ジーダフ伯爵の企み?
「モグモグ……あ~美味しい。御馳走様です!ヘイロンさん」
今ヘイロンの目の前には、高級な食事を出すと有名な場所をギルドマスターから紹介されたので、その場所に来ている。
「チッ。あのギルマス、余計な情報寄越しやがって。おかげで大損害じゃねーかよ!」
ギルドマスターとしては<六剣>所持者が二人、しかも二か国に認められている者が来ているのだから、安易な場所は紹介できないと思って自分の知り得ている最高級の場所を善意で紹介していた。
当然その分、支払い額も大幅に跳ね上がる。
実は普段の食事も何のかんの言ってヘイロンが支払ってはいるのだが、スミカはスミカでさりげなく宿を予約する際にさっさと自分でヘイロンの分も支払い、かなり少ない金額をヘイロンに請求していたりする。
全く請求しないのは、ヘイロンが必ず断ると知っているからだ。
互いを信頼している中で、お互いを思いやっている二人ならではの光景だ。
「そんでよ、なんで漸く大陸が落ち着いた頃に増税なんだ?あいつはバカなのか?」
「落ち着いたからの増税とも言えますよね」
確実に魔神関連であるジーダフ伯爵の行為に対する真意を読み解こうとする二人。
「だがよ、その税は物納だろうが何だろうが良いと言う所がな……」
本来は、領地によって決められた条件の物を収めるのだ。
例年であればこの町は農作物を納品していたらしいのだが、農作物であれば例年の倍以上の納品義務が発生し、それを補填するようにその他の物、例えばダンジョン内部で採られる鉱石等の素材での納品も認めているという事だった。
町の人々はその素材を入手するために自ら冒険者登録をしようとする者、冒険者に依頼を出す者が多数いたためにギルドがごった返していたのが、先ほどの混雑の原因だ。
ジーダフ伯爵の名前が出てきた以上、ヘイロンはこの町の中についても容赦なく全力で探索をしたのだが、当人と思われる存在を見つける事は出来ていなかった。
しかしその副産物として町の詳細を知ってしまったので……少しだけ落ち込んでいる。
「ヘイロンさん。らしくないですよ?明日から、頑張りましょう!」
全てを知っているスミカは、目の前のヘイロンを励ましている。
その原因は、一部の町の人々が素材を得るために無理にダンジョンに侵入し、帰らぬ人になっていたのだ。
少し前にヘイロンが町の外を探索した時にはここまでの状態ではなかったのだが、急な増税のお触れによって若干パニックになった町人が暴走してしまったのだろうか。
当然全力で助けられる人々に手を貸してきたのだが、少々後味の悪い結果になっていた。
農作物を例年の倍納品するのは厳しく、かといって冒険者を雇う程のお金もない人々は自ら素材を求めに行ってしまうのは仕方がない。
戦闘経験もなく、武器も鍬を持っての侵入なのだから結果は火を見るよりも明らかなのだが、実行せざるを得ない程追い詰められているのだ。
ジーダフ伯爵がこれほどの愚挙に出ているのは、当然理由がある。
魔人三体で話をした時、<六剣>の今の力には正直手も足も出ないと確信し、大幅に力を得る為に国家間で戦争を起こし、そこで発生する負の感情を得ようと考えていたのだ。
そのためには、出来るだけたくさんの武器、元になる素材、食料、そしてお金、更には人員が必要になる。
税を上げて素材や食料を得、納税できない者達には強制的に徴兵する作戦に出たのだ。
人族として影響を与える事が出来るのは、この魔人三体の中ではジーダフ伯爵のみ。
つまりアントラ帝国だけになるのだが、この帝国はフロキル王国とリスド王国以外に対してはそこそこの影響力を保持していた。
他国を巻き込んでフロキル王国とリスド王国と戦争し、多数の負の感情を得ようとしていたのだ。
結果的にアントラ帝国が滅んでしまっても、正直魔人であるジーダフ伯爵には何も問題は無い。
翌日の早朝。ヘイロンとスミカはこの町唯一のダンジョンの前に陣取っている。
すると、明らかに町人と思わしき人物、それも子供も含めてやってきたのだ。
「お前ら、その恰好でダンジョンに潜るつもりか?昨日の惨事は聞いているだろう?だが、このクソ領主が原因って事も理解している。そこで……だ」
「はいっ。私達が皆様のお手伝いをします!」
ヘイロンとしては優しく言っているつもりなのだが、明らかに怯えている町人達をみてスミカが横から話を引き継いだ。
「で、ですが。私達にはあなた方にお渡しできる報酬はありません」
「あん?んなモンいらねーよ。当然だろ~が。良いか、この場に来てねー町人にも伝えろ。納税は今まで通りの量だけ納めろ。足りねー分は、俺達が素材を採ってきてやるからよ」
あまりに町人が不憫で、ジーダフ伯爵に対する怒りから少しだけ言葉が荒くなっているヘイロン。
「だがよ、素材を渡すにも条件がある。納品時には俺達も同行させろ。ふざけた事を言いやがるクソ伯爵にも丁度用事があるからな」
こめかみがピクピクしているヘイロンを見て、町人は誰も否定的な事を言える訳がなかった。
「ほらほら、ヘイロンさん。皆さんが怖がっていますよ。もう。そんなんじゃテスラムさんに怒られちゃいますって」
「ふぇ?いや、スマン。マジでスマン。俺は大丈夫だ。な?だから、頼むぜ?スミカ」
一瞬で怒りは霧散し、挙動不審になっているヘイロン。
そんな二人の姿を見せられている町人は、どうして良いか分からず動けないでいた。
漸く一人が意を決したように口を開く。
「その、ありがたいお話しですが、本当に宜しいのでしょうか?我々のためにそのような……それに、納期は間近に迫っておりますが……」
「大丈夫だ。任せておけ。だがよ、少々掃除が必要になってな。粗方昨日の夜に片付けたんだがよ、まだ少々雑用が残ってる。必要な量をこのスミカに伝えておいてくれ。スミカ、頼んだぜ」
「ハイ。任せて下さい」
流石にこれだけ緊迫している時には、スミカは何も食べてはいなかった。
そして、ここで言うヘイロンの掃除とは……
実はジーダフ伯爵の名前が出た時に、本当の全力で探索を使って気が付いたのだ。
何故か有り得ない高度に、存在が不可能であろう虫獣がいる事を……
その虫獣をしばらく観察していると、どう見ても自分達を追随しているのだ。
こうなると得られる解は一つ。この虫獣は監視用で、ジーダフ伯爵が自分達を監視している……と。
取り敢えずその時は、ダンジョン内部の町人の救出が最優先であったため何も対策せず放置し、<六剣>達には注意だけを促していた。
そして真夜中、遥か上空ではあるのだが周囲を飛び回っている虫獣共を一掃したのだ。
ここはジーダフ伯爵が治めている場所である為、通常の監視と言う意味で虫獣を撤退させておらず、そこに<六剣>である二人が現れてしまったので、何故こんな辺鄙な場所に再び<六剣>が来たのかを監視していた。
魔人三体は、秘匿し続けていた情報収集能力である虫獣が破壊された時点で全てが<六剣>達に明らかになってしまったと判断した。
最早これ以上は何も対策を打てることは無いと感じた三体。
一刻も早く戦争を起こして自らの力を上げなければならないと覚悟したのだ。