炎剣と水剣所持者確定
ここで悪魔を見逃すわけにはいかない。
しかし、俺やヨナだけで確実に対応できるかは不明確だ。
安全を見るならば、スミカとヘイロンも闇剣の配下ではなく六剣所持者になってもらった方が確実だ。
しかし、ヘイロンは良いが、スミカはこのままの状態で六剣の力を使った場合、いくら<回復>があるとは言っても悪魔との戦闘では予期せぬ事態が起こる可能性がある。
悩み所だが、少なくとも俺とヨナがリスド王国に行くことは決定だ。
まさか悪魔が、待ち続けた場所ではなく隣国に現れるとはな。
「ヘイロン、スミカ、聞いてくれ。俺とヨナは王女の望みを叶えると共に、俺の目的を達するべくリスド王国に向かう。お前達はこのままここで修行を続けるか?」
六剣配下の繋がりは距離に影響しないから問題ない。
俺の意図を感じ取ったのか、ヘイロンは肩をすくめてこう言った。
「なんで俺がのけ者にされなきゃならないんだ、ロイド?俺だって悪魔と聞いちゃ黙ってはいられないな。お前が心配しているのは力不足だろう?そんな心配は無用だ。そんな小さなことで、ユリナスさんの仇を打てなくなる方が俺にとっちゃ大きな損失だ。駄目と言ってもついていくぜ?」
ヘイロンは本当に俺の母さんに恩義を感じてくれている。相変わらずの男気に目頭が熱くなる。
ヨナもヘイロンに少しだが頭を下げている。
「私だって行きます。そんな第二王子も許せませんし、ナユラ王女の力にもなりたいんです」
スミカは優しいからそうなるだろうなとは思ったが。
「だがスミカ、お前は少ししか地力が上がっていない。今は例の状態になっているからかなりの強さだが、本当に万が一お前の姉さんに何かあった場合、一気に力が抜けるんだぞ。それでも行くのか?」
王女の前だからか、話せない部分をごまかしつつヘイロンはスミカに念を押す。
「それでもです。私決めたんです。決して逃げないと!!」
彼女の決意も固い。
俺も決心する必要があるな。
「ナユラ王女、あなたの見立てでは、第一王子はどれくらい持ちそうですか?」
「私がここに連れてこられてからの経過時間が良く分かりませんが、おそらくお父様と同じ症状ですので、その経験から行くと残りは数日だと思います。ただ、兄上は普段から鍛えていらしたので、お父様よりは持ってくれるかと・・・」
気丈にも目を離さずに、俺の目をしっかり見つめて話すナユラ王女。
しかし、時間は殆どない。もう少し持つかもしれないという希望的観測はあまり考えない方がいいだろう。
「ナユラ王女、良くわかりました。俺達が必ず力になります。いったん地上に戻り、俺達の宿に身を隠していただきます。その間俺達は準備を整えるために出かけますが、明け方までには帰りますのでおとなしく待っていてください。いいですね?」
「ありがとうございます」
さりげなく王女にも<隠密>をかけて、安全に地上に帰還した。
遭遇する魔獣は、少しでも地力を上げるためにヘイロンとスミカに討伐してもらった。
ダンジョンから出ると、ヨナに王女をしょってもらい全力疾走で門を潜る。
あまりの速さに、王女は門を潜ったことを理解していなかったようだ。
そうじゃないと、なんで検問がないのかとか聞かれても困ったので丁度良かったんだが・・・
そして、彼女を布団に押し込むと、緊張と疲れからあっという間に深い眠りに落ちた。
俺は宿の主人に軽く事情を話して、彼女が目を覚ましても決して外出させないようにお願いし、再び三人で防壁から出る。
「ヘイロン、スミカ、この時間になればあの六剣の周りには人はいないだろう。早速向かうぞ!」
「え、これから抜きに行くんですか?地力はどうしますか?」
「スミカ、もうそんな悠長に地力を上げる状況じゃなくなったんだよ。つまり、六剣を手に入れる前の地力上昇対策は、俺達はもうできないってことだ。次の対策はお前の持つであろう水剣の<回復>にかかっている。俺の命も預けたぞ!!」
ヘイロンがスミカに気合を入れる。
「わかりました。任せてください。必ず皆さんを守って見せます」
そして、日中は常に人だかりのある六剣のある場所に到着した。
