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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す!  作者: 焼納豆
神と魔神
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マーシュ、動く

 三週間近く、高級宿にてのんびり過ごしていたマーシュ。


 アントラ帝国にある自宅でさえ、これ程贅沢な暮らしを経験した事が無かった。


 だが、悲しい性か……日々の修行は欠かさず行ってはいた。


 毎日ゆったりと生活する事が出来ていたのだが、豪華な生活には当然相応の費用が掛かる。


 その原資となる皇帝カリムからだまし取ったお金もそろそろ底が見えてきたので、いよいよマーシュは動く事にした。


「よし。そろそろ俺の身分を確定させに行くか」


 宿泊費を清算して荷物を持ち、王城方面に向かうマーシュ。


 今までの劣悪な環境から一変して、現実的になってきたと思っている明るい未来に思いを馳せて足取り軽く移動する。


 既にマーシュの存在、そして来訪は全ての騎士に伝えられており、配下でない騎士にはマーシュをそのまま入場させるように指令が出ていた。


「ミルキャス。お前は私が騎士道精神に誓って守ってやる。暫くこの控室に籠っていると良い。ジル、頼んだぞ」


「承知しました」


 <闇剣>配下である女性の騎士ジルが、アルフォナの指示でミルキャスと共にこの控室にて待機する事になった。


 マーシュは何故かミルキャスの父であると話しただけで、何のチェックもなく王城に入る事が出来た事に驚いた。


「まさかこれほど警備が緩いとは、戦力に絶対の自信があるか……ひょっとして、ミルキャスがかなりの地位になっているのか?」


 周囲の<六剣>配下の騎士は何とかその力の抑制技術を身に着けていたので、周辺の一般的な騎士と同じ様な強さと誤認させる事が出来ていた。


 その結果、マーシュは自らの考えの内、騎士達が戦力に絶対の自信がある為に警備を緩くしていると言う事については選択肢から除外した。


 明らかに自分の力で、周囲に見えている騎士達を間違いなく瞬時に始末できると感じていたからだ。


 そう結論づけたマーシュの機嫌は良くなる。


 宣戦布告されている国家の警備が緩いわけがないので、最終的に残った選択肢はミルキャスの地位がかなりのものになっており、その父である自分が無条件で信頼されていると思ったのだ。


「フフフ。俺が徹底的に鍛えた事が功を奏したか。思わぬところで利を得る事が出来たな。使い捨てになるかと思っていたが、どうしてどうして……」


 恐らく自分は騎士隊長程度にはなれるのだろうと勝手に想像し、周囲の騎士達をいかに鍛えてやろうかと、あらぬ妄想をしている程だ。


「こちらでお待ちください」


 騎士の声で我に返る。


 初めての贅沢な暮らしの後、異国ではあるがかなりの地位を得る事が出来ると思っているマーシュは、暗部としては有り得ない失態を犯していた。


 妄想に浸っており、周囲への警戒が疎かになっていたのだ。


 結果的にこの時点では何も無かったのだが、初めての失態に少々気の緩みを戒めるマーシュ。

 落ち着いて周囲を見ると、そこは広大な鍛錬場と思われる場所の一角。


 普通の石畳に囲われた円形の場所の前にマーシュは連れてこられたのだ。


「フフフ。俺が騎士隊長に相応しいか、実戦形式で確認でもするつもりなのか?フロキル王国も中々慎重だな」


 最早全てを良い方向にしか捕らえる事ができないマーシュ。


 鍛錬場に連れてこられたのは、自分の実力を確認するためだと確信していたのだ。

 ある意味間違いではないのだが……


 軽く肩を回して体を解しながら、周囲の騎士達を慎重に観察する。


 自分の小さな動き、そして声すらも全て捕らえられているとは一切知らずに、格下をどう始末するか考えていたのだ。


 いずれの騎士も遥かに格下に見えているのだが、暗部としての真価を発揮するべく慎重に観察を続ける。


 まさか全ての動きを把握され、小声で発した呟きすら捕らえられているとは夢にも思っていない。


 ある程度騎士達を確認し終わっていたマーシュだが、突然、闘技場に向かってこの周囲にいる騎士全員が直立不動の姿勢で敬礼を始めた。


 一糸乱れぬタイミングで行われたこの行為に驚き、その視線の先である闘技場を見ると……


 全く気配を感じる事が出来なかったのだが、凛とした女性が闘技場の上に立っていた。


「私はアルフォナと言う。ユリナス様の護衛を務めている騎士だ。お前はマーシュだな?アントラ帝国先々代暗部総隊長にして、先代暗部総隊長ミルキャスの父親。いや、父親崩れの出来損ない。騎士道精神に真っ向から反する男で間違いないな?」


 突然現れ、唐突に自分を侮辱するような表現を使われた事に一瞬憤慨するマーシュだが、心の乱れは隙に繋がるので冷静に対応するのだが、自分が上だと言う言葉を付け加える事は忘れない。


「一部誤解があるようですが、暗部総隊長であった事、ミルキャスの父である事は事実ですよ、お嬢さん(・・・・)


 この場では誰よりも強大な力を持っている<土剣>のアルフォナ。


 彼女も<六剣>の力を制御する技術を習得し、今では周辺の騎士よりも少しだけ強く感じられるような程度にその力を抑え込んでいる。


 その結果マーシュが尊大な態度をとってしまうのだが、その最後のセリフに反応したのは周辺にいた騎士達だ。


 その視線は厳しく今にも飛び掛からんばかりの表情だが、力は抑えているのでマーシュは余裕の姿勢を崩さない。


「フム。認めない……と。良いだろう。お前のその取るに足らない力で尊大な態度が取れる所は、相当図太い神経の持ち主なのだろうな。全く、騎士道精神のかけらも見いだせない小物だな」


「……フフフ。ならば試しますか?」


 マーシュとしては煽った状態で心の動揺を誘い、その上での実力を測っているものだと判断していた。


 どこまでもおめでたい思考から抜け出せずにいたのだ。


「良いだろう。だが、お前程度の雑魚に私が直接相手を……」


「逃げるのですか?」


 アルフォナが言い終わる前に、この場で最強の存在であるアルフォナを倒せば上位の地位を貰えることは確実と思っているマーシュは、あえてアルフォナを戦闘相手に指定するかのような物言いをする。


「貴様……」


 すると、我慢が出来なくなったのかとある騎士がマーシュに近接してくる。


「ダンカ、待て!」


 この騎士、近衛騎士隊長でもありアルフォナの配下、<土剣>配下の騎士であるダンカだ。


 立場は近衛騎士隊長と言う絶対の地位にいるが、強さ、その存在感、全てがアルフォナの足元にも及ばないと考えており、アルフォナを騎士の鑑であると崇めている一人だ。

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