エクリアナ王国コテール国王と魔人マドレナス
互いに本気で行動する為に<六剣>を顕現させた二人、ヘイロンとスミカ。
細かい制御をする時にも顕現すると非常に楽になるのだが、常に顕現していると実は相当体力と気力が持って行かれる。
以前どこかの冒険者崩れでユリナスを暗殺しようとしたバカが、常に<六剣>を顕現させていないのは呪いの様な制約があるのかと言っていた事があるが、実際には相当疲れるだけだったりする。
「行くぜ、スミカ!」
「はいっ、ヘイロンさん!」
移動時の足の踏み込みの後が大きく凹み、音が遅れて聞こえてくるほどの爆音を響かせながらエクリアナ王国の領土に突入する。
当然道中は敵、特に何故か狂乱状態の人が数多く襲い掛かって来るのだが、残念ながら救ってやれるほどの余裕はない。
同時にどう見ても危険な魔獣も連携して無数に襲ってくる上、一刻も早く気配を察知している別格の存在を始末するべきと判断しているからだ。
流石に探索を使わずとも、この距離までくれば禍々しい気配は嫌でも感じる。
以前アントラ帝国で感じた事のある気配を強大にしたものであり、どう考えても魔神か魔人が潜んでいる事は明らかだ。
その気配が自分達の方に移動してきている事から、出向く手間が省けたとばかりに移動速度を落とし、来るべく直接戦闘に影響がないように、周囲の敵の旬滅を始める二人。
特に何も話さずとも、互いの意志は分かる程に通じ合っている二人だから出来る芸当だ。
互いに背中を合わせ、片や爆炎が立ち上り、片や大量の超高圧の水が射出されバタバタと敵が始末されて行く。
「おいでなすったか」
かなり遠方まで力任せに始末した所、かなりの速度で近接してくる一体の気配を感じ取ったヘイロン。
スミカもヘイロンに遅れて気配を感じ取ったが、その時には既にヘイロンが敵との射線上に入り込んでいる事を把握し、一旦離脱してサポート共に周囲の敵の旬滅に力を割く事にした。
……ギィ~ン……
音と共に衝撃波が周囲を襲う。
スミカは微動だにしていないが、そこからかなり離れている敵、周囲の建物は大きな被害を受ける。
「テメーが魔人……その間抜け面、マドレナスだな」
「何故名前まで知っている!」
鍔迫り合いをしながら情報の確認をするヘイロン。
以前捕まえた魔人の一人、ンムリドがペラペラしゃべっていた情報から推測しただけだ。
「俺達にビビッてコソコソしていやがったくせに、やけに威勢が良いじゃねーか、この小物が!魔神に力を貰ったみてーだがな、そんな程度で良い気になったか?」
「貴様、魔神様を侮辱するか!」
ギリギリと刃を押し込もうとするマドレナス。
「別に侮辱はしちゃいねーよ。ミンジュ如き、侮辱する価値もねーからな」
「殺す!!」
ヘイロンは更なる情報を得るために、敢えて鍔迫り合いに持って行ったのだ。
その結果、やはりミンジュと言う男が魔神で間違いないと確信し、全てを聞いていたスミカが全員に情報を流す。
『情報感謝する。今我らが向かっている先にいるのがそのミンジュで間違いなさそうだ。コーサスの無念、この私アルフォナが奴らを細切れにする事で晴らしてやる!』
この情報で、この言葉を発した後のアルフォナの移動速度は急上昇し、引っ張られるようにナユラも速度を上げた。
恐らくアルフォナは<六剣>を顕現したのだろう。
その力で敵を一気に葬り去り、その後ろを難なくナユラがついて行っているに違いない。
体力・気力を持って行かれる事を厭わず、一刻も早く怨敵を、騎士道精神を持って葬るために……コーサスの魂が安らかに眠れるために……
移動中の二人については詳細な情報は得られないテスラム。
いくつかのスライムは彼女達の攻撃に巻き込まれており、近接して詳細な情報を得る事ができないのだ。
会話用のスライムによる位置の把握は出来ているがそれ以上詳細情報の必要も感じていないので、ある程度の情報だけを把握するように努めているテスラム。
一つの情報で動きが変わったこの世界。
相変わらずヘイロンとマドレナスは鍔迫り合いをしている。
「貴様……人の分際で何故抗える!」
「あん?そんなの知るかよ。だが、テメーの行く末だけは知ってるぜ。細切れのミンチになった後に、焼かれて消え失せる。楽しみだろ?」
その直後に、ヘイロンは<炎剣>を振り切って、マドレナスの剣を切り裂いた。
即座に離脱していたマドレナスには、傷はついていない。
「お~、少しはやるじゃねーかよ。それにその剣、<炎剣>の斬撃を一時でも耐えるたーかなりの業モンだな」
ヘイロンはこの一撃である程度マドレナスの力量を把握した。
今尚力は何故か上昇しているのだが、この時点では負けはないと確信したのだ。
「ヘイロンさん!」
油断しそうになる所、スミカから一声かかり気持ちを切り替えるヘイロン。
今は勝てるが、どこまで上昇するか分からないこの男の力。
魔神と言う存在を得て上昇している力が脅威である事は明確なので、民の為にもさっさと始末する方向に意識を切り替えた。
「頼むぜ、相棒!」
正眼に<炎剣>を構え、力を込めて行くヘイロン。
赤い宝玉は激しく光り、刀身も赤くなった上に明らかに炎を纏い始めている。
今ヘイロンが制御出来る中で最大の攻撃力を持つ技であり、周囲への被害はそこそこだろうと思っている技だ。
同じ様に<水剣>スミカも力を込める。
何もなしでは、この距離では自分も大きな影響を受けてしまうからだ。
対してマドレナスは、目の前の男、そして少し離れた女から溢れる魔力によって再び過去の恐怖を思い出してしまった。
<六剣>の力に怯え、その身を必死で隠していたあの頃に……
「あばよ、カス。テメーは塵すら残さねー!」
<炎剣>を構えたまま瞬時に突進してきたヘイロンを防ぐ手立てがないマドレナス。
そのまま刃に貫かれ、直後に周囲から遥か上空一帯まで蜃気楼のように景色が揺れた後、爆音と熱風が吹き荒れる。
あまりの熱量に炎の色が見えなくなっているのだ。
その余波で、周囲から襲い掛かってくるために向かってきていた敵は、近い距離の者は跡形もなく、距離が開くほど灰になると言う最期を迎えていた。
しかし、その余波はヘイロンがある程度制御しているので、このエクリアナ王国全てを灰にしたわけではない。
余波は敢えて街道方面に向けて多めに放出していたりする。