リスド王国と<光剣>(7)
今俺達は、フロキル王国の一部住民と共にリスド王国を目指しており、丁度六剣の洞窟を過ぎたあたりだ。
既に真夜中と言って問題ない時間だが、唯一残った<光剣>を抜こうと貴族や王族連中の関係者が必死になっているようで、人が溢れている。
残念なことに、そのほとんどがフロキル王国の面々であったりする。
着ている洋服、無駄に豪華な装飾で容易に判断できてしまう。他国に比べて無駄に豪華絢爛だからだ。
他国の冒険者達は、貴族、王族関連の連中に追い出されたのか見かけることは無かった。
俺達の事情はナユラに既に話しており、クズ兄の眼前で<光剣>を抜くことは理解してもらっているが、抜けなかった場合の事をひどく心配している。
俺達がクズ兄の絶望の顔を見たいがためにナユラに余計な心配をかけてしまっている自覚はある。
万が一に命を狙われる心配、そして恨みの対象になる心配だ。
後者に関していえば、俺が近いうちに奴の息の根を止めるので問題ないが、命を狙う命令を出していた場合には、あのクズを始末しただけでは危険な状況は変わらない可能性がある。
しかし、この話をナユラにしたらあっけらかんと返された。
「私としましても、そのクズ王子には絶望を与える必要があると思います。テスラムさんの案は素晴らしいと思いますので、どうぞお気になさらずに。それにお姉ちゃんが<闇魔法>でフォローしてくれるのですから、何の問題もありません。いえ、むしろ問題と言えば、本当に私なんかが<光剣>を抜くことができるかどうかです」
と言う感じだ。
この元王女、スミカと同じようにヨナをお姉ちゃんと呼ぶことにしたらしい。ヨナは第三者がいる時に本名で呼ばれる事をひどく嫌うからやむを得ないのだろう。
そうすると、長女ヨナ、次女スミカ、三女ナユラになるのだろうか?余計な事を考えていると、ヘイロンが話しかけてきた。
「よう、ロイド!それじゃあ、せっかく六剣の洞窟が近いんだ。予行練習したらどうだ?」
「うん?予行練習ってなんだ?」
「つまりだな、一回<光剣>を抜けることを確認しておくんだよ。一旦抜いて、もう一度封印しておく。問題ないだろ?テスラムさん?」
「まったく問題ございません。私でも再度抜剣することができましたので、再封印の工程によって何か障害がある事はないと証明されております故」
と言う事だ。
理解した。
「どうだナユラ?やってみるか?」
「はい!是非にでもお願いします」
と言う事で、<闇魔法>の関連でヨナ、<無剣>所持者の俺がナユラに同行することにした。
実際俺も<闇魔法>を使えるのだが、練度が違うのでヨナに任せる。
ヘイロンとテスラムさんは馬車の護衛で、そのままリスド王国に向かって貰っている。
そうそう、アルフォナとスミカも先行している馬車の護衛をしているのでこの場にはいない。
で、やってきました<光剣>の洞窟!!
