リスド王国と<光剣>(2)
「そうすると、馬車の移動中の体調不良や突発的な事故の対処だな」
俺は、フロキル王国から第四防壁内の住民が移動する際の懸案事項を口にする。
「ロイド様、その移動にはリスド王国の騎士殿が同行されるとの事ですが、そこにスミカ殿とアルフォナ殿を加えてはいかがでしょうか?」
テスラムさんの提言に、成程・・・と思ってしまった。
高齢者の方々にはスミカが<回復>を、そして同行する騎士達には、騎士道精神や戦い方等を実戦で教えることができるアルフォナが担当する。
「成程、流石はテスラムさんだ。スミカ、アルフォナ、それでいいか?」
「もちろんです」
「私も問題ありません」
口の中の大量の物を飲み込み終えたスミカも、問題なく返事をする。
普通なら窒息している所を、強引に<水剣>の特化能力である<回復>で治癒したとは思えない落ち着きだ。
もしかすると、スミカは無意識に特化能力の鍛練を行っている状態になっているので、完全に使いこなせるようになるまでの時間は短いかもしれないな。
「という事だ、キルハ王。この後俺達は早速フロキル王国に戻って、第四防壁内の住民に移住の件を伝えておく。リスド王国からフロキル王国に来る馬車も三日はかかるだろうから、その間に荷物を纏めさせておこう。スミカとアルフォナは、護衛の騎士と共にフロキル王国まで来てくれ。万が一トラブルがあった場合だが・・・馬車と騎士はアルフォナとスミカがいるので、キルハ王とナユラには・・・テスラムさん、良いか?」
「承知いたしました」
テスラムさんは、二匹のスライムを顕現させる。
とても小さい愛嬌のあるスライムだ。
実はこのスライム、俺達全員に一匹が張り付いており、防御力は折り紙付き。但し攻撃力はない。
このスライムさえいればお互いに即連絡を取ることができるし、連絡が取れないような緊急事態になったとしても、スライムが独自の判断で周りに情報を伝えてくれる優れものだ。
「キルハ王、ナユラ、このスライムを持っていると良い。と言うよりも、勝手にどこかにいるから気にする必要はないが、万が一が起こった場合は情報をこのスライムに話すと俺達に伝わるので安心してくれ。例えスライムが見えなくても、必ず近くにいて情報は俺達に伝わるから大丈夫だ」
二匹のスライムは、ピョンピョンと愛らしい動きをして両名の前に行くと、プルプル震えてから姿を消した。
彼らにしてみれば、挨拶だったのだろうか?
ナユラは、可愛らしい物体が視認できなくなってしまい残念そうな顔をしている。しょうがないからアドバイスをしてやろう。
「ナユラ、大丈夫だ。お前が望めば視認できるようになる」
「そうなんですか?」
驚きつつも嬉しそうに、何かを呟いたナユラ。
すると、ナユラの左肩にあのスライムが表れた。
「フフ、とっても可愛いスライムちゃんですね。ロイド様、テスラム様、このスライムちゃんに名前はあるのでしょうか?」
俺にはわかるわけもなく、テスラムを見る。
「ナユラ殿、スライムは無数におります故それぞれの個体に名前は付けておりません。そのスライムにはナユラ殿がお好きな名前を付けて頂ければよろしいかと」
「良いのですか?ありがとうございます。そうですね、貴方の名前は・・・プルでどうでしょうか?」
スライムはプルプル揺れた。
それが喜びによる物か、抗議による物かは俺達に知る由もないが、ナユラを除く全員が微妙な表情をしたので、きっと後者ではないかと俺は思っている。
当のナユラはプルに夢中で、俺達の微妙な表情には気が付かなかったのは幸いだ。
程無くしてナユラも落ち着き、今後の話ができる状態に戻った。プルは彼女の両手に抱えられている。
「ロイド様、私ナユラも先ほど宣言させて頂きました通り、自分を厳しい環境に置くことに致しました。その手始めとして、今回の住民の移住に関する件、私も最初から同行させて頂きます」
「このナユラは変なところで頑固なんだ。少々心配だったが、フロキル王国に向かう際もアルフォナ殿とスミカ殿が同行頂けるという事なので、私としても安心した所だ。手間をかけさせてしまうかもしれないが、よろしく頼む」
