炎剣ヘイロンの戦い
ここに到着するまでに既に魔人と戦闘し、更には道中の敵の対処をし続けていたヘイロン。
アルフォナやナユラ程ではないのだが相当体力は消費しており、そう長く<炎剣>を顕現させる事は出来ないだろうと考えていた。
併せて、常に自分達をフォローしている<無剣>ロイド、<水剣>スミカの力も相当下がっている事が分かっている。
敵の攻撃の速度減少率が下がっているので攻撃を受ける頻度が上がり、その怪我の治る速度が遅いからだ。
幾度となく繰り広げられる攻撃と防御。
徐々に自分の動きも思うように行かなくなっている事を、嫌でも理解させられる。
だが、<炎剣>ヘイロンの心はこの程度では折れはしない。
テスラムの修行と聞いては瞬時に心が折れるが、仲間を守るための命がけの戦闘であれば、その意気込みが全く違うのだ。
「どうした?マドレナスを倒したのは貴様だろう?その時の技、使って見せたらどうだ?」
ヘイロンの中で、制御できる最大の業で眷属一体を倒したと言う情報は、ミンジュには筒抜けの様だ。
だがあの技には欠陥がる。
直接的に<炎剣>を触れさせる必要があり、その刃が体内にある程本来の力を発揮するのだが、今の自分の動き、そしてミンジュの実力からは達成するのは不可能だと判断していた。
気合と根性、そして仲間を思う気持ちで息つく暇もない攻撃を仕掛けるヘイロンだが、ミンジュは全ての攻撃を躱し、弄ぶように中途半端な反撃をしてくる。
「クッ、この野郎……ふざけやがって!」
明らかに遊ばれている事が分かっているヘイロンだが、どうあってもその攻撃は届かないし体の傷は増えて行く。
スミカが回復し、ロイドによってミンジュの攻撃速度は落ちているのだが、それでもダメージを負い自分の動きも遅くなっている。
流石にこのままでは勝ち目は一切ないと思いつつも、何とか起死回生の一発を探しながら多種多様な攻撃をする。
「ハハハ、攻撃の種類は豊富だな。だが、これが<六剣>最強の攻撃力なのか?もう防御する必要もないレベルだぞ」
通常の攻撃では、確かにミンジュに傷すらつけられないほどに自身の力が弱ってしまったと分かるヘイロン。
打開策が思いつかないまま、大技を封印して攻撃し続けた結果が今だ。
<炎剣>ヘイロンの通常の攻撃は一撃で容易く国家を滅ぼせる力を持っているが、ミンジュはさらに強く、余程の攻撃でなければ勝てない。
この余程の攻撃と言うのが、ヘイロンにとっては難しいのだ。
遠距離攻撃も出来なくはないのだが避けられればお終いで、避けた攻撃は味方すらダメージを負わせる諸刃の剣。
結局は自らの<炎剣>をミンジュに叩きこむと同時に術を発動して威力を直接伝える他ないのだ。
今まで幾度となく繰り返して来た考えだが、未だ実現していない状態でゴリゴリ体力・魔力が削られて少々焦り始めるヘイロン。
「ヘイロンさん!!」
その心情をすかさず察知した相棒、<水剣>スミカの声で我に返る。
「はっ、そうだよな。俺としたことが情けねー。おいクソ野郎!次の一撃が本当の俺の渾身の力を込めた最後の一撃だ。受けられるか?」
敢えて煽るように伝える事で、逃げられないようにするヘイロン。
もちろん自分が先制攻撃できるようにする為の駆け引きでもある。
真面な戦闘では、もう確実な先手は打てない程に自分の力は衰えていると判断しての決断だ。
ミンジュとしては、圧倒的な力を見せつける事で天空の神への復讐にもなると思い承諾する。
ありえないとは思うが、危なくなれば人族の戯言など聞かずにさっさと避ければ良いからだ。
「良いだろう。だが、当然反撃はするぞ?」
「はっ、当然だな……で、他には?」
不思議そうな顔をするミンジュ。
“他”の意味が分からないからだ。
「わからねーみてーだな。今のが遺言で良いかって態々聞いてやっているんだよ!」
「……貴様、その言葉……良いだろう。逆にそのふざけた言葉が貴様の遺言だ。心して来い。その脆弱な牙、確実に受け止めた上で叩き折り、すりつぶしてやる!」
ヘイロンは、挑発する事で冷静な判断を奪い、攻撃を受けるように仕向けただけに過ぎない。
その結果、例えどれ程自分が危機的状況になろうとも関係ないのだ。
「やれるモンならやってみやがれ!」
最後の力を振り絞り、その全てを相棒である<炎剣>に込める。
その力、その思いに応えるかのように<炎剣>は激しく炎を吹き出す。
その<炎剣>を上段に構えると、ミンジュに向かって突進する。
「オラァ~!」
ミンジュの直前で飛び上がり、勢いをつけて上段に構えていた<炎剣>をミンジュを両断せんと振り下ろす。
「ハハハ、この程度か?受けるまでもない」
ミンジュの発言とは裏腹にヘイロンの攻撃はかなりの力が込められている事を感じているので、その攻撃を直接受ける事はせずに<炎剣>を持っているヘイロンの両腕に左拳による突きによる衝撃波を与えて粉砕骨折させた。
こうする事でヘイロンの攻撃が着弾するまでの時間を稼ぎ、その隙に右手で持っている漆黒の剣で胴を一刀両断にしようと体を少々沈み込ませる。
ヘイロンの攻撃の軌道が明らかであったため、両腕を骨折させる程度は造作もなく行えたのだ。
流石にヘイロンが<炎剣>を放す事は無かったのでそのまま攻撃は継続されるのだが、思惑通りに攻撃速度は一気に落ちており、ミンジュは漆黒の剣に意識を向ける。
「貴様!攻撃を受け止めると言っておきながら!!」
少々遠くで<土剣>アルフォナが何か叫んでいるようだが、勝利すれば問題ないミンジュとしては、羽虫が飛んでいる音程度にしか聞こえない。
「あっ……」
思わず漏れた、ミンジュの声。
その直後にヘイロンと戦闘していたミンジュの体は一気に燃え上がり、灰すら残らず消え失せた。
「助かったぜ、スミカ!」
そう、こうなる事を見越していたヘイロンとスミカ。
味方であるアルフォナですら焦ったこの状況でも冷静に行動し、ミンジュが油断した一瞬の隙にヘイロンの腕を回復して攻撃したのだ。
この信頼関係がなければ、ヘイロンの胴は上下に分かれていただろう。