ヘイロンとスミカの子
「ウフフ、リサちゃ~ん。今日もとっても可愛いわよ~。元気ですね~。ママはとっても嬉しいわ!」
「えっへっへ。本当に可愛すぎるぜ、スミカ。良くやった。こりゃー悪い虫がつかねーように、パパ、頑張っちゃうぜ?」
屋敷の一室にいるヘイロンとスミカ夫妻は、毎日のように同じ話で異様な盛り上がりを見せている。
その話題の中心になっているのは、最愛の娘であるリサと名付けられた赤ちゃんだ。
赤ちゃんではあるが、何となくスミカと同じ雰囲気を出している感じがしており、間違いなく美人で、可愛くって、優しくって……と、親バカヘイロンはそんな事を真剣に考え続けている。
そしてその表情は何とも言えない表情になっており、第三者が見れば裸足で逃げ出してもおかしくない様な、THE変質者と言った感じになっていた。
妻であるスミカの目には愛娘を溺愛する頼りになる旦那と言う補正がかかっており、この怪しい顔ですら頼もしい顔に見えている。
ある意味似たもの夫婦だ。
「失礼いたします。リサ様のお着換えをお持ち致しました。はぁ~、本当に可愛らしいですね~」
実際に可愛いので、この時点で既に使用人達からも溺愛されているリサだ。
「だろ?流石は見る目があるぜ、フレシアさん!」
「ええ、ええ。本当に、これだけは自信があります。リサ様は本当に愛らしくって、そのキュートな目、凛とした御鼻、そしてぷにぷにのホッペ。どれをとっても非の打ち所がございません!」
「フフ、ありがとうございます、フレシアさん!」
このメイト長のフレシアとの会話も最早日課となっているのだが、彼らは毎日本気で思っている事を口に出しているだけだ。
既にお乳は飲み終えて今にも寝そうな感じではあるのだが、ヘイロンパパには重大な使命が残されている。
突然真剣な表情に変わるヘイロン。
と同時に、この場にいる妻スミカとメイド長フレシアの表情も真剣になる。
「よしっ、行くぜ!」
小さいながらも勇ましい掛け声と共に、大切に、本当に大切に、そしてこれ以上ない程に慎重に優しく娘のリサを抱き抱えるように移動させて、背中をさする。
時折軽ーく背中を叩いたり、ユーラユーラと揺れながら同じ作業を繰り返すヘイロン。
「……ゲプッ……」
「「「お~~~~」」」
そう、お乳の後のゲップを出させる作業に移行したのだ。
目的は達したが、ヘイロン達の真剣な表情は変わらない。
リサを再び優しく、そ~っと柔らかく敷き詰められた布団の上に下ろすと、フレシアが持ってきた服に着替えが始まる。
「おっ!リサちゃーん。とっても良いウ●チ!パパ嬉しーな!!」
あのミンジュと戦闘していた時にさえ、これ程緊張していただろうかと思いつつ作業をしているヘイロン。
本当に緊張しながら愛娘の世話をし、幸せを噛みしめていた。
当然朝の行程以外にもヘイロンには重要な任務が待ち構えている。
同じ様に着替えやゲップの対応、そして夜には湯あみをさせるのだ。
この屋敷、豪華な造りである為にお風呂が存在する。
魔道具によってお湯も出る優れものだ。
「よ~し、リサちゃーん。一緒にお風呂に入りましょうね~!!」
準備万端のヘイロンは、風呂の中で外にいるスミカからリサを受け取り、デレッデレの顔で優しくリサを温める。
そして、暖め過ぎない様に気を付けながら奇麗に体を洗って、優しく頬にキスをしてから外に待機しているスミカに渡すのだ。
使用人達が率先してリサの世話を名乗り出ているのだが、一連の世話は決して使用人達にはやらせようとしないヘイロンとスミカ夫婦。
大変ではあるのだが、それ以上に幸せな気持ちになれるのだから、他人に任せる気持ちは更々無かった。
「ほ~、お二人の良い所を合わせた方ですな。聡明であり、優しさに溢れ、そして見た目も美しい」
その日、隣に住むテスラムが遊びに来ており、リサを見ていつものように心から思った言葉を口にして褒め称える。
テスラムにしても、これ程可愛い存在を見た事が無かったので驚いていた。
やはり苦楽を共にした仲間の子供は別格なのだろうか?
まさか孫は別格と良く聞くが、自分の年齢を考えるとそんな感じなのだろうか?とまで思い至り、無駄に少々凹むテスラムだ。