い時間にテスラムさんは中身の把握に努めていてくれたらしい。
「大まかに分けまして、貴金属、ポーションを含むレアアイテムとなります。やはりこの宝物庫の中身は没収して正解です。レアアイテムの中には、あの王子が使用していた以上の付与を与えるアイテムがあるようです」
「それって、俺達が使ったらどうなる?」
「残念ながら、しょせんはレアアイテム。<六剣>の力と比べると足元にも及びません故、ただの装飾品にしかならないでしょう」
一応予想はしていたんだが、間違ってはいないことが確認できた。
今後はアイテムを精査して、キルハ国王に着けて貰うのもいいかもしれない。
彼は、暗殺されそうになった過去もあるしな。
「ま、この国のやつらに使わせないだけでも意味はあるな。よし、じゃあ貴金属とレアアイテム、均等になるように各自で収納するか。ナユラはレアアイテムを少しだけ多めに持ってくれ。時間がある時にキルハ国王に渡して、着けて貰うと良い」
ヘイロン用の収納袋には俺がポーションを入れて、ポーション入りの収納袋を直接手渡す。
俺の行動の意味を理解しているヘイロンは苦笑いだ。
「悪いなロイド。普段なら別にポーションを見てもなんとも思わないんだが、今は駄目だ」
「いや、構わんさ。むしろ母さんの事をそれだけ思ってくれているんだ。感謝しかない」
軽く肩を叩いて、俺自身も収納の作業に移る。
俺とヨナ以外はアルフォナが持って来た収納袋で収納し、余りの収納袋もそれぞれが予備として持っている。
流石はクズ王族が持っているレアアイテム。なかなかの性能の収納袋だ。
大した時間を必要とせずに、巨大な宝物庫の中身は空になった。
「こう見るとここはかなりの大きさだったんだな。いやいや、すげーな。よくぞあそこまで強欲に貯めこんだもんだ。お前もそう思うだろ、クズ?」
「まさか本当に全てを持っていくとは・・・」
俺としてはクズ兄の驚愕の表情を見れてご満悦ではあるのだが、ここから先は更に絶望の表情を浮かべてもらう事になるだろう。
そう思うと、意識せずとも頬が吊り上がっているのがわかる。
テスラムさんの言う通り、レアアイテムの中には<六剣>の力には遠く及ばないがフロキル王国の周りにいる魔獣や進化したばかりの魔族に対して十分対抗できるであろう物がいくつかあった。
今この国の上層部であるクズ達は誰が戦闘をするかで揉めているが、やがて戦闘する事に決定した者達はこのレアアイテムを要望するだろう。
状況が絶望的なので、流石の国王もいくつかのアイテム程度であれば貸し出すに違いない。
その時、この宝物庫の状況を確認したらどんな表情をするか・・・無駄に押し付け合いなどせずに手に入れておけば状況は変わったかもしれないが、もう手遅れだ。
「ククク・・・」
思わず笑いが込み上げるのを堪えられずに、声に出てしまった。
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