ヒルアの最後と<光剣><風剣>(5)
やがてお茶もなくなり、激しい戦闘音も聞こえなくなった。
「ようやく制圧したようだ。あちらにはヘイロン殿がいるので我々が無事に作戦を終了してこの場で寛いでいることもわかっているだろう」
「そうですね。気配を探れるんでしたね」
そんなやり取りをしつつ、ヘイロン達の到着を待つアルフォナとナユラ王女。
もちろんヘイロン達が危険な状況になっている可能性などは全く考えていない。
実際その通りなのだが・・・
何杯かのおかわりを楽しんでいると、廊下が騒がしくなってきた。
「よう、待たせて悪い。そっちは偉い早く終わったようだな」
ヘイロンが豪快にドアを開けて、床に転がっているヒルア第二王子を一瞥する。
「ナユラ、無事だったか。問題ないとは思っていたが、心配したぞ」
「お兄様こそ、ご無事で何よりです」
王族二人もお互いの無事を確認して安堵する。
その後、部屋にキルハ第一王子の近衛騎士達が入室してくる。
服装はボロボロで武器も持っていないが、既にスミカによる<回復>済みなのか、怪我をしている者はいない。
「名も知らぬ皆様、この度は我ら近衛騎士の代わりにキルハ第一王子、そしてナユラ王女にご助力いただきありがとうございます。不甲斐ない私達まで救助頂き感謝の念に堪えません」
近衛騎士隊長であろう厳格な顔をした一人が、六剣所持者達にお礼を述べている。
「あ~、そう言う面倒臭いことは良いから。俺達は俺達の思惑があって動いたに過ぎない。だがこれからどうするんだ?この王城の状態を見るに、第一王子側の人間は少ないんじゃないのか?どうなんだキルハ王子?」
「おっしゃる通りです。しかし、膿は完全に出し切らないとまた同じことが起こるかもしれません。多少の人手不足は覚悟しています」
第一王子に属する近衛騎士達は救助したが、この王城の中にいる騎士全体のほんの一部に過ぎない。
つまり、大多数の騎士達は第二王子であるヒルア第二王子の手下なのだ。
「だが、事情を知らずに第二王子についている者もいるんじゃないか?」
「その通りだとは思います。しかし、我らにその確証を得る手立てがないので一旦は騎士を解任する必要があります」
苦渋の表情でキルハ第一王子は大多数の騎士を解任する決断をしている。
これは、国防力、そして自らの安全も大幅に下がる事を意味しているのだが、確実に敵ではない、敵にはならない、と言う保証がないので仕方がないのだろう。
そんな状況を理解したナユラは悲しそうな顔をしている。
「ヘイロンさん、アルフォナさん、何か手はないんでしょうか?」
「俺には何も思いつかないな。アルフォナはどうだ?」
「残念だが、私も・・・まったく、騎士道精神がわかっていない連中が多くて嫌になる」
と、そこでようやくヒルア第二王子が目を覚ました。
「う、ここは??」
暫く状況がつかめていないようだが、改めて周りを見るとキルハ第一王子にナユラ王女、そして自らの近衛騎士を叩き潰したアルフォナ、見たこともない侵入者であるヘイロンにスミカ、更には投獄させていた第一王子の近衛騎士達が無事な状態で勢ぞろいしている。
腐っても王族であり、自分のおかれた状況を完全に把握したヒルア第二王子は自らの敗北を受け入れるほかなかった。
しかし今まで王族という事でぬるま湯につかっていたヒルア第二王子は、先にナユラ王女に宣言されていた「死罪」と言う都合の悪いことは認めることができなかった。いや、何かの間違いであると信じて疑っていなかった。
つまり、最悪でも期日のある謹慎程度だと勝手に思っているのだ。
「くそ、どこで間違えた。あの悪魔が想定よりも弱かったのか?だがこの現状は認めるしかない。良いだろう、今回は俺の負けだ。だがな、いつかはお前に成り代わり玉座に座ってやる。覚悟しておけ、キルハ!」
