魔神・魔人と六剣
エクリアナ王国で実際に直接魔人であるマドレナスと戦闘した結果、敵は思った以上に力を得ており、時間経過と共にその力が増大し続けている事は既にスミカが全員に連絡している。
と同時に、未だアントラ帝国に到着していないアルフォナとナユラの相手となる悪の元凶である魔神とその眷属である魔人ジーダフの力は増大し続けているはずだと判断し、急遽助力に向かう事にした。
その情報を展開した時に<無剣>ロイドがアントラ帝国に向かうと提言してきたのだが、瞬間移動が出来るロイドが点在している民を救出する方が重要だとアルフォナに断られたのだ。
アルフォナとしては、どうしても自分の手で騎士コーサスの仇を取りたかった気持ちもある。
アルフォナの力を信じてロイドは提案を撤回するが、そこにヘイロンとスミカが向かうと言っているので、安心していた所だった。
「疲れているだろうが、これが最後だ。もうひと踏ん張り、堪え所だ、直ぐに行けるかスミカ?」
「ウフフ、テスラムさんの修行に比べれば、何と言う事は無いでしょう?ヘイロンさん」
「違いねーな」
街道周囲の魔獣はヘイロンの全力攻撃の余波で消え失せているので、今の所は<六剣>を顕現せずに移動している二人。
テスラムの情報と今の自分達の感覚から、アルフォナが到着して一時間以内には自分達も到着できるだろうと思い、その時間を少しでも短くするために速度を上げるのだが、やはり完全には追いつけなかった。
「くそっ、短縮できたが、追いつけねー。あと十分ほどだが、もう戦闘が始まっていやがる!」
「ここまで波動が伝わります。二人共、<六剣>を顕現させて本気ですね。それでも戦闘が続いているとなると……急ぎましょう、ヘイロンさん!」
探索せずとも、巨大な魔力がぶつかる波動が肌でわかってしまう程の戦闘が行われている。
そしてその余波は継続的に察知できるので、<六剣>の二人による一方的な攻撃ではなく、敵も相当強いという事が見て取れる。
その感覚通り、アントラ帝国に侵入したアルフォナとナユラは、ジーダフとミンジュと対峙し、既に戦闘が開始されていた。
「貴様が悪の枢軸か?」
アントラ帝国に侵入後、明らかに別格の二人の気配が近づいて来ており、この時点でナユラもネックレスにしていた金の宝玉が一際大きい<光剣>を顕現させている。
それだけ油断できない相手と判断したのだ。
「何が悪かは分からないな。だが俺は魔神。ある意味お前らの手に持っている<六剣>を生み出した存在の神と、天空で対等に戦闘していた超常の存在だ。そしてこいつが俺の眷属である魔人のジーダフ。まっ、覚える必要はないぞ。どうせお前らはすぐに死ぬ」
その言葉と共に、手には漆黒とも言える剣を出して一瞬でアルフォナに近接してきた。
解放された<六剣>の力がなければ瞬殺されていたのであろう攻撃をアルフォナは<土剣>で受け止めるが、一瞬顔が歪む。
長い時間<六剣>を顕現させ、体力・気力を奪われている状態で本丸の攻撃を受けたので、衝撃を逃がしきれなかったのだ。
「ほぅ、人にしてはそこそこだな。だがこれはどうだ?」
ミンジュは連撃をアルフォナに浴びせる。
その漆黒の剣は何か付与がなされているのか、一撃一撃の打撃音が生半可な音ではない。
まるで巨大なハンマーで殴られたような音が鳴り響く。
<光剣>ナユラも黙っている訳ではない。
既に顕現済みの<光剣>の力を使い、超高熱になっている光の斬撃をミンジュに向けて放つが、ジーダフが間に入りその攻撃を捌く。
そして捌かれた攻撃は遠くの建屋に着弾して大爆発を起こす。
相当力を込めた攻撃が簡単に捌かれ、時間経過で敵の力が増して行くと言うヘイロンの話を理解したナユラ。
目の前のジーダフと言う男に全力で攻撃し、一刻も早く疲弊気味のアルフォナの補助に入る為に動く事を決意するのだが、既に一度攻撃を難なく捌かれている事から後先考えない全力を出す他ないと判断し、精神を集中させる。
ナユラは<風剣>テスラムとの修行の最中、自分の得意な浄化能力は実体を持たない霊的な存在には効果は高いが、そうでない存在には攻撃力は低く対応できないのではないかと相談した事がある。
そこで教えられたのが、光を収束して放つ技。
既に一度使ってジーダフに弾かれているが、その威力は折り紙付きだ。
再び同じ技を放つべく、<炎剣>ヘイロンが技を放った時と同様に<光剣>を正眼に構える。
同じ師の元で修行をしていた関係上、最も攻撃力の高い攻撃をする時の集中姿勢は似通ってしまうのは仕方がない。
この姿勢であれば、とっさの反撃にも対処できる理にかなった姿勢なのだ。
今回放つ技は、ナユラの本気。
先程の技とは異なり、一撃ではなく複数の斬撃を多方向から一か所に与える技だ。
一撃一撃に十分な魔力を込める為、連続して二度使える技ではない<光剣>ナユラ最強の攻撃。
多数の斬撃が放てるだけの魔力が<光剣>に収束し、近くでアルフォナとミンジュが戦闘している大きな音が鳴り響いているこの場にも、不思議な金属音の様な音が聞こえる。
……キーンキキキキィーン……
当然ジーダフも敵の攻撃準備が整うのを指を咥えて待っている訳ではなく、大きな隙であるとばかりにナユラに攻撃を仕掛ける。
……キン……キンキン……ザン……ブシュ……
数回攻撃がナユラの周囲に張り巡らされている防御膜によって防がれたが、数度攻撃すると膜を通過してナユラの右腕に大きな傷を与える。
右腕から血が噴き出しているナユラだが微動だにせず視線をジーダフに固定し、更に<光剣>に魔力を込めている。
……ブブブブブブブブ……
既に音がおかしく、<光剣>が振動しているように見えているジーダフ。
重ねて追撃するも、いつの間にか新たに防御膜を生成したのか、再び斬撃がナユラに届くまでに少し手間取る。
「これで終わりです。<光剣>よ、輝け!」
怪しい音と激しい振動があるように見える<光剣>を、正眼の姿勢から流れるように上下に振り下ろすナユラ。
一斉に無数の可視化された斬撃が四方八方に飛び出し、ジーダフを囲いつくすように収束していく。
「チッ、こんなも……」
ジーダフの言葉の直後、しばしの静寂が訪れる。
あまりの力に一旦ミンジュもアルフォナから距離を取り、アルフォナも防御姿勢をとったためだ。