ヘイロンの日常(2)
<六剣>やロイドの存在は、この王城でも非常に目立つ。
国家戦力、世界戦力と言われる実力の持ち主なのだから当然だが、そんな彼らが纏めて王城の敷地内部を移動する時には戦闘訓練が行われる可能性が高いと知っている騎士達は、我先にと彼らの後をついて行く。
敢えて最初の方は騎士達に見えるように力を抑えて対戦してくれる配慮がある為、その動きが非常に騎士達には勉強になっているのだ。
ステージにはヘイロンとアルフォナ、そして審判役として今まで通りにテスラムが上がっている。
「それでは、どちらかが戦闘不能、または大きく戦力が下がるダメージを受けた段階で私が止めさせていただきます。では、始め!」
テスラムの掛け声と共に、二人は<六剣>を構える。
互いに<六剣>をそのまま顕現させており、最初は周囲を囲っている騎士のために相当力を抑えた戦闘をするのだが、再びテスラムの声がかかった瞬間に全力での攻撃に切り替えるのが通常だ。
二人にとってみれば準備運動にすらならない動きも、周囲の騎士、当然<六剣>配下の騎士も含まれているが、人によっては既に目で追い切れていない速度になっている。
「残り一分!」
テスラムの掛け声がかかる。
この時間が終了した段階で、周囲の騎士達の勉強のために抑えていた力を開放して戦闘を開始するのだ。
「5…4…3…2…1…始め!」
再びテスラムの掛け声の直後、周囲の騎士には二人の姿がかき消えたかのように感じる。
時折甲高い音、爆音、そして空気を切り裂くような音が聞こえ、闘技場は視界が効かないほどに何かが舞っている。
恐らく魔術の影響、闘技場が破壊されてその粉、そう言った物が霧のように立ち込めており、<六剣>レベルの力がなければ何も把握できない。
そんな中でも、周囲には他の<六剣>達の力によって一切の被害はない。
「今の攻撃は素晴らしいですな、ヘイロン殿。アルフォナ殿は、同じような攻撃を今一度受ければそこで決着です」
その状況でも、内部にいるテスラムの声だけは不思議と良く聞こえる。
もちろん<風剣>の力を使って全員に聞こえ易くしているのだ。
「そこまで!」
やがて、テスラムの声が聞こえるとスミカがモウモウとした煙が立ち込める中に平然と入っていく。
その後、やはり<六剣>の力を使って即座に煙を消去したのか、誰もが今回の戦闘の勝者を確認する事が出来た。
事前の宣言通り、立っているのはヘイロン。
座り込んでスミカによって回復をされているのがアルフォナだ。
「流石はヘイロン殿。宣言通り前回の様には行かなかった。だが、次は騎士道精神を持って修行し、私が勝利する番だ!」
「うへぇ~、お手柔らかに頼むぜ、アルフォナ!」
勝敗が決した時の状況が理解できているのは、この場にいるロイドと<六剣>だけ。
他の騎士達は何が何だか分からないが、何時もの事なのでこのまま解散となる。
前回、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けたヘイロンに対して、重力を軽減する方向で力を放ったアルフォナ。
その結果想定以上の動きとなってしまったヘイロンは、急いで修正しようとしている間に腕を切り落とされたのだ。
今回は、炎の攻撃魔術を地中に仕込み、逆にアルフォナを誘い込んで四方八方から襲い掛かった。
地中に対しての術は<土剣>の方が有利と見られがちだが、逆手を取るかのように炎の攻撃魔術を敢えて地中に潜ませ、その魔術の存在を隠し通す事が出来たヘイロンの作戦勝ちとも言える。
「はいっ。これで大丈夫です!」
「相変わらず素晴らしい。助かった、スミカ殿」
すっかり焼け焦げて動かなかった左腕も、何事もなかったかのように元に戻っている。
「ヘイロンさん。前の旅行の時、無駄に地中に魔術を隠していたのはこのためでしたか。もぅ、素直に修行をすれば良いのに、照れ屋さんですね」
常に行動を共にしているスミカには、今回の作戦のために使った魔術を万全なものとするべく修行していた事は当然バレている。
バツが悪そうにそっぽを向き、頬を搔いているヘイロンだ。