今は真夜中なのだが、この周りには観光名所よろしく、記念品の販売やら何やらで少々人がいる。
当然開いている店もあり、一部の連中がお酒を飲んでいるようだ。
「ロイド、これだど目立つんじゃないか?」
「ああ、問題ない。ヨナ、頼んだぞ」
「承知しました」
ヨナが改めて<隠密>を起動し、水剣が封印されている洞窟へ向かう。
この水剣の特化能力である<回復>を得ることができれば、スキルの重要性から所持者は第三防壁内部に居住を移すことが確実であるため、今尚人々がチャレンジしている。
しかし、内部にいる人間が交代でチャレンジしているだけで洞窟の外から新たな人は来ていない為に、ヨナの<闇魔法>により全員夢の世界に旅立ってもらった。
一時間もすれば目覚めるだろう。
そしてお前らは、奇跡を目撃する最初の人となるんだ。
そう、既に抜けてしまった水剣を封印していた石を見つける・・・という奇跡をな。
念のため洞窟入口も<闇魔法>により進入禁止にした俺達は、いよいよ六剣を開放するために石に近づく。
この石に近づく時点で結界があるのだが、当然俺達は問題なく進むことができる。
六剣を従える無剣、そして、同格の闇剣が近づいてくるのがわかるのか、柄の部分の水を表す青い宝玉が激しく煌めいている。
この時点で、二人にはヨナの闇剣の配下からは外れてもらっている。
「スミカ、頼んだぞ」
「お前なら大丈夫だ。次は俺も続くから、頑張れ」
「妹よ、応援している」
俺達三人の応援を受けて、スミカはゆっくりと石の上に上って柄に手をかける。さりげなくヨナは、スミカを妹と認めたようだ。
スミカは激しく光っている柄部分を両手で掴むと祈るように目を瞑り、少々深呼吸をした後に目を開けて、一気に力を入れた。
「抜けろ~!!」
ドスン・・・「フギャ・・」
彼女は既に他の六剣を抜こうとして、全く抜けなかった経験を持っている。
そのため、何としてもこの水剣を抜こうと全力で力を入れたのだが、思った以上に簡単に抜けてしまったので石から落ちてとても女性が出すような声じゃない音を出した。
しかし、まぎれもなくその手には伝説の六剣の一本である水剣が握られている。
「やった、やった!!私やりましたよ!!」
「おめでとう」
「よっしゃ、俺も続くぞ」
「当然」
三人から褒められて?大事そうに水剣を持つスミカ。
「妹よ、そのままだととても目立つ。すでに水剣に認められているから、ある程度の力の使い方はわかるはず。少し形態を変えたほうがいい」
「あ、そうですね。そうします。でも、お姉ちゃんの配下になった時以上に、すごい力があるのがわかります」
「それが神の化身、伝説の六剣所持者の力。溺れないように」
「はい!!」
そう言って、スミカは水剣をイヤリングに変えていた。
何となく、装飾品として姉妹お揃いにしたんだろうか。
「よし、次は俺だな」
目の前で奇跡を見せられたヘイロンは、やる気十分だ。
早速炎剣の洞窟に行くが、こちらはあの腐れ王国では<基礎属性>が炎と光は大人気なので、むさ苦しい冒険者共でごった返していた。
お前ら、自分の力でのし上がれや!!
そう思いながら、同じようにヨナに任せて全員を眠らせる。
当然と言えば当然だが、ヘイロンも輝く赤の宝玉を持つ炎剣を難なく抜くことができた。
スミカの醜態を見ていたからか、ヘイロンは片手で慎重に抜いていたのは内緒だ。
ヘイロンは炎剣の形態を鞘に変形させ、今まで使用していた剣の新しい鞘として使用するようだ。彼のセンスはよくわからん。
「う、少しこの炎剣の特化スキル<探索>を使ってみたが、頭痛が酷いな」
そう言って、蹲ってしまった。
すかさず水剣の<回復>を使用したスミカも、その場にへたり込んでしまう。
新たな六剣所持者の力を得ることができた俺は、無剣の力で<回復>を二人にかけてやる。
「おう、助かったぞロイド。これを少し繰り返せば何とか実戦でも使えそうだな」
「そうですね。でもこれがロイドさんとお姉ちゃんが言っていた地力不足ですか。確かに少々辛いですね。でも、時間もないことだし、さっさとこの場所を離れて使いこなせるように修行しましょう」