洞窟へ
「ふぁ~、いつの間にか寝てたのか」
「ロイド様、よく寝ていました。いよいよ復讐の始まりです」
ヨナが優しく微笑んでくれる。話の内容はちょっと微妙だけどね。
「ああ、本当にいよいよだ。テスラムさんから魔王城の情報を貰ったから、何の気兼ねもなくあの国を捨てることができたし、そのおかげで復讐を実際に開始することができる。他の面々はどうしている?」
「各々自由にしています。アルフォナさんはこの国の近衛騎士と鍛錬、スミカとヘイロンさんはテスラムさんと鍛錬、ナユラはキルハ国王の所です」
軽く体を解しながらベッドから出る。
何故だか俺達はこの王城内部に個室を与えられてしまった。
それぞれが一部屋だ。
頑なに拒むのもなんだし、キルハ国王としても俺達から受けた恩を返す意味もあるし、強大な戦力を取り込む意図もあるのだろうから遠慮なくいただいておいた。
このベッドの塩梅がとてつもなく良いので、いつの間にか寝てしまっていた。
俺が起きた事を知ったテスラムさんから連絡が行ったのだろう、六剣所持者とナユラが部屋に入ってきた。
「ロイド様。作戦に若干の修正を加えたいのですが・・・現時点でフロキル王国外周と<六剣>の洞窟までの魔獣の数は爆発的に増えており、その中には魔族へ進化した存在も三匹程確認できております。進化して間もないので大して強くもありませんが・・・そのため、あの周辺には洞窟内部の王子一行しかいない状態であり、フロキル王国への道は完全に寸断されています。なので、洞窟内部では我らの存在は隠蔽しないで更に絶望を与えましょう。洞窟外では、魔族へ進化した物からの情報漏洩の可能性があるので、<闇魔法>による偽装は継続します」
「そうか、あのクズ達に絶望を与えた後は・・・現実を説明した後に少々痛めつけて放置か?」
「ええ。<光剣>を抜いてしまえば、あの洞窟自体には防壁の効果も何もありませんので、魔族や魔獣が侵入してくるでしょう。そこで無様な様子をあざ笑うのも一興かと」
「ナユラとスミカ、そしてアルフォナはそれでもいいのか?」
念のため、新たに仲間になり<六剣>を持ったばかり、ナユラは一旦再封印しているのだが、その三人に確認しておく。
これから行おうとしていることは、その場面だけ見ると非常に悪辣な行為だからだ。
「ロイド様!私はロイド様に仕える近衛騎士。主に仇をなす者、そして仇をなした者を決して許すことはできません。ましてあ奴らはユリナス様の仇でもある。それを思えば、まだまだ恩情に溢れすぎている決断かと!」
「私もそう思います。少々の穢れであれば更生できるかもしれませんが、あそこまで行くと不可能でしょう。とすれば、己の罪を償いつつ抹消させるのも一つの手法ではないかと思います」
「私も難しい事はわかりませんが、ナユラと同じです」
三者共、ある程度想定していた回答だ。
特にスミカはあまり難しい事は考えられないのか、ナユラと同じにすると言っている。
ヘイロンとテスラムさんには聞く必要はない。
彼らは俺と同じく復讐心を持っているのだから・・・
だが、今の返事を聞く限りアルフォナも俺達と同じ感情を持っていると判断できそうだ。
「じゃあ、いよいよ出向くか。ヨナ<闇魔法>を頼む。万が一を考えて、俺の方でも重ね掛けしておく。現場に着いたら、ナユラ!頼んだぞ」
「お任せください」
「それが終わりましたら、さっそくSランクダンジョンですよ。皆様!!」
テスラムさんの意気込みに、気合を入れるアルフォナとヘイロン。逆にスミカとナユラは若干引きつっている。
「ナユラ、スミカ、テスラムさんに任せておけば大丈夫」
お姉ちゃん的存在のヨナが優しく声をかけると、二人の緊張は和らいだようだ。
「よし!行くぞ!!」
待ちきれない俺達は未だ<六剣>の力を得ていないナユラをヨナの<闇魔法>で運搬すると、即<六剣>の洞窟まで到着した。
「お~、すげーな。魔獣って討伐を放置するとこんなにも増えるのか。知識としては知っていたが、壮観だな」
ヘイロンの言う通り、<光剣>洞窟以外の洞窟内部にも多数の魔獣が存在している。
