現実
「ふぁ~、よく寝た。久しぶりに母さんと一緒の夢を見ることができたな」
「ロイド様、もうお昼ですよ。本当によく寝ていましたね。でも楽しそうにほほ笑んでらしたので、ユリナス様の夢を見ているのがわかりました」
「ああ、本当に久しぶりに母さんと夢で会えたよ。お前も出てきたぞ、ヨナ」
「光栄です」
そう言って着替えと食事の準備をしてくれているのは、母さんの時代から俺たちに仕えてくれているメイドのヨナだ。
年は俺よりも少し上の綺麗な女性だ。
「それにしても、やけに具体的な夢だったな。絵本の中身まで出てきたからな。昨日何となく絵本を見たから思い出したのかな?」
そう言って、母さんから受け継いだ指輪の機能の一つである無限収納から絵本を取り出した。
この指輪を受け取ってから暫くして、俺の胸のあたりに何となく母さんから感じた温かさを感じられるようになっていて、日に日に大きくなっている。
母さんが俺の事を見守ってくれているんだろうか?
「懐かしいですね。本当に良くユリナス様はロイド様にその絵本を読んでました。ロイド様も嬉しそうに聞いてましたよ」
「あぁ、何となく覚えてるよ。でもヨナは凄いな。俺と大差ない年なのによく覚えているんだな」
実はこの絵本、この王国だけではなく周辺国にもよく売られている絵本で、何でも昔の事実を元に書かれた絵本という触れ込みで売れ続けているらしい。
そういう形で長い間売れ続けている絵本なのだが、今では御伽噺として受け入れられている。
長い間売れ続けている理由としては、絵本の中身に一本の最強の剣とそれを囲うように六本の剣が出てくるんだが、その剣が石に刺さった状態で今も存在するからだ。
つまり、現実とも受け取れるような御伽噺なので、夢があるから皆に受け入れられているのだろうと思っている。
で、中央の最強の剣と闇を表す黒の宝玉を冠する闇剣は、剣が抜けた状態の石だけがあり、その他は剣が刺さったままの石がある。
これは、夢にも出てきたように、俺が四歳になる前に母さんと見に行った状態と変わりない。
そして、絵本にはこの剣に認められて剣の主となれば、それぞれの<基礎属性>の力を極限まで得ることができるとある。
つまり、岩から剣を抜けさえすればいいんだ。
なので、冒険者だけではなく、なぜか商人や貴族連中も暇さえあれば剣を抜こうとやっきになっている笑える状態だ。
御伽噺として有名な話しだが、万が一を捨てきれないんだろうな。
その理由としては、実際に二本の剣は抜かれた状態の石があるからだ。
ある研究者によれば、物語の真実性を増すためにわざわざこんな石を作成し、さらに夢を与えるために剣が抜けた状態の石も作ったという仮説がある。
つまり、突き刺さっている剣は石そのものであり、剣が刺さっているように見えるように加工したと言う説だ。
今日も今日とて大勢の挑戦者が剣を抜こうとしているだろう。
しかし、訪れた人たち全員に剣を抜けるチャンスがあるわけではない。
なぜかこの剣が刺さっている石の周りには障壁があり、障壁の内部に入れる人間は一握りになっている。
ある不遜な貴族が防壁を超えられずに騎士たちに防壁を攻撃させたが、傷一つつけることができなかったことは有名だ。
そして、別の貴族は障壁こそ突破できたが、当然誰も抜くことができない剣の宝玉部分を取り出そうとして、こちらも傷一つつけることができずに帰っていった。
ちなみにその貴族は翌日にも果敢にチャレンジしようとしたが、今度は障壁を超えることができなくなっていたと言うことだ。
なので、御伽噺とわかっていても貴族すら本気で剣を抜こうとしていることから、もし本当に抜ければ面白いし、一気に最強になれるんだからやってみて損はないだろ・・・という感じだな。
でも、俺・・・いや、俺とヨナはこの物語が本当の話だと知っている。
俺は母さんの形見であるこの指輪・・・いや、すでに指と同化しているので術を起動しないと外すことはできないが、その中に収納されている最強の剣である無剣を出した。
全ての剣の柄部分にある中央の宝玉が他の剣よりもひときわ大きいこの剣こそが、すでに抜けている無剣であり、メイドのヨナが持っている剣が闇剣だ。
一時、あのクソ国王が抜けている剣の探索を行うために、全ての武器のチェックをしたことがある。
と言っても、あのクソ国王の治める国の中だけでしかないが・・・
それは、柄の宝玉で見分けようとしているのだろうが、そんな甘い考えで見つけられるもんじゃない。
実はこの剣、主と認めた者の要求に応じた形態に変化することができるんだ。
今俺は剣のまま無限収納に保管しているが、ヨナはネックレスとして装備している。
そして、いざ戦闘となれば各剣の機能を最大限所持者に活用し易い形態に変化する。
剣その物でも、変形形態の武具や防具でも破格の性能である上、<基礎属性>の剣を持つ者はその<基礎属性>においては所有した瞬間に最強になれるのだ。
いや、多少の修練は必要だが、普通の人と比べると最強と言って良いだろうな。
あのクソ王が血眼になって探したのも理解できなくはない。
ヨナの闇剣は霧状の服?が体を覆う形の変形をしていたが、もちろん状況に応じて形状は変えられる。
なんであのクソ王が家探しのようなことを国でしたかというと、これも伝承であり事実だが、基礎属性を司る剣を持つものの配下は剣の影響下に入り、無類の強さを得ることができるからだ。
結局自国の戦力を大幅に増強できる期待、いや、醜い野望があったからだろう。
クソ王としては、自分の<基礎属性>である光剣が欲しいんだろうな。
だが残念!そう簡単に手に入るわけもなく、最も重要なのはこの剣に認められるという部分だが、実際は最強の剣を持つ俺にも認められる必要がある。
闇剣を持つヨナの一族は、常に俺の母さんの直系の護衛をし続けてくれていた。なので、闇剣の持ち主として最強の剣である無剣の主から認められ続けていることになる。
残念ながら他の剣に関しては、母さん直系の一族から離れた瞬間に次の世代に継承できなくなり、岩に刺さった状態に戻ったのだろう。
無限収納にはそのあたりの秘密?に関することも歴代の無剣持ちが記述してくれた物があった。
そこには、万が一無剣や闇剣を紛失したとしても持ち主の手元に戻ってくるとも書いてある。
母さんと違いズボラな俺にはとてもうれしい親切設計だ。
更には追加の親切機能として、<基礎属性>を司る剣の主は無剣を持つ者・・・つまり俺を害そうとした時点で剣を持つ資格を失い、能力も全て失うようだ。
つまり、俺は人族最強になってしまったことになる。
そんな俺だが、いまだ俺はあのクソ王に追放された後に母さんと住んでいた宿を寝床にしている。
なので俺はこの王国に悪魔や魔獣が来ても、よくしてくれているこの宿屋の人たちや仲良くしている冒険者を助けることはしても、貴族・王族を助けるつもりは一切ない。
それだけ俺の恨みは深いんだ。