ヒルアの最後と<光剣><風剣>(10)
アルフォナとヘイロンは互いに意思確認をして、問題ないと判断し話を進める。
「いいか、貴様のように騎士道精神が全くない者があの伝説の六剣を抜く事などできない。そもそも剣に触れることもできずに障壁すら通過できないだろう。大方今までも散々試して無様な姿を晒し続けたんではないか?違うか??」
あの伝説の六剣の洞窟は、以前までは観光名所になっていた程だ。万が一を期待して周辺国家のほぼ全ての人が抜剣を試していると言っても過言ではない。
実際にノルバ、そしてノルバの下についている近衛騎士達も抜剣済みの<闇剣>と<無剣>以外は全て試していたのだ。
そしてアルフォナの指摘通り、剣の周りにある障壁に阻まれて剣に触れることすらできていない。
「貴様~、愚弄するか?私が今武器を持っていないからと強気になっているのなら大きな間違いだ。体術のみでも貴様程度、容易く死体に変えてやるぞ」
怒りに我を忘れているノルバが獰猛な目をしてアルフォナを睨みつける。
腐っても近衛騎士隊長であるノルバ。
戦闘能力は確かに人族としては上位に位置しており、このような気迫で迫られれば大抵の者は委縮してしまうが、アルフォナとヘイロンは何も感じていない。
近衛騎士として、そして冒険者として長年厳しい環境にみを置いていた強さがここに出る。
「弱い犬程良く吠えるな。キャンキャンキャンキャンやかましい。いや、犬は罪を認めることはできるから犬に失礼だな。謝罪しよう。犬に」
「おい!あんまり煽るなアルフォナ。話が進まないだろ?」
少々熱くなっているアルフォナを軽く咎めるヘイロン。
「む、すまない。少々熱くなったようだ。私もまだまだだ。よし、話を戻そう。なぜヘイロン殿が六剣の話を貴様程度に聞いたかと言うと、貴様が六剣所持者の力を理解しているかどうかを確認したに過ぎない」
「だから何だ。近いうちに私が<光剣>所持者になり貴様らを断罪してくれる」
互いに軽く挑発を繰り替えす様子をみて、ヘイロンはため息をつく。
「話が進まないぞ。いいか、ノルバとやら。アルフォナの言う通り、お前に聞いたのは六剣所持者の力をある程度認識できているかどうかだ。ここまで言えばある程度は推測できるもんだが・・・」
そう言って、少し前から驚いた顔をしているキルハ王子とナユラ王女を見る。自分の発言がノルバを煽っているとは爪の先ほども考えていないヘイロン。
普通であれば、この会話の流れからアルフォナかヘイロン、または両者が六剣所持者だと言っていることは容易に推測できるのだ。
「何を言っている?」
罪を暴かれて死罪を宣告されているノルバには、正常な判断ができない。
「はっきり言おう。そこにいるのは<土剣>所持者のアルフォナ、そして俺は<炎剣>所持者のヘイロンだ」
静寂がホールを包む。
「確かに最近抜かれた六剣の内の二振りだ。だが貴様ら程度が六剣所持者など笑わせるな」
唾をまき散らしながらノルバは吠える。
自らが伝説の六剣を所持していないのに目の前にいる敵が所持者だと言っているのだから、認められるわけがない。
「そう言うだろうと思ってな、お前には過ぎた物だが六剣を目の前で見せてやろう。アルフォナ!」
ヘイロンの掛け声と当時に、二人は伝説の剣である六剣の<土剣>と<炎剣>を顕現させた。
ヘイロンの手には六つの宝玉の内<炎剣>を表す赤い宝玉が一際大きく輝き、アルフォナの手には<土剣>を表す茶色の宝玉が大きく輝いている美しい剣が現れた。
二人は軽く床に六剣を刺す。王城内部であり堅牢なつくりをしているので、本来はそう簡単に刺せるものではないのだが・・・
「これで嫌でも信じられるだろ?悪魔を倒すにはこの剣の力がないと手も足も出ない。お前程度では何の障害にもならないで殺されるだろうな。だがな、今回悪魔を討伐したアルフォナは違う。本人も言っていたが、手加減が上手くいかない状態でも悪魔を軽く退けた」
「そこは今は良いではないですか?ヘイロン殿」
手加減の事を言われると、自分の鍛錬不足を指摘されているようでアルフォナは顔を赤くする。
「スマンな。だが、これで悪魔討伐、そしてアルフォナの力については疑いようはないだろう?」