この場にいるヒルア第二王子以外の全員が、思考停止する。
第二王子が何を言っているか、言葉は分かるが意味を理解できなかったのだ。
最も早く理性を取り戻したのは、長らく理不尽な状況に置かれつつも冒険者として生活し続けていたヘイロンだ。
「おいお前、きっと勘違いしているんだろうから教えておいてやる。お前に玉座を奪う機会は二度とない。いいか、耳の穴かっぽじって良く聞け。お前は今回の件で死罪だ。わかるか?し・ざ・い。つまり、死刑だ。これだけの事をしてなんで次があると思ったのかが俺には理解できないがな」
「あれ?ナユラ王女??捕縛の際に伝えなかったんですか?」
「スミカ様、伝えたつもりだったんですが・・・緊張していたので伝え忘れたのかもしれませんが・・・私、伝えていましたよね、アルフォナ様?」
「ああ、確かに伝えていたぞ?公開処刑とな」
ようやく少しだけ状況がつかめてきたヒルア第二王子は、青ざめた顔になってきた。
だが、自らが死罪等とは決して受け入れることはできない。
下民とは違う高貴な血が流れていると信じて疑っていないのだ。
「このリスド王国の国王であるこの私が公開処刑だと?そんなことはありえない。至高の王族であるこの私がそのような・・・貴様ら!」
「黙れ!貴様は国王でも、王族ですらないただの薄汚い反逆者だ。恥を知れ!貴様が破壊したこのリスド王国は父の遺志を継ぎ、この私キルハが立て直す」
「な、高貴な私を反逆者だと?貴様らこそ反逆者だ。そこの騎士!反逆者であるキルハとナユラ、そして侵入者たちを捉えろ!これは王命だ」
近衛騎士達はヒルア第二王子の叫びには一切耳を傾けていない。
ひたすら第一王子であるキルハ王子の命令を待っている状況だ。
「この期に及んで罪すら認められないとは・・・同じ血が流れていると思うと反吐が出る。だが、リスド王国全国民の為に、二度とこのような不祥事は起こさないとここに誓おう。ヒルア!貴様の処刑は二日後、王城前広場とする。連れて行け!!」
「はっ!」
何やら喚いているヒルア第二王子の襟をつかんで連行する近衛騎士達。
「お見苦しい所をお見せしました。皆さまにはこの国を救っていただいた恩があります。我らでできる事はさせて頂きますので、どうぞ仰ってください」
「だから、そんなつもりで助けたんじゃないっての。だが、俺達の目的を達成するためには味方は多い方が良い。何かあれば頼らせてもらおう」
「確かに味方は多い方が良いですよね」
「ああ、私もその通りだと思う。貴殿達ならば信頼もできそうだ。それにこの場にいる近衛騎士達は私の思い描く騎士道精神と一致している」
六剣所持者の意見は一致した。
信頼できる仲間は多いに越したことはないのだが、危険な戦闘等をさせるつもりは一切ない。例えば食料、寝床、そして情報等が得られればいいな・・・程度ではあるのだが。
六剣所持者の思いをどこまで理解しているかわからないが、キルハ第一王子は覚悟をした顔つきで、
「何かあれば全力でサポートさせて頂きます」
と言い、ナユラ王女と共に深く頭を下げた。
王族に頭を下げられるのを好ましく思わないヘイロンは、話題を変える。
「それで、あの王子を二日後に処刑と言っていたが・・・」
「ええ、この城内にいる反逆者に恐怖を植え付ける意味でも公開処刑とします。もちろん明朝にはお触れを出して大々的に情報を拡散する予定です。合わせて私の王就任も宣言する予定です」
「第二王子についていた近衛騎士達は解任しますが、メイドなどは全て解任してしまうと王城内部が崩壊してしまいますので・・・私達について頂いていた者達は昇格を、明らかに敵意を持っていた物は解雇、そうでない者は降格を行う予定です。暫くは大変になるかもしれませんが・・・必ず立て直して見せます」
力強い王族二人の宣言を聞いて、六剣所持者はリスド王国の明るい未来を確信した。