新たな剣所持者候補
ヨナと俺はダンジョンから地上に帰還する道程で、良く冒険者と遭遇する。
<隠密>を使用しているために、冒険者のみならず魔獣にすら認識されないので一切のトラブルなく帰還できていた。
しかし、今回察知した気配は五人組の冒険者ではある物の、魔獣と相対しているのは一人で、残りの四人は徐々に魔獣から距離を取っているのだ。
その冒険者一行に近づくほど、明確にその気配を察知することができる。
「ロイド様、少々急いだ方が良いかもしれません」
魔獣と相対している一人だけの冒険者は、魔獣と戦闘している様子ではなく逃げ回っているような動きだ。
そして、残りの四人の冒険者は既にかなり離れた距離に移動しており、今現在も地上に向かって移動している。
つまり、何らかの理由で一人が魔獣の生贄にされたか、気配からはありえないと思うが、戦闘訓練を一人で行うために残りの四人を返したかになる。
俺と同じく気配を察知できるヨナは魔獣から逃げまとっている一人が危険な状態であると判断し、俺に急ぐように進言してきた。
もし、この冒険者があの高ランクの冒険者共だったら放置一択、いや、むしろ魔獣の味方をするべき所ではあるが、気配からは強者ではないことがわかる。
なので、俺達はこの冒険者を助けるべく一気に冒険者の居る場所まで駆け抜け、魔獣を一撃で仕留めた。
もちろん素材を換金しておきたいので、ヨナが即収納している。
「え、なんでいきなり魔獣が倒れたと思ったら消えるの?」
取り残されていたであろう冒険者の一人は、状況が把握できずに動揺している。
おっと、そうか。<隠密>を解除しないと俺達を一切認識できないんだった。
俺とヨナは<隠密>を解除して、冒険者の目の前に現れた。
「ひゃ・・え??あれ?突然目の前に・・・???もしかしてですけど、あなた方が私を助けて下さったのですか?」
「あの魔獣を討伐したことが助けたことになるなら、そうなるな」
「ありがとうございます。もうだめかと思っていました」
ホッとしたのか彼女は座り込んでしまい、荒い息を整えようとしている。
「君はこんな所で一人であの魔獣を討伐しようとしていたのか?」
ヨナは、めったなことでは自らの名前を初対面の人には言わない。と言うよりも自分から話しかけることもない。
更には、<闇魔法>で若干顔を認識し辛くしている。
これは彼女自身が<隠密>を使用して諜報作業を実施する際の足枷とならないように、情報を出さないようにしているのだ。
なので、必然的に会話は俺とこの娘になる。
「あの、実は私この王都の住民ではなく、少し離れた町から来たんです。お恥ずかしながら伝説の剣を抜きに・・・それでですね、もちろんご覧の通り抜けるわけがなかったのですが、その場所で知り合ったこの王都の高ランク冒険者様達に誘われて、このダンジョンのダムロスを狩りに来たんです」
「そうか。でも申し訳ないが君はダムロスを討伐できるほどの力は持っていないように見えるんだが?」
俺の容赦ない突っ込みに、若干顔を下げてしまう。
「おっしゃる通りです。実は一緒に来ていた冒険者の方々が討伐して、その姿から冒険者としてのイロハを勉強させて頂く約束だったのです。でも、ダムロスを前にして彼らは一目散に逃げてしまいました。私をダムロスの前に蹴り飛ばした上でです・・・王都ではこんな酷い行いが横行しているのですか?」
「一部はそんな奴らもいる。だが、君と同じでそいつらも王都以外から来た連中かもしれないだろう?それに気の良い冒険者達もいるから、一括りにはして欲しくないな」
「そうでした。申し訳ありません。今正に助けて頂いた状態なのに・・・本当に失礼しました」
この娘は、ちょっと危機感がない・・・いや、純真すぎるかもしれないな。初めて会った連中にダンジョンの中までのこのこついて行って、かなり心配だ。
「君は冒険者登録はしているの?もししていたら、ランクを聞いても良いかな?」
「はい、今日初めて冒険者登録をしましたのでEランクです」
はぁ~、危機意識が低すぎだ。そんなにキラキラした笑顔で答えられる状況ではないだろう。むしろ、少しくらいは恥ずかしがる場面だろう?