辺りを見回すと、無駄に豪華な服や装飾で着飾っている王族・貴族連中本人や連なる者達が、ヨナの<闇魔法>により多数横たわっている状態だ。
一部、俺たちに絡んできた高レベルの冒険者もいるな。こいつら、どれだけいるんだ。
だが残念なことに、封印されている石の周りにある防壁内部には人がいない。
つまり、ここにいる誰人として柄に手をかけることすらできていない状態だったのだ。
ナユラはあっさりと防壁を通過し、俺達がいるせいで金色の宝玉が一際輝いている<光剣>に手をかける。
「えいっ!」
なんとも可愛らしい掛け声とともに、あっさりと<光剣>は抜剣された。
「これが<光剣>・・・とっても奇麗です」
「どうだ、心配事はなくなったか?」
「はい。ありがとうございます。でも凄い力が流れ込んできます」
「そうだろうな。だが申し訳ない。一旦再封印してもらえるか?」
「もちろんです。じゃあ、またね」
そう言い、剣を石の溝に差し込むナユラ。
黄金の宝玉が点滅してる。<光剣>もナユラに挨拶をしているかのように見える。
ナユラは名残惜しそうに<光剣>を見るが、一瞬で気持ちを切り替えたようだ。
この辺りはさすがは王族だ。
「わざわざありがとうございました。これで<光剣>を抜くことができないと言う醜態を晒さずに済みます。安心しました。それじゃあ、ヘイロンさんたちを追いかけましょう」
ほとんど時間を要していないので少々走れば簡単に追いつくことができるのだが、今のナユラは普通の冒険者レベルの為に全力疾走しても俺達から見るとゆっくり歩いている程度になってしまう為に、ヨナの<闇魔法>による運搬で追いかけることにした。
「おう、お疲れ。やっぱり問題なかったろ?」
すでにテスラムさんの眷属により情報を得ていたヘイロンが、気軽にナユラに声をかけた。
「はい。実際に手にしたときは感動?興奮?何とも言えない気持ちでした。そして、伝説の通りの力があることを確認することができました。これからはあの力でロイド様、そして皆様のお力になれればと思います」
「ロイド様、今のうちに少々よろしいでしょうか?」
「ああ、何?」
「これで<六剣>全て揃うことが確定しました。私の見立てでは、<六剣>を完全に使いこなせているのはヨナ殿、ある程度使いこなせているのはアルフォナ殿となります。ヘイロン殿はある程度使いこなせる域にはもう少しと言ったところで、スミカ殿は踊らされている状態、ナユラ殿も同じでしょう。今後の事を考えると、鍛錬が必要になります。もし宜しければ、私が暫く指導いたしますが如何でしょうか?」
「願ってもないぜ!!」
「私からもお願いいたします」
この場にいるヘイロンとナユラは即答だった。そして、同じ情報を得た先行しているアルフォナとスミカも鍛錬したいと返答がある。
「承りました。当然鍛錬場所はSランクダンジョンになりますので、気合を入れてついてきてください」
こうして、リスド王国に到着後の予定は即決定してしまった。
ちなみに、俺自体の修練については基礎的な事・・・剣術の型とかは指導してもらえるが、<無剣>についての指導はできないそうだ。
俺が持っている<無剣>は、ヘイロンさんが持つ<六剣>の上位存在であるので、教えられることは無いらしい。
少し残念だが、俺は母さんの手紙や先代たちの情報を頼りに鍛錬することにしよう。
何のトラブルもなく移動できているが、実は魔獣は結構出現していたりする。
こちらに近接する前に、俺達が倒しているので住民たちは一切気が付いていない。先行しているアルフォナ達の集団も同様だ。
そんな状態なので、道中に体調を崩す人もいなく、順調に旅行気分で移動が完了した。
俺達が到着した頃には、当然先行部隊は到着済みであり、彼らは既にナユラ王国国民として日常生活を開始している。
早速俺達もこの国のギルドで再度冒険者登録を実施して、ギルドカードを受領する。
今までの経歴は引き継がれないが特に大きな問題はない。
一部見知った冒険者達は、既に魔獣の素材をカウンターに出して買い取りをして貰っている。
「ロイド様、ようやくあの王子にロイド様が国内にいない事が発覚したようです。第四防壁内の住民が誰一人としていなくなったのですから気が付くのは当然なのですが、かなり遅いですな。今第四防壁内にいるのは、ギルド関連の面々だけになります」
「で、状況はどうなんだ?」
「はい、ギルド長は王城に呼び出されておりまして、素材が一切入手できなくなっていることに対する叱責、そして商人達からのクレームとして護衛依頼を受ける人員がいない事、門の外に魔獣が多数いるために安全が脅かされていることを言われております」
「ハハハ、あのクズ兄とクズギルト長にはいい薬だ。だが、そうするとあのクズ兄が<六剣>の洞窟に行けなくなるのか?」
「いいえ、その程度であきらめる輩ではありません。近衛騎士総動員で明朝から<光剣>の洞窟に籠るそうです」
「なぜ籠る必要がある?」
「今まで抜けなかったので、長期戦を覚悟していること。そして万が一他者が抜いてしまう事を防止するために、第三者を排除する事が目的のようです」
「面白くなってきたな。そこにナユラの登場と言うわけだ」
「その通りでございます。決行は明日の夕刻でいかがでしょうか?」
「どうだナユラ?」
「問題ありません。よろしくお願いします」
まずは、あのクズ兄に絶望を与えよう。
復讐と言う程の事ではないが、心が躍ってしまうな。
明日が楽しみだ。