ヒルアの最後と<光剣><風剣>(1)
「ふ~、ちょっくら疲れたぜ。嬢ちゃん、アルフォナ嬢、スミカ嬢、お前ら位の力があれば瘴気の浄化位何とかなるだろ?あの下級の悪魔の瘴気除去でこれ位疲れるとなると・・・今後はあの力を手に入れるまではお前らにも手伝って貰わねーと俺の体がもたんぞ」
「なにおじさん臭いこと言っているんですかヘイロンさん!」
「そうだぞヘイロン殿、貴殿の<炎魔法>は素晴らしかったが、より使いこなせる鍛錬と思えば辛くもなかろう?」
「激しく同意!!」
本来の<浄化>は、光の基礎属性を持つ者が行う。
もちろんここでヘイロンが言っているあの力とは、<光剣>の特化スキルである<浄化>の事を言っているのだが、第三者がいるので曖昧な表現になっている。
「いや、辛いから言ってるんだよ!!嬢、さりげなく同意とか言ってんじゃねーよ。お前がこの中で一番力を使いこなせるんだから、あんな瘴気の浄化なんて問題ないだろ?」
「うん、実は簡単。でもやらない」
ヨナが六剣所持者として一番長く活動しており先祖からの技術継承もあるので、<闇魔法>を駆使した浄化も難なく行うことができる。
「ぐぉ~、ここに俺の味方はいないのか??ロイド、お前もなんとか言え!」
「いや、スマン。ヘイロンの言い分もわかるし、鍛錬というアルフォナの言い分もわかる。今後の事を考えると、鍛錬した方が良いかな・・・と思わなくもないのが正直なところだ」
「くっそ、だとしたらスミカ!お前も俺と同じ、いや俺以上に鍛錬する必要があるんだからな。覚悟しておけよ!!」
「え”~、私武器をもって数日ですよ??」
「え、に濁点をつけるんじゃね~よ!武器を持って数日だから鍛錬すんだよ」
「スミカ殿、この件に関してはヘイロン殿が一理あると思うぞ。もしよければ私が剣術の基礎を教えるが?」
「う”、あ、ありがとうございますアルフォナさん」
「う、にも濁点つけんじゃねーよ」
ギャーギャー騒がしい俺の仲間はマイペースだ。
一方王子とナユラ王女は、
「ロイド殿、まさか本当に悪魔を討伐するとは思っていなかった。いや、これは討伐というよりも・・・なんて言ったらいいのか・・・最早戦闘ですらなかったな。しかし本当にありがとう。これで我が国、そして民も救われる。ここからはいくら私でも容易に動ける。先ずは騎士団を開放し、王族の汚点であるヒルア第二王子を断罪の上、奴の配下は全員罪を償わせる」
「私からも改めてお礼を言わせてください。ロイド様にお会いできなければ、私の命はあのダンジョンで尽きておりました。私だけではなく祖国まで救っていただき、本当にありがとうございます」
「いや、俺には俺の思惑があって助力したに過ぎない。そんなに礼を言われる程の事でもないさ」
「・・・ロイド殿、大変申し訳ないが、いや、言いたくなければ言わずとも良いのだが、貴殿は悪魔に復讐する者か?」
「大雑把に言うとそうなるな。だが復讐の対象は悪魔だけではない。俺の母の死に間接的に関わったフロキル王国の腐った連中もそこに含まれる」
「そうか。もし、もしだ。何か我らに助力させて頂けることがあれば遠慮なく言ってほしい。その程度でこの恩は返せるとは思っていないが、恩人に少しでも報わせてもらいたい」
「ああ、その時は頼もうか」
正直に言うと他国の人の良い王族を巻き込むつもりは一切ないが、真面目そうな性格だから一旦受け入れないと話が終わらないと思ったんだ。
受け入れておけばこれ以上この件で何か言ってくることは無いだろう。
俺は次の行動を促すことで、余計な事を言われないようにした。
「ところで、王子の寝室があれだけ破壊されたから王城は少し騒がしくなってるんじゃないか?混乱に乗じて、近衛騎士を早めに開放してやった方が良いと思うが?」