ノルバは美しい伝説の六剣を目の前にして。アルフォナとヘイロンの言う言葉が耳に入っていない。
自らが欲して止まない伝説の六剣が封印解除された状態で目の前にあるのだ。封印状態とは異なり、剣からは溢れんばかりの力を感じる。
ノルバは自分でも驚くほどの速さで<炎剣>の目前に移動し、柄に手をかけて持ち去ろうとする。
剣さえ手に入れてしまえば、得られた力で全て強引に解決できるとの考えからだ。
だが、アルフォナとヘイロンは無防備に六剣を手から離したわけではない。長らく六剣所持者であったテスラムに六剣について色々と教わっている最中だ。
その中に、六剣所持者以外の者は決して六剣に触れることはできないと言うものがあったのだ。
六剣所持者であれば自らが所持する以外の六剣に触れることはできるが、その力を得ることはできない。だが、六剣所持者でない者が封印状態でない六剣に触れることはできずに、ダメージを受けると言うのだ。
その情報通り、ノルバは柄に触れようとした瞬間に防壁に阻まれたようで、更に手には炎が発現している。
「ぐぁ~、手が・・・く・・・・」
悲鳴と共に手の炎を消そうと躍起になっているノルバ。
だが、六剣の力によってついた炎が簡単に消えるわけはない。
ある程度のダメージを与えたと判断した<炎剣>所持者のヘイロンは、ノルバの手に発現した炎を消す。
「ぐぅぅぅぅ・・」
ノルバの右手は爛れており、最早回復は不可能だろう。
「お前は本当にバカだな。そんなに簡単に六剣が持てるわけないだろうが」
そう言って、<炎剣>を掴んで柄として収納するヘイロンと、同様に<土剣>を収納するアルフォナ。
「キルハ王子、もう良いだろう?続けてくれ」
犯罪者からしてみれば悪魔を打ち負かす力を証明されてしまった上に、最大戦力になるノルバの惨状を目の当たりにして、最早キルハ王子に抗う気力はなくなっていた。
その状況を把握したヘイロンが、キルハ王子に話を進めるように進言したのだ。
伝説の六剣所持者を目の当たりにして呆然としていたキルハ王子だが、ヘイロンの問いかけに自分を取り戻す。
「うぇ、ああ。承知した」
軽く咳払いをして罪が確定してしまった者達に向かって宣言する。
蛙の潰れたような声を出してしまった事は、無かったことにするようだ。
「お前達の悪事は全て我らの知る所になった。残念ながら自ら罪を認める者が一切いなかったのは大変悲しい。だが王国の中の膿をこのままにするわけにはいかない。お前たちは最後まで罪を認めることができなかったことを含めて、自らの行いを生あるうちに反省しろ」
とは言え、彼らの命は今日と明日までしかないのだが・・・
やがてキルハ王子の命により、罪人たちは地下牢に連行された。
そして、悪魔によるヒルア王子と王城内の騎士、使用人達を含む王国崩壊の企みの全貌と共に、公開処刑の内容も即刻布告された。
リスド王国国民は悪魔によって王族すら虜にされて王国自体の危機であったことを認識し、ハチの巣をつついたような大騒ぎになったが、その後悪魔は完全に討伐されたことが追加で布告され、落ち着きを取り戻した。
だが、言いようのない不安は渦巻いており、その捌け口は公開処刑対象者に向けられた。
翌朝、罪人であるヒルアを始めとした面々が王城前広場に連行される。
そこには大勢の市民で溢れており、国王やキルハ王子に対する行いに対する罵倒が罪人たちに容赦なく叩きつけられている。
罪人たちは、六剣関連の余計な情報を漏らさないように全員猿轡を嚙まされて、何も言えない状態になっている。
涙を流しながら首を振る者、下を向き続けている者、この期に及んで逃れようと暴れている者がいるが、刑は執行される。
罪の重い者程後に刑は執行され、その者たちは他者の刑の執行をその目で見続けている。
これは、重罪人程恐怖を与えてから刑を執行するためだ。
やがてヒルア第二王子の番になったが、彼は最後まで王族の誇りを見せることなく見苦しく暴れており、執行人に鳩尾を力いっぱい殴られて悶絶している状態で刑の執行が行われた。
こうして、悪魔を発端としたリスド王国崩壊の危機は完全に終息したのだ。
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