アルフォナとテスラム(1)
騎士達から絶対の信頼と、目指すべき頂と認識されている<土剣>アルフォナ。
その彼女が尊敬しているのは、ユリナス、ロイド達は当然だが、同格の<六剣>の中では特に<風剣>テスラムだ。
あのミンジュとの闘いでの技術、連携、もちろんロイドや他の<六剣>も素晴らしいのだがテスラムは頭一つ抜けており、初代<無剣>所持者時代に<風剣>を取得し<六剣>に対する知識が深く、他の<六剣>に対しても適切な知識を惜しげもなく与えてくれる存在だからだ。
特に<六剣>に慣れさせるための修行が合理的であり、アルフォナにとっても理にかなっていると感じている事から、自分が騎士達に行う修練に取り入れさせてもらっている程だ。
そしてなんと言っても、アルフォナから修行を依頼すると決して断らずにとことん付き合ってくれるのが<風剣>テスラムと言う存在だ。
「フフフ、テスラム殿。私は考えに考えぬいたのだ。何故テスラム殿はこれほどまでに素晴らしい知識をお持ちなのか……を」
「嬉しい事を言ってくれますね、アルフォナ殿。その考えに考えぬいた結論、お聞かせいただいても?」
突然の訪問、とは言っても<六剣>の力が有れば誰が来るか等は直ぐにわかるのだが、このような夜中の訪問でも嫌がるそぶりを見せずに落ち着いた対応を見せるテスラム。
因みにここはテスラムの屋敷の中にある書斎、四階にある部屋だ。
相手がテスラムではなくヘイロンであれば、アルフォナは本当に嫌そうに一蹴されるだろう。
場合によっては、近接を察知された段階で攻撃される事すらある。
もちろん攻撃はかなり力を抜いているのだが、熟練の冒険者から見ても一瞬で100回は死ねるような攻撃になる。
その攻撃を難なく無効化し、何故か不法侵入と言えなくもないアルフォナも反射的に反撃するので質が悪い。
唯一の良心は、躱したり迎撃したりするのではなく、周囲に被害が無いように攻撃を無効化する所だろう。
そんな事にはならないのがテスラムだ。
落ち着いた雰囲気のまま、アルフォナの特攻とも言える訪問を穏やかに受け入れる。
「うむ。私は真理に辿り着いてしまったかもしれない。私は人族で騎士道精神を追い求めている未熟な存在。対してテスラム殿は、長きに渡り悪魔道と執事道を極めたと言える。そのおかげではないだろうか?」
勝手に悪魔道と執事道なるモノを創り出しているアルフォナだが、本気でこう思っているのだ。
「……それは……少々、何と言いますか、買い被り過ぎなのではないでしょうか?アルフォナ殿」
直接的に悪魔道と執事道なる訳の分からないモノを全力で否定したい気持ちになっているテスラムだが、伊達に人族以上に年齢を重ねていない。
目の前のアルフォナが真剣に考え抜いたという事は誰の目から見ても明らかであり、それを一蹴する事は憚られたのだ。
思った以上に大人の対応が出来ているテスラム。
その結果、言い淀んだ挙句にあいまいな表現で対応する事しかできなかったのは仕方がない。
繰り返しになるが、アルフォナの話し相手がヘイロンであれば、悪魔道と執事道なるモノも含めて容赦なく一刀両断にされている。
その流れで、修行と言う名の実戦形式の対戦に移行するのが一連の流れになるのだ。
自らの結論を軽く否定され、更にはテスラムが自分自身を下げるかのような言い回しをするものだから、アルフォナも熱くなる。
「む?そんな事は無い。この私アルフォナが騎士道精神に誓って断言する。テスラム殿は私が騎士道精神一つを未だ探求し続けているこの時点で、既に二つの道を完璧に極めていると言って間違いない」
最早手遅れと悟ったテスラムは、アルフォナの言葉を肯定も否定もせずに曖昧に笑っている。
この曖昧に笑うと言う行為は未だかつて経験した事がなかったのだが、アルフォナのあまりにも真っ直ぐすぎる思いを受け止めきれない時に出来るようになってしまっていた。
こうなると、アルフォナは止まらない。
寧ろここぞとばかりに勢いは増す。
如何にテスラムの動きが素晴らしいか、如何にテスラムの行動が全てを先読みできているか、如何にテスラムが効率的に修行を行わせているか、長い台本を丸暗記して来たかのように淀みなくペラペラと話し始めるのだ。
そんな時にテスラムは、良くここまで舌が滑らかに動くものだ……と余計な事を考えており、話は聞いていなかったりする。
「……と言う訳なのだ。ご理解いただけたか?テスラム殿!」
「成程。勉強になります。流石ですな、アルフォナ殿」
一切聞いていなかった癖に、どのような話であったとしてもそれなりの回答になり得る汎用句を使って華麗に躱すテスラム。
因みに、曖昧に笑う行為と共に、この汎用句も複数準備できてしまっているのが流石はテスラムと言った所だ。
参考までに他の汎用句は、
「流石はアルフォナ殿。ためになります」
とか、
「深いですな。考えさせられます」
とかだったりする。