「その通りだ。よし、ナユラ!早速戻るぞ!!」
「ちょっと待て二人共!」
ヘイロンが二人を止めた。
「お前らここから全力で走っても、到着時には朝になっちまうぞ?それに、近衛騎士の正確な場所、知ってんのか?」
既に敬語のケの字もない普段通りの言葉使いになっているヘイロンだが、王族二人は一切気にならないようだ。少し安心した。
この期に及んで不敬罪と言われても困るからな。
「う、そんなに距離が離れているんですか?皆さんに運んで頂いた時は一瞬でしたが・・・」
「それはそう。でも普通に二人を運んでいたら風の力で息ができなくなるから、私の魔法で包んで運んだ」
「嬢の言う通りだ。俺達のスピードと普通の人のスピードは比べ物にならない。乗り掛かった舟だから、第一王子が正式に即位できるまでは面倒見てやるよ。でいいな、ロイド?」
なんだかんだ情に溢れたヘイロンだ。頷きを持って返事とする。
「何から何まで申し訳ない」
王族二名が深く頭を下げる。
「じゃあ俺とアルフォナ、そしてスミカと王族二名で王城に行き騎士を開放してくる。運搬中の保護は・・・スミカ、頼んだぞ。ロイドと嬢はあの爺さんに聞きたいことがあるんだろ?こっちは問題ないからさっさと行ってこい」
そう言って、俺の耳元にいるスライムを見るヘイロン。
こいつは何でもお見通しか。
そして、王族の運搬は本来ヨナが一番適しているのだが、あえて俺の傍にいられるような配置にしている。
俺と同じく、あの爺さんからは長く俺を守護している<闇剣>にもかかわる話が出てくるとヘイロンもわかっているのだろう。
長い付き合いなので、わざわざ言葉にしなくても考えていることがわかる。
「ああ、助かる。詳しいことがわかったら戻った時に話す。一応ないとは思うが、気を付けてくれよ」
「まったく問題ないな。そっちも気をつけろよ?大丈夫だとは思うがな」
そう言って、アルフォナの<土魔法>で王族二人を囲うように防壁をつくり、防壁ごと抱えて王城に向かって消えて行った。
アルフォナが初めて使った<土魔法>なので所々に隙間がある。
その隙間から空気の衝撃波が来る事はヘイロンもお見通しだ。
その衝撃波によって具合が悪くなったり、体にダメージを負った瞬間にスミカの<回復>で治す荒業で王都まで行くことになっている。
そんな事を知るわけもない王族二人は、行きとはあまりにも違う待遇に悲鳴を上げ続けていた・・・らしい。
俺とヨナは、Sランクダンジョンのに即向かった。
もちろん俺の耳元にはスライムがいるし、そこら中にスライムが存在しているのでさっきの会話も聞かれているだろう。
ダンジョンに入ると、一階層の早い段階でテスラムが優雅に一礼して待っていた。
「この度は初悪魔討伐、おめでとうございます。ですがあの悪魔は第六階位。まだまだ上はおります故、油断、慢心なされないよう・・・」
「ああ、ありがとう。もちろん油断などはするつもりはない。必ず母さんの復讐は果たす」
今回のアルフォナの戦闘を見て改めて俺は思った。六剣の力がなくとも<無剣>のみの力で十分に悪魔と戦うことはできる。
なので、あの時母さんがあの悪魔にやられたのは、やはり余計な邪魔が入ったからに他ならないと確信した。
リスド王国の第一王子のような人物が統治していれば、あんなことにはならなかっただろう。
改めてフロキル王国への復讐を誓った俺だ。
しかし、それはそれ。
ここに来たのは復讐の確認をするために来たのではない。
俺、そして現六剣所持者の意見の一致を見たので、確認しに来たんだ。
「なあ、テスラムさん。あんた、六剣所持者なんじゃないのか?」