ヒルアの最後と<光剣><風剣>(3)
残る六剣の内<風剣>所持者候補が決定している時に、ヘイロン率いる一行は王都に向かって爆走していた。
ナユラ王女と第一王子はアルフォナの<土魔法>による入れ物に入れられ、それぞれ担ぎ上げられた状態だ。
当然走っている振動や、<土魔法>の練度が低いためにできてしまった隙間からの突風にやられて酷い有様になっている。
「う”ぇ、痛いし、気持ち悪いし、寒いし・・・行きとは比べ物にならないじゃないですか・・・」
「おい、王女さん、舌を噛むから話すなよ!!」
そんな注意を受けつつ、時々スミカによる<回復>を受けて何とか王城に帰還する。
第一王子の部屋に侵入?後、<土魔法>を解除して二人を確認すると、髪はぼさぼさ、涙、涎、鼻水等、顔面は王族・・・いや、人として見せてはいけない無残な状況になっていた。
いくら<回復>でもこの状態は回復することができないらしい・・・
この惨事を引き起こした当事者三人は、何も見なかったことにして普通に話を始めることにした。
「それでお二人さん、第二王子をとらえに行くんだろ?」
「ヘイロンさん、違いますよ。先ずは近衛騎士の開放でしょ?」
「そうだぞヘイロン殿。だが万が一悪魔と定期的に連絡を取り合っていたりすると、逃げられる可能性もあるな。二手に分かれるのはどうだろう?」
「あの、お話し中申し訳ありません。少しだけ、本当に少しだけでいいんで時間をいただけますか?」
兄と妹でお互いの顔を確認した、いや、してしまった王族二人が見栄えを気にしている。
今は緊急事態だが、それ以上の緊急事態が顔面に起きているのだ。やむを得ないだろう。
「う、スマンなお二人さん。俺達はまだうまく力を使いこなせないんだよ」
「申し訳ありませんでした。私たちは少し作戦を考えていますのでその間にお願いいたします」
その言葉を聞いた王族二人は、隣の部屋に一旦退避した。
その間、六剣所持者の三人は今後の動きを確認する。
「ちょっと待ってくれよ・・・っと、近衛騎士かどうかはわからんが、なかなかの強さの連中が地下の一か所に固まっているな。牢獄の中だからこれが第一王子の近衛騎士で間違いないだろうな。あとは・・・あっちの上の方にも多数の近衛騎士と王族っぽいのが一人いる。あっちは第二王子だろう。互いの距離が結構あるが、どうする?」
「近衛騎士開放には第一王子、第二王子対策にはナユラ王女が向かうのはどうですか?」
「私も賛成だ。すると同行は?」
「地下は少々入り組んでいるからな。俺が行った方が良いだろう。だが開放する近衛騎士の状態はあまりよくなさそうな感じだ。スミカも同行して<回復>をかけてもらった方が良いかもしれないな」
「すると、私がナユラ王女と共にあっちに向かえばいいのだな?」
「そうなるな。だがナユラ王女の護衛をしつつ奴らを相手にするんだ。少々骨が折れるかもしれないぞ?」
「まったく問題ない。私は護衛対象を守りつつ戦う事を常に強いられてきたからな」
「でも気を付けてくださいね。私たちもすぐに向かいますから」
「ああ、そっちも気を付けるんだぞ」
六剣所持者の動きが決まった段階で、隣の部屋から顔をきれいにした王族が入ってきた。
「お待たせして申し訳ない。これから私の近衛騎士の開放をしたい。ご助力をお願いする」
「その事なんだが、あんたの近衛騎士はあっちの地下にいるようだ。解放には俺とスミカが同行する。そしてナユラ王女、第二王子の捕獲についてはアルフォナと二人でやってくれ。とは言っても、アルフォナには第二王子が誰だがわからないから確認するだけでいい。戦闘と護衛はアルフォナに任せておけ」
ヘイロン達の強さを信じている王族二人は、異を唱えることはしなかった。
「ヘイロン殿、あちらの方向ということで間違いないですか?」
