ヒルアの最後と<光剣><風剣>(2)
「なあ、テスラムさん。あんた、六剣所持者なんじゃないのか?」
俺の問いかけに、驚くでもなく見つめ返すテスラム。
「フム、どうしてそのように思われたのでしょうか?実際いまの六剣は四本が抜剣され、それぞれヨナ様、アルフォナ様、スミカ様、ヘイロン様がお持ちです。そして残った二剣の<風剣>と<光剣>は未だ封印状態のままですが?」
「六剣所持者の総意、そして無剣所持者としての勘だ」
「私は悪魔でございます。無剣所持者であれば初代からの伝承も引き継がれているでしょう?悪魔討伐の伝説の剣を悪魔が持つなど・・・」
そう言って首を振るテスラム。
「いや、俺が知っている六剣の伝承は、この大地を滅ぼそうとする悪魔に抗う剣であって、悪魔が持てない剣ではない。それに繰り返すが、六剣所持者もあんたには同じ匂いがすると言っているし、六剣を統べる無剣所持者の俺も、あんたは六剣所持者の資格者ではなく六剣所持者だと断言できる。なぁ?<風剣>所持者テスラム!」
俺の断言に、少々動揺が見えるテスラム。
「フフフ、かないませんな。そこまでお判りなら隠しても無駄ですな。ええ、ロイド様のおっしゃる通り、私は元<風剣>所持者だった者です。それも初代無剣所持者の時代の・・・ですが、今尚<風剣>を所持できるかと言われると、何とも言えませんな」
「どう言うことだ?」
まさか俺に敵対するという事か?
若干警戒度を上げ、ヨナも少し腰を落として臨戦態勢に入っている。
「いやいや、誤解なさらぬよう。決してロイド様に害を与えようなどとは考えておりません。そうではなく、長く隠れていた私のような者に、資格があるか・・・自信がないのでございます」
「そうか、そもそも何故そのような長い期間ここにいたかを説明してくれないか?」
「老骨の昔話になってしまいますが・・・良いのでしょうか?」
「是非頼む」
すると、ヨナは<闇魔法>で収納していた椅子、机、そして紅茶を出してゆっくりと話を聞ける体制を即整えてくれた。既に警戒態勢は解いている。
でも、ここってSランクダンジョンの中だよな?とは思わなくもないが、ま、良いだろう。
「ロイド様は、悪魔、魔族、魔獣の違いはご存じですかな?」
「う~ん、強さの順とか、支配層とかそう言ったところか?」
「凡そ間違いではございません。この中では悪魔が最上位、そして魔族、魔獣と位が下がり、位が下がるほど自我はなくなります。そして、魔神に直接生み出された魔に連なる者たちは上位であるほど力を持ちますが、滅せられると瘴気が霧散して再生はできません。しかし下位、例えば魔獣等はこの星に生息する数は決まっております。つまり、討伐されてもどこかで新たに生まれるのです」
「それがダンジョンや森でいくら魔獣を討伐しても、どこかに魔獣が生まれ続けている理由か。だが、上位の者は滅すると数を減らす一方なのか?そうすると、初代無剣所持者がかなりの数の悪魔を見逃したことになるんだがな」
「上位の者になりますと交配や召喚で産まれますので、全てを一気に滅すれば存在自体はなくなると思います」
すると、強さでは当然上位が強いが繁殖としては非常に脆く、下位は弱いが数が多いと言う事か。
「下位の魔獣を滅する方法はないのか?」
「ございます。上位である悪魔は、その者が持つ力に応じて魔族、または魔獣を眷属とすることができます。その悪魔が眷属を滅すれば再生することはありません」
「その方法だと、現実的には俺達が実行することはできないな」
「残念ながらその通りでございます。他にも方法があるかもしれませんが、存じておりません。そして私事の続きではありますが、私が意識を持った時は既にこの星で主となるべくお方がおそばにおりました。初代魔王と呼ばれたお方です。このお方は争いを好まず、ある意味魔の国で王でありながらも反感を買っているお方でした。そしてその方の眷属は最弱の魔獣、スライムだったのもより反感を買ったのでしょう」
今のテスラムの眷属もスライムだ。とすると、話の流れからその王はもうこの世にはいないのだろうな。
「ここまでで既にお判りでしょうが、我が主は実の妹に殺害されております。私が駆け付けた時には、既に助からない状態でした。その時に眷属のスライムを託されたのです。幸運にも私はその時点でどの魔獣とも眷属の契約をしておりませんでしたので、我が主の遺志を継ぐことにいたしました」
残念ながら予想通りだ。しかし、悪魔にもテスラムのように良い奴もいるんだな。
「しかし悪魔の世界は力が全てです。我が主の妹は暴君です。今尚その力をもってして魔国を統治しております。当時は我が主亡き後、スライムを眷属とした私をあの王は酷使してきました。元から気に入らない姉である我が主の執事を務めていた私ですから、余計に腹いせしたかったのでしょう。やがて王都の廃棄物処理などの業務をスライムが自動で行えるようになるまで鍛錬すると、容赦なく王城から追い出されました。そして、宛もなくさまよっている時に初代無剣所持者殿とお逢いしたのです」
「そして、主人の無念を晴らすために<風剣>所持者になった・・・と?」
テスラムは深く頷く。
「まさか、取り逃がしているとは思いませんでしたが・・・あの時は完全に滅したと全員が思っておりました。そして、六剣所持者で話し合い、無剣所持者の護衛を<闇剣>所持者一族に託し、他の六剣所持者は剣を封印したのです。ですから、現<闇剣>所持者のヨナ殿。あなたとあなたの一族には初代<風剣>所持者として深くお礼申し上げます」
「気にしないで。私達一族がやりたくてやった事」
さすがにテスラムにはヨナの本名はばれている。
「ありがとうございます。そして、他の所持者よりもはるかに寿命の長い私は人目を避けてここ生活しておりましたが、いつ間にか魔王城に復活した王女や直属の配下、そして新たに召喚された悪魔達が活動を始めたのです。もちろん王城跡地にも我がスライムがおりますので、情報は常に入っておりますが・・・これが私の現状でございます」
「ならば、改めて前の主人の仇を打つ必要があるんじゃないのか?」
「正直に申し上げますと、いくら六剣所持者と言えど老骨一人には荷が重く、お恥ずかしながら二の足を踏んでいたところです」
「ならば現無剣所持者の俺が切っ掛けを与えよう。この世の平和を乱す者たちへ鉄槌を加えるため、お前を<風剣>所持者として認める」
「私などが・・・いえ、あまりに長い間閉じこもっていたので耄碌したようです。我が主人の仇、取らぬまま生涯を終えるわけにはまいりませんな。無剣所持者ロイド様。この私、悪魔ではございますが<風剣>所持者として忠誠をお誓いいたします」
急展開だが、残るは<光剣>だ。実は俺の中では既に所持者候補は決まっている。
本人にその気があるかは別だが・・・