ヘイロンとスミカ(3)
「もうっ、ヘイロンさん!早く起きて下さいよ」
「んぁ~?もう少し、もう少しだけ。あと一分」
フロキル王国にある城下町。
広い敷地の上に建つ豪華な屋敷の一室にいる、ヘイロンとスミカ。
二人は結婚して共に生活をしているのだが、中々起きないヘイロンにしびれを切らしているスミカだ。
「ヘイロンさ~ん!!」
「わかった。あと十秒。九、八……二、一、0.9…0.8…」
……バサッ……
ふざけたカウントをしているヘイロンに対して、スミカが強制的に布団を剥ぎ取ったのだ。
「ホラ、ヘイロンさん。諦めて下さい」
「ファ~、今日も俺の大切な奥さんは可愛いですねっと」
起き抜けにさりげなく最愛の妻を褒めて、頬に優しく唇をつけた後に抱きしめるのはヘイロンの日課。
そして、その言葉をまともに正面から受けて真っ赤になって微笑みながら抱きしめ返すのが、スミカの日課だ。
「食堂はっと。本当はこんなにでっけー家なんていらねーのにな」
「私達には少し大き過ぎですよね。でも、キュロス国王やキルハ国王、アミストナ国王に言われては……」
世界を救った英雄に対して、それなりの対応をしている事を対外的に示さなくてはならないのは何処の国家も同じ。
今回出て来た三国の各国王が、<無剣>ロイドと<六剣>達には相当な報酬を強制的に受け取らせだのだ。
その一部がこの屋敷。
立地は、貴族が居住を構えている一角の中でも王城に一番近い場所。
この建屋周辺には、同じく<六剣>や<無剣>ロイド達が居を強制的に与えられて住んでいる。
広大な敷地に豪華な屋敷。
とは言っても成金趣味の屋敷ではなく、本人達の希望もあって大人しく落ち着いた雰囲気になっている。
豪華な内装と爵位の授与の二つを頑なに断り続けたのだが、それ以外は強制的に受け入れさせられていた。
その他の抵抗は切って捨てられたので、今本人達から見れば身の丈に合わない豪華な家に住んでいる。
「おはようございます」
当然使用人も多数おり、王国から派遣された信頼できると共に殊更有能な人物が住み込みで仕事をしている。
この使用人、フロキル王国だけではなくリスド王国、そして魔国アミストナからも派遣されている始末だ。
ここに住み始めた当初は相当居心地が悪かった二人だが、漸く慣れてきた部分も出始めている。
食堂に入って仲良く隣同士に座ると、即前菜が運ばれてくる。
王侯貴族に仕えた経験を持つ使用人達からすれば、普通の貴族でもここまで近接して座る事は絶対に無いのだが、この二人は常に引っ付いているので既に誰も違和感を覚えていない。
「相変わらず朝から豪華だな。って、もちろん皆も食べているよな?」
これもいつもの事。
ヘイロンは主人となっている自分達を待って、その後に食事を摂ると言っている使用人達を集め、そんな事はせずに自由に食事を摂るように言い含めていた。
「ありがとうございます、ご主人様。御命令通りにさせて頂いております」
代表してヘイロンに返事をするのは、メイド長であり魔国アミストナから派遣されているフレシアと言う悪魔の女性。
この屋敷に住んでいる使用人達もヘイロンの乱暴ながらも非常に優しい性格を理解しており、楽しく過ごせていた。
「もう少しでございますね、奥様!」
その流れで、フレシアがスミカの大きくなっているお腹を眺めて微笑む。
「フフフ、ありがとうございますフレシアさん。男の子か女の子。どっちになるのか、本当に楽しみです」
「フフ、男の子であれば、きっとご主人様に似るでしょうから、やんちゃなのではないでしょうか?でも芯の通った立派な心を持っていて、優しいのは間違いありませんね。女の子であれば、奥様のように心の奇麗な素敵な女性になりますよ。私達使用人一同も楽しみにさせて頂いております」
本心から言っているフレシア。
その言葉を聞いて、ド直球で褒められている事に気が付いて真っ赤になるヘイロン。
スミカはもう慣れたのか、本当に嬉しそうにしながらお腹を優しく撫でている。
「ヘイロンさん、本当に私、幸せです」
「俺もだぜ、スミカ!」
こうして、甘い甘~い二人の生活は続いて行く。