魔神と六剣・無剣(2)
敵の体が消滅している故か、攻撃の手ごたえが無くなっているのだが……ミンジュの力が増大している。
むしろ、その力の増大に伴って消滅が早くなっているように見えるのだ。
無暗に攻撃してもダメージを与えられないと、ヘイロンを筆頭に全員がミンジュから距離を取る。
「フフ、楽しい前座だったぞ。なるほど。この力になると消滅を始めるのか……」
ロイド達にはわからない事を言っているミンジュ。
天空で戦闘をしている神々が地上に来られないのは膨大な力によって与える影響が大きい為、神ですら抗えない世界の理により消滅させられる。
事実ミンジュは理によって消滅する事を防ぐためにその力を極限まで削いでこの地上に降り立ってその身の崩壊を防いでいたのだが、眷属である魔人が破れて分け与えた力が戻ってきた事、既に増加は止まっているが、魔人に与えていたこの世界から得られる負の感情が直接ミンジュに流れて来る事で、許容範囲を逸脱して消滅しかかっているのだ。
目の前で消滅しつつも力は増えている現象、そして攻撃が一切通らない現象に、<六剣>の頭脳とも言えるテスラム、そしてナユラでさえも次の手が浮かばない。
「今のうちに、回復しましょう!」
そこに、場にそぐわない声が響く。
<水剣>スミカだ。
どう見てもミンジュはこのまま消えるような態度ではない為、攻撃が通らない今、そしてミンジュも恐らく動けない今のうちに回復するべきだと行動する。
「ハハ、流石じゃねーかよスミカ。流石は俺の相棒だ!」
「これは恐れ入りました。私としたことが、あろうことか呆けておりました」
ヘイロンとテスラムの称賛を受けながら、全員を改めて回復した上でポーションを飲み干すスミカ。
多少ではあるが減った魔力を補った。
全てに万全とは言えず、未だ<土剣>アルフォナと<光剣>ナユラは強大な敵に立ち向かえる程に体力は回復していない。
そんな彼らの視線の先には、消滅しつつも漆黒の闇に覆われるミンジュが見えるが、その闇が晴れると……そこには三人のミンジュがいた。
理によって消滅しないように力を分散し、消滅しない上限の力を持ち得る分身体を作成していた。
「これが消滅しない上限……理解した。丁度良い肩慣らしだ。適当に相手をしてやるぞ、<無剣>と<六剣>!」
今までとは逆で数的優位はロイド達にあるのだが、一体の力は残念ながら圧倒的にミンジュが強い。
神の化身である<六剣>……当然天空の神が理によって消滅しない様、想定の上で力を与えていたものであり、直接現場で限界ギリギリまで力をつけたミンジュとは異なり、安全を見た上で力を与えざるを得なかった。
その結果、個体の戦力差が出ているのだ。
開放済みの<六剣>、そして<六剣>を統べる<無剣>であれば、目の前のミンジュが強敵である事は即座にわかる。
『これは厳しい戦いになります。恐らく回復が出来なくなった時点で敗北でしょう。スミカ殿、直接の攻撃は避け、回復の方に力を削いでください』
百戦錬磨のテスラム。
少し前に呆けてしまうと言う醜態を晒した事から、すかさずスライムにて指示を出す。
その指示を受けて、向かってくる三体のミンジュに対するように構えていた仲間の背後に回るように移動する。
最も早くロイド達に近接してきたミンジュの一体が、漆黒の剣を振り下ろす。
<無剣>ロイドの<時空魔法>によって攻撃の速度は落とされているが、それでも躱すのは余裕と言う訳ではない<六剣>達。
『俺の<時空魔法>でも、動きを止める事は出来なかった。全力でやっても、あの速度に落とすのが限界だ』
初めて相対する、絶対的優位な<時空魔法>が軽減されてしまう相手。
ロイドは焦る事無く、淡々と事実を全員に共有する。
『ロイド様も、スミカ殿同様に我らに向かってくる攻撃の遅延をお願いした方がよさそうですな。<時空魔法>の影響を受けてあの速度。恐らくそのまま攻撃を受けては、今の我らでは躱せないでしょう』
正しく現実を見つめ、的確な指示を出していくテスラム。
このスライムによる情報伝達が行われながらも、ミンジュの初撃の余波が全員を襲う。
実はこの余波、ミンジュの分身体も当然影響を受けていた。
「力が有りすぎるのも問題だな。だが、少々距離をとれば問題ないだろう。後ろでコソコソしている二人と、へばっている二人!お前らは、この魔神様に仲間が甚振られる様を見ていると良い。その後にお前らも漏れなく始末してやる」
テスラムの指示によって、全員の回復とある意味防御を担う事になったロイドとスミカが立ち位置を変えた事も理解しているミンジュ。
二人が手にしている剣から基礎属性、そして得意とする術を把握しているので、ロイド達の作戦までも把握しているのだが、余裕の態度は変わらない。
三体のミンジュは、改めて<六剣>に襲い掛かる。
敢えて絶望を与えるために、背後に位置するロイドとスミカ、そしてアルフォナとナユラには手を出していない。
今まで天空で神にしてやられた屈辱を返すため。
天空からこの状況を間違いなく見ている神に長く絶望を与えるため。
攻撃方向を調整し、ミンジュ三体が少々距離を保てるほどに<六剣>を移動させた。
直接戦闘に参加しているのは、<炎剣>ヘイロン、<風剣>テスラム、<闇剣>ヨナだ。
サポートに回っている<無剣>ロイドは、三体全ての攻撃を遅延させるべく全力で集中し、<水剣>スミカは深手を負った瞬間に回復させるように力を使っている。
短い時間では体力は回復できない<土剣>アルフォナと<光剣>ナユラは、<六剣>を長時間顕現させるだけの体力は戻っていなかった。
こうして最初で最後の超常の戦闘が始まった。