フロキル王国騎士、カーサスとコーサス
ここはフロキル王国の騎士宿舎。
フロキル王国とリスド王国には、<六剣>配下の騎士が配置されている。
騎士達は多数いるが、所属する部隊が分かれており、<六剣>配下の騎士達は第一隊に任命されている。
各隊の隊舎は異なるのだが、基本的には行き来は自由になっている。
その宿舎の中で、兄弟で騎士となっているカーサスとコーサスが対面に座って酒を飲みながら談笑している。
「しかし兄貴は凄い。いつの間にか一気に強くなっているからな。俺も早く第一隊になってキュロス陛下の護衛任務に就きたいもんだ」
ほろ酔い気分でこう話しているのは、弟のコーサス。
彼は第二隊所属であり一般騎士としての力は突出しているのだが、<六剣>配下となった兄カーサスの足元にも及ばないのは仕方がない。
兄であるカーサスとしては、たとえ弟とは言え<六剣>配下についての情報を話すわけには行かないので、弟の姿を見て微笑むだけだが、残念ながら弟であるコーサスは決して第一隊には所属できない事を理解している。
コーサスが騎士としての実力が不足している訳ではなく、人柄も申し分ないのだが、第一隊とは<六剣>配下のみで構成されている部隊だからだ。
既に<六剣>配下の枠に空はないのは<六剣>達から正式に告げられている。
越権行為である為に端からするつもりはないのだが、たとえカーサスが強力に弟を推薦しても、枠がなければなりようがないのだ。
その事実や、情報秘匿義務からも、何も話せずに微笑んでいる。
「特に第一隊になれば、直接アルフォナ様から指導を受けられる時間が長くなるだろう?羨ましい限りだ」
「確かにアルフォナ様の修行は素晴らしく身になる。コーサスも訓示は毎日聞いているだろう?正にお言葉の通りの騎士道精神が自分の中で育まれているのが分かるぞ」
敢えて伝えるまでもないが、この二人を含む騎士達は総じてアルフォナを崇拝しており、騎士道精神を最も大切にするある意味異様な集団だ。
騎士としての話、更にはアルフォナの話に移行したので、カーサスも何も隠す必要がない会話を心から楽しんでいた。
その会話は、騎士としての任務関連に移り、最終的には現在の敵国であるアントラ帝国の話に移行する。
「兄貴。アントラ帝国は今の所大人しいが、必ず何かをしてくるぞ」
「わかっている。アルフォナ様も常日頃お話ししているが、騎士道精神を持って油断なく行動すべきだな。それに、同盟国の動きも気になる。コーサスはアドバライから何か聞いているか?」
ここで出たアドバライとは二人の友人の中の一人であり、所属している国家は違うが、同じ騎士でもある人物だ。
非常に馬が合い、長期休暇の際には日程を合わせて今でも交流を深めている。
実は旧知の中でもう一人ミンジュと言う騎士もいるのだが、こちらは最近めっきり交流が無くなっていた。
このアドバライとミンジュは共にエクリアナ王国所属の騎士であり、残念な事にフロキル王国に宣戦布告をしてきたアントラ帝国側の同盟国なのだ。
そのために、直近でアドバライと飲み明かしたコーサスに何か情報が無いかを聞いているのだ。
「いや、何も無いな。あいつも腐っても騎士。兄貴もあいつが自国の情報は漏らさないのは分かっているだろう?」
カーサスとしても、友人であるアドバライが自らの所属国家であるエクリアナ王国に不利な情報を漏らすとは思っていなかったので、この返事は想定していた。
「そうだな、その通りだ。このまま平穏が続けば良いが……」
こうしてこの日は終了したのだが、後日同じように二人で飲んでいるとコーサスが少しだけ表情を曇らせてこう告げてきた。
「兄貴。この前ミンジュと会ったぜ」
この一言で、カーサスの表情はコーサスと同じく曇る。
「あいつ……どうせ変わってないだろ?」
「兄貴の想像通りだよ。何故かフロキル王国を嫌っているからな。俺はアドバライと楽しく飲みたかったのに、どうやら俺と会う事を嗅ぎ付けたミンジュが強引にアドバライについてきたらしい。アドバライも微妙な表情をしていたけど、ひょっとしたら何か情報を得られるかと思って飲んだんだ」
「で……何か聞き出せたか?」
「いんや。フロキル王国が如何にダメか。リスド王国と魔国アミストナと共に<六剣>の力を我が物のように誇示して、他の国家を完全に見下しているとかなんとか、終始そんな話だったぜ」
「予想通りと言うか、予想以上だな。<六剣>の今を知れば、根も葉もない事とわかりそうなもんだけどな」
「まったくだ。アルフォナ様、騎士総隊長の騎士道精神の説法を聞かせてやりたかったぜ」
この二人の言う通りロイドや<六剣>達は情報収集と言う名の旅に出ており、テスラムとナユラ、アルフォナが護衛や騎士の鍛錬と言う事でフロキル王国とリスド王国に留まっている。
情報収集については第二隊であるコーサスには知らされていない。
<六剣>達は第三国の騎士達や国民達から、自らが調査対象になっているとは理解されないように能力を駆使して行動しているので、正に旅をしているだけの状態と認知されている。
そもそも戦争に対する調査ではなく、魔神の眷属である魔人に対しての調査を行っているだけなので、まさしくミンジュの言葉は難癖以外の何物でもない。
「それでな、ミンジュの奴は近々もう一度長期休暇を取って、ここに来るって言うんだよ」
「はぁ?なんでそんな面倒な事になってるんだ?」
「実は……あまりにもフロキル王国側を悪と決めつけて言うもんだから、俺も熱くなってな。その目で確認してみろと啖呵を切っちまったんだ。本当に申し訳ない。まだまだ騎士道精神が足らなかった」
「そうか。だが、いくら顔見知りだからとは言え、こちらを悪と決めている敵国の騎士だ。アルフォナ様には報告しておく必要があるぞ」
「当然既にお伝えしているさ。兄貴にも迷惑かけるかもしれないな」
「で、アドバライは来るのか?久しぶりに飲みたいからな。もちろんミンジュはいらないがな」
「ん?あぁ、今回勝手にミンジュがついてきた事に責任を感じているらしく、同行すると言っていたぞ」
実は第一隊のカーサス、他の第一隊の騎士と同様にその立場上長期休暇は中々取れずにいたので、向こうから来てくれるのであれば一日程度は休んで再び友好を深めたいと思っていた。
こうして、敵国であるアントラ帝国の同盟国家であるエクリアナ王国の騎士である二人が、フロキル王国にやってくることが決定した。
あくまで騎士としてではなく、一個人としての来訪ではあるのだが……
何も警戒しないと言う間抜けはこのフロキル王国の騎士の中にはいなかった。
そんな騒動の中、魔人の二人は完全に自らの魔力の全てを封印する強力な魔道具を装着して<六剣>からの探査にかからない様に必死で対策していた。
ここまでされては、確かに<六剣>達も近くに魔人二人が存在したとしても違和感すら覚える事は無いのだが、それほど強力な封印が出来る魔道具は諸刃の剣であり、自らに危機が迫った際に全く力を出せない状態になる。
解除するにも相当複雑な手順を踏まなくてはならないので、例えば盗賊に襲われても対抗する術がないのだ。
ジーダフとマドレナスからしてみれば、そのリスクを背負ってまで実行する価値がある事だったのだ。