そして、肉眼ではフロキル王国側に数えるのもばかばかしい程の魔獣と、一部強い反応が現れている。
と言ってもここにいる魔獣と比べて強いと言うレベルだが、これが魔族なのだろう。
もちろん残念なことにリスド王国や他の王国方面にも魔獣はいたが、ある程度俺達が行きがけに討伐しておいた。
「テスラムさん、今回は俺達が討伐したからいいが、このまま魔獣が増えると他国に迷惑をかけないか?」
「その通りですな。アルフォナ殿、<土>の基礎属性を使用してフロキル王国とその外周にいる魔獣を囲うように、第六防壁を作っていただけますか?」
フロキル王国の最外周に住んでいた俺達を囲う防壁が第四防壁、そして更にその外に安全用にもう一つ防壁がある。これが第五防壁。
テスラムさんは、その外にいる魔獣を広範囲で囲って第六防壁を作るようにアルフォナに頼んでいる。
「う、私にできるだろうか。そのような膨大な領域に<土魔法>を行使するとなると・・・もちろん今までやったことは無いし、自信がないのだが」
「まったく問題ありませんな。<六剣>の力を侮ってはいけません。更に付け加えるならば、これも騎士たる者の力の見せどころ、修行の一環とも言えますな」
「なるほど、騎士としてか。承知した。洞窟内の作戦が終了し次第防壁を作成しよう」
なかなかアルフォナをその気にさせるのが上手い。
これが年の功か?
テスラムさんが俺達の仲間になってくれてから、全てがうまく回っている気がする。
「ロイド様。その後、防壁に我ら全員で強化を施し、外部にいる魔獣を討伐すれば問題ないでしょう」
この作戦が完全に終了すると、フロキル王国は正しく外界から完全に遮断されることになる。
食料などは、第四防壁に畑があるので自分で作ることができる。
最近の第三防壁内部の事は知らないので何とも言えないが、畑等が一切ないと言うことは無いだろう。
更には、第五防壁から外に出ればあふれんばかりの魔獣の群れ。
肉にも困らないはずだ。
ただし、農業の知識と実施する体力、魔獣討伐の実力があればだが・・・
そんな話をしていると、ナユラはガタガタ震えてしまった。
何の力も持たない状態であれば、この環境に置かれれば絶望を感じてしまうのだろう。即ヨナが<闇魔法>でカバーし、スミカが<回復>を実行する。
今までヨナがナユラにかけていた<闇魔法>は認識阻害系の魔法であり、外部からの悪意や攻撃に対抗するものではなかったので、魔獣達の気に充てられてしまったのだ。
即落ち着きを取り戻したナユラ。
「申し訳ありません。いきなり目の前にこんな見た事もない程の魔獣がいるものですから・・・」
「いや、スマン。俺のミスだ。まだナユラは力を得ていない事を失念していた。だが、<光剣>さえ手に入れてしまえば何の問題もなくなるぞ」
そう言いつつ、洞窟に侵入する。もちろん障害となる魔獣はこの<光剣>の洞窟にはいない。
洞窟に入った時点で、認識阻害系のヨナの<闇魔法>を解除する。
既に内部の状況は把握できている。
相変わらず必死に障壁と遊んでいるんだ。
洞窟の中<光剣>が見える位置までやってきたが、クズ兄一行は休憩している者、防壁と遊んでいる者全員が俺達の存在に気が付かない。
ナユラ以外、全員が洞窟侵入前からクズ兄一行の行いは気配で感じていたから理解しているのだが、せっかくなので、しばらく目で見て楽しむことにした。
テスラムさんとヨナはすかさずお茶を配ってくれる。
執事と傍仕えとしてのプライドだろうか??
俺達全員、お茶をすすりながら楽しい見物を始めた。
もちろん現在進行形で防壁の破壊行為は続いているが一向に壊れる気配がないので、あいつらの会話も刺々しくなっている。
「おい、貴様本気で攻撃しているのか?」
「もちろんです、ゾルドン王子」
一方、休憩中の騎士たちは、クズ兄に聞こえないようにゾルドン王子の事を囁きあう。
「魔族討伐の英雄の攻撃が通らないんだから、俺達の攻撃が通るわけないと思うんだがな」
「ああ、だがもしここで俺達が防壁を破壊できれば、一気に昇進も夢じゃないぞ」
相変わらずの騎士道精神に、アルフォナのこめかみがピクピクしているのが見えた。
ロイド視点です