「ああ、地下の牢獄に多数の人間がいる。近衛騎士かどうかの確定はないがな」
「やはり・・・あちらの地下は第二王子であるヒルアの敷地なので、私でも詳細はわからない。無事たどり着けるだろうか?」
「任せておけ。俺はこの距離でも居場所をつかむことができているんだ。問題ない」
行動を開始しようとしたときに、不意にアルフォナが・・・
「ヘイロン殿、第一王子、ナユラ王女確認だ。ヒルアとか言う第二王子の護衛と戦闘になった際、手加減は必要か?そしてもう一つ、ヒルア王子は生きてさえいれば良いか?」
彼女からしたら、条件によって戦闘時の動きが変わってくるので確認しておきたい事項になっているのだろう。
ナユラ王女が凛とした声で回答を出す。
「ヒルアの護衛の生死は問いません。しかし、ヒルアには罰を受けてもらう必要があるので、命だけは取らないようにお願いします。お兄様もそれでいいですね?」
兄である第一王子も深く頷く。
「よし、じゃあ作戦開始と行くか?速度重視であればさっきの移動と同じように担いで行くか?」
せっかく顔面を直したのに、また大惨事になってはたまらないと王族二人は担がれる事を秒で拒否した。
「アルフォナ、一応そっちの気配も感知しておく。俺達の作戦が終了した時点でそっちが終わってなければ俺達もそちらに向かうが、問題がない場合は作戦終了後はこの部屋で落ち合おう」
「アルフォナさん、気を付けてくださいね」
「ああ、そっちもな」
二手に分かれて第一王子の部屋を出る面々。
一方は目的地を<探索>で確実に補足しているヘイロンが先頭に立ち、もう一方は凡その位置しかわからないので、王城を熟知しているナユラ王女が先頭に立って移動する。
アルフォナは、<土剣>で得られた<土魔法>の練度を上げるべく、移動中も簡単な魔法を発動しながら進んでいる。
進行方向の壁、床に見えない程度の土を発現させて、生物が潜んでいないか確認しているのだ。
六剣所持者が得られる基礎属性に対する力は膨大であるので、一般的には想像もすることができない効果を持つ魔法等が行使できるようになる。
やがて第二王子と護衛である近衛騎士がいる部屋の前までやってきた。
ここまでは誰とも遭遇していないように見えるが、実際は<土魔法>によって邪魔者は壁の染みになっている。
アルフォナは気配を察知できる力量の持ち主だが、万全を期すために<土魔法>を使用して同様に部屋の内部の確認を行った。
「ナユラ王女、この中の一番奥に椅子に座っている一名、そしてその背後に二名、このドアの間には七名の近衛がいます。侵入と同時に七名を捕縛しますので、その間に椅子に座っている物が第二王子か確認してください」
「ええ、分かったわ。その後はどうするの?」
「第二王子であればナユラ王女はそのまま入口から動かずにいてください。もし、第二王子でなければ一旦撤退しますので、申し訳ありませんが私が抱えて撤退させていただきます」
顔面大惨事の再来を予想していやそうな顔をしたナユラだったが、気持ちを切り替える。
「わかりました。よろしくお願いします」
「では行きましょう」
アルフォナは抜剣し、ドアを蹴り破った。
そこそこ良いドアであったのだろう、轟音と共にドアが吹き飛び、運悪く?吹き飛んだドアによって行動不能になった騎士が四名程いる。
しかし彼らも近衛騎士であるので、一瞬の硬直の後にすかさず抜剣して戦闘態勢に入る。
「アルフォナさん、あれは第二王子であるヒルアです」
「貴様ナユラ!なぜここにいる。なぜ生きている?」
動揺している第二王子をよそに、アルフォナは近衛騎士を難なく処理していく。
第二王子の背後にいた二人も反撃する間も無く地に臥している。
この場で残ったのは、アルフォナ、ナユラ王女、そしてヒルア第二王子だけだ。