「えっと、ダムロスのランクを知っているか?」
「ええ、一緒に来た冒険者の方々にBランクと聞きました」
「そうか、一緒に来た冒険者のレベルは聞いたか?」
「聞いたのですけれど、高ランクだよ!と言うだけで教えて頂けませんでした」
思わず俺はヨナと顔を見合わせてしまった。俺は少し厳しめに追及する。
「君は、そんな得体のしれない初めてあった人達とこの危険なダンジョンに来たという事か?何のために?」
「もちろん早く高ランクの冒険者になりたいからです。私がBランクの魔獣を仕留められるなんて一切思っていません。でも、あの人たちの戦いから沢山学べることがあると思ったんです」
俺も、命に係わる事なので少し厳しめに話しておこう。
「だとしても、性急だったな。危うく命を落とすところだったんだ」
「おっしゃる通りです。でも、早く強くなりたいんです」
よくある、新人冒険者が早く高ランクになって良い思いをしたい症候群だろうか?この病にかかると、冒険中に命を落とす可能性が極めて高くなる。
自分のレベルを無視した魔獣と相対する可能性が高いからだ。
「強いと言っても実際の戦闘だけではなく、色々な強さがあるんだぞ。自らの折れない心も確かな強さだ」
先輩冒険者として、そんな症候群を発症しているのであれば危機を回避するために一度アドバイスをしておくべきだろうな。
「はい。それもわかっております。でも、私は苦しんでいる人々の助けになりたいんです」
改めてヨナと目が合う。
この娘が言っていることが言葉通りで本心ならば、正直俺はパーティーに加えても良いと思っている。
いや、この娘の都合が良ければだが・・・
と言うのも、今最も欲しい力は水剣を使える者だ。
今までの言動から察するに、適正はあるので剣からも認められる可能性が極めて高いだろう。
俺達もやはり<回復>は欲しいしな。
実は俺とヨナ、<回復>スキルを得るために少々怪我をした部分には自分の魔力を漂わせたり無駄に手をかざしたりしたのだが、<回復>スキルを得ることはできなかった経緯がある。
今尚時々同じことをしているが、一向にスキルを手に入れる気配すらない。
実際のスキル持ちに目の前で実施してもらったり、自らに<回復>スキルを発動してもらえれば話は違ってくるのだろうが、完全な独学で得られスキルではないという事だ。
そもそもこの国の連中が、そんな御大層なスキルを持っている人々を市民がいる領域で使わせるわけがない。
<基礎属性>として水は外れと言われているが、<回復>スキルを持っている者だけは別扱いだ。
<基礎属性>が水であれば、それに属している<回復>スキルのスキルレベルは上がりやすいためだ。
なので、<基礎属性>が水になった人たちは必死に<回復>スキルの習得に励んでいる。とは言え、努力でスキルを得られる人はほんの一握りだ。
その一握りは商人や騎士が住む領域に居住を構えて、許可なくこの一般市民が住むエリアに来ることはできない代わりに贅沢な暮らしをしている。
魔獣討伐のドロップでも、そんなに都合よく出てくるわけがない。
そもそも、スキルドロップ自体にも未だにお目にかかったことがないくらいだ。
だが、実際にオークションではドロップのスキルが最早数えられないくらいの金額で売買されているらしい。
考え事をしていたら話が止まってしまった。改めて話を続けよう。
「君は、全ての剣を抜けるか試したのか?」
「試そうとは思いましたが、実際にはかなりの人込みで土剣と風剣を試させていただいただけです」
「君は、あの絵本の話を本当だと思っているという事か?」
「あの二本抜けている剣は元から存在していないという話ですか?私はあの場所の剣は本当に抜けていると思っています。だって、絵本の通り実際に悪魔も存在しますから」
やはりこの娘は、疑う心を知らないのだろうか?
とは言えこれ以上こんな話をダンジョンの内部でするべきではないな。なんて言ったってこの娘は今日冒険者になったばかりで、いきなり命の危険があったのだから。