兄であるキルハ王も頭を下げてくる。
ここで、俺は以前から考えていた事をキルハ王に伝えることにした。
「ああ、俺達としてもナユラの行動力や芯の通った考え方には共感している」
Sランクダンジョンに拉致された後もあきらめずに出口に向かっていた姿を見ている俺達としては、是非仲間にしたいと思っていた。王族であると少々厳しいと考えていたが、今は本人の希望で王族からは外れている。
このチャンスを生かさない手はない。
「そこで提案がある。既に説明した通りここにいる俺達全員、あの伝説の剣の所持者だ。この国にも噂になっているだろうが、最近立て続けに六剣の洞窟から剣が抜けたのは俺達が抜いたからだ。そして今洞窟に残っているのは<光剣>のみ。この光の基礎属性を冠する剣の特化能力は知っての通り<浄化>だ。<無剣>所持者として、この<光剣>所持者にはナユラになってもらいたい」
「ふぇ?私ですか??私なんかで良いんでしょうか?」
伝説の剣である六剣所持者になれそうだと聞いて、驚き半分、不安半分といった表情をしている。
「お恥ずかしながら、私も何度かあの洞窟に通って抜けないか試したことがあります。その結果はご覧の通りなんですが・・・」
「その辺も問題ないぞ。<風剣>所持者のテスラムさん以外は全員同じ経験がある」
「そうですよナユラさん。私も絶対に抜けるはずないと思っていました。あの伝説の剣ですもんね。おかげで私も<水剣>を抜く時に力一杯引き抜いたんですが、簡単に抜けたのでお尻をぶつけちゃったんです」
スミカが恥ずかしい過去を暴露することにより、ナユラの表情も若干和らいだ。
「わかりました。折角お声がけ頂いたチャンスです。全力で期待に応えられるように頑張ります。お兄様もそれでいいですね?」
「良いも悪いもない。あの伝説の剣の所持者になれる栄誉だ。頑張ると良い」
兄弟揃って嬉しそうにしている。だが、六剣所持者の力を与える以上、俺の復讐対象である悪魔に連なる者、そしてフロキル王国に対する戦闘が避けられないことは理解してもらわなくてはならない。
心優しいナユラの事だ。悪魔に連なる者達は良いとして、同じ人族であるフロキル王国については難色を示すかもしれない。
その説明を始めようと口を開きかけた時だ。
「ロイド様、フロキル王国や悪魔に対する思いは存じております。今までのロイド様の受けた仕打ちを思えば、彼らの断罪は止む無しと考えます。私も伝説の剣の所持者になる以上、<無剣>所持者であるロイド様の刃としてその任も承ります」
この辺りもテスラムさんが説明してくれていたのだろうか?
俺が話すよりも先手を打たれた形になるが、予想以上の回答を得ることができた。
「ああ、少々辛いこともあるかもしれないが、よろしく頼む<光剣>のナユラ」
「フフフ、まだ剣は抜けていない状態ですよ。少々気が早いのではないですか?」
「いや、最早所持者になることは確定している。今のうちに慣れておいた方が良いだろうと思ってな」
「そうですよナユラさん。この剣を持ったら、凄い力が湧き上がってくるんですが・・・もしかしてナユラ王女も<回復>が必要になりますかね?」
スミカは話ながら六剣所持者の資質について思い出したようだ。
所持者となる者の力量が不足している場合には六剣の力により不調をきたす可能性が高いので、六剣所持者の配下となって強制的に仮に地力を上げて魔獣を討伐することにより、本来の地力を強制的に上げる方法、そしてスミカの持つ<水剣>の特化能力である<回復>で強制的に回復させつつ六剣の力になれる方法とがある。
スミカは一時的に<闇剣>所持者であるヨナの配下になることにより地力を強制的に上げて、高レベルの魔獣を討伐することにより<水剣>所持者としての地力を強制的に上げた。
どうするか悩んでいると、
「ロイド様、ナユラ殿はそこそこ地力がおありのようです。王族として武術の嗜みもあるのでしょう。この状態であれば、スミカ殿の<回復>で処理をした方が早いと思います」
六剣の全てを知るテスラムさんの助言により、方針は決定した。