全ての<六剣>配下の者達
「こちらが主君のロイド様。そして今、私は先代の主君であり、ロイド様の御母上であるユリナス様も改めて主君とさせて頂いている」
ロイドとヨナを前に、ミルキャスに主であるロイドを紹介するアルフォナ。
その表情はとても嬉しそうで自信に満ち溢れており、正に自らが命を懸けるに値する人物を主君としているのだろうと容易に想像できる。
「ミルキャスと申します。是非お見知りおきいただきたく」
硬い挨拶のまま話は進み、スライムを通して他の<六剣>達からも色々な意見が出た。
『で、ミルキャス。お前は今後どうしたいんだ?そもそも、あんなクソ皇帝に仕え続ける気なんてねーんだろ?お前は相当場数を踏んでいるらしいが、個人での対応は限界がある。帝国から逃れた後、お前の姿を確認した帝国の連中は間違いなくお前を狙ってくるぜ。国家を相手にするのは難しいんじゃねーか?仲間はいねーのか?』
少々厳しい物言いだが、結局はミルキャスを気遣っているヘイロン。
「ヘイロン殿のご指摘、御尤もです。ですが、残念ながら私には仲間と呼べる者は存在しません。帝国から狙われると言えば……暗部として素顔は晒しておりませんが、同僚であれば気配で私と認識するでしょう」
この言葉を聞いて、仕えたくもない主君に仕えていた時を思い出したのか、アルフォナが助け舟を出す。
「ロイド様、ユリナス様。このミルキャスは見所があります。素晴らしい騎士道精神も持っている。是非とも我らと共に行動させて頂けないだろうか?」
既にフロキル王国とリスド王国に喧嘩を売っている相手が、アントラ帝国であると理解しているロイド一行。
その刺客であったと明言しているミルキャスを手元に入れると言う提言には、即座に首肯できなかった。
魔神の眷属である者達の詳細も分からず……恐らく皇帝カリムや行方不明となっているジーダフ伯爵がその一味であろうとは理解しているが、そんな状況の中で不穏分子を懐に入れるのには抵抗があった事は否めない。
そんな中、ミルキャスと同じような環境にある<闇剣>のヨナが助け舟を出す。
このヨナ、環境は同じ様なものだが、大きく違うのはヨナは自ら願ってロイドを主君としている所だ。
しかし、仮に自分がミルキャスと同じように、そしてアルフォナと同じように、クズに強制的に仕える事になっていたら……と思うと、放っておけなかったのだ。
それに<闇剣>のヨナには秘策があった。
「私に良い考えがある。<闇剣>の配下、残り一枠存在する」
その一言で、<六剣>達は全てを理解した。
<六剣>は<無剣>に認められる必要があり、<無剣>に対して敵意を持った時点で所持者としての資格を失う。
その<六剣>配下になる者も、それぞれの主である<六剣>に敵意を持った時点でその力を失うのだ。
つまり、敵意があるかどうかは自動的にわかるようになっている。
幸か不幸か、<闇剣>の配下についてはヨナの言う通り一枠残っていた。
「ヨナ殿!どうでしょうかロイド様、ユリナス様!」
大きな希望が見えたアルフォナは、ここぞとばかりに押して来る。
『アルフォナ、落ち着け。嬢の提案、俺としちゃー良い提案だと思うぜ。そもそも、敵意が有るんだったら、アルフォナは気が付くだろ?』
アルフォナの人を見る目を完全に信頼しきっているヘイロン。
そしていつもの通り、余り物ごとを深く考えていなさそうなスミカも同意?している。
『お姉ちゃんと一緒で!』
もう何を意味しているのか分からないが、恐らくヨナの案に賛成すると言いたいのだろう。
最後は絶対の尊敬と信頼を得ているユリナスが決定付けた。
『私もアルフォナを信頼しているわ。貴方の決定、賛成させて頂くわよ』
こうしてミルキャスは、<闇剣>配下の最後の一人になる事が決定した。
偶然ではあるのだが、<闇>の力を得る事でその存在を異なる人物と見せる事が出来るようにもなるため、アントラ帝国の暗部の目を欺く事も容易い。
「ありがとうございます。誠心誠意、アルフォナ殿から騎士道精神の何たるかを教わりながら、ユリナス様、ロイド様にお仕えいたします」
こうして帝国最大戦力ではあるが決して表に出てこない暗部総隊長のミルキャスが、人知れずロイド達の味方となり、更には<六剣>配下としての力を得る事になった。
唯一残念な事は、ミルキャスは皇帝の命令を遂行する機械のように行動していたので、帝国内部の情報を殆ど持っていなかった事だろうか。
そのミルキャス、<六剣>配下ではキルハ国王とキュロス国王、そしてリアナに続く四人目の騎士以外からの選定となった。
元暗部総隊長に<闇剣>。最も適切な組み合わせと言えるだろう。
もちろん配下となったその時点で生まれ変わっていたミルキャスに敵意が有る訳もなく、何の問題もなく<闇剣>の配下になる事が出来ており、その忠心が証明された。
「じゃあミルキャスは、暫く事情等の説明も有るだろうからアルフォナの下についてくれ。その後は任務の場所、そうだな。ミルキャスの特性から、どこかに固定した任務じゃない方が良いだろうな。都度場所が変わる事になるかもしれないが、それでも良いか?」
「お任せください、ロイド様」
元暗部総隊長と言う高い力を持っているので、誰かの護衛と言う固定の任務以外を行った方が良いと判断したロイドによって、ミルキャスの立ち位置は決定した。
テスラムの眷属であるスライムも分け与えられ、この時点で魔神についての話も明らかにしている。
更には互いに映像でその存在を確認した。
その後暫くはリスド王国の<六剣>配下と行動を共にし、騎士達の鍛錬が終わり次第アルフォナと共にフロキル王国に戻って、そちらの騎士達と行動を共にして互いの存在を認識する。
正式な任務はその後に行う事にしていた。
「そこまで、何もなければ良いがな……」
ロイドの呟きは、傍にいたヨナ、そしてスライムによりテスラムの二人だけが拾っていた。
このロイドの不安に反し、何事もなくミルキャスはアルフォナと共にフロキル王国に戻り、代わりに<光剣>のナユラがリスド王国に戻っている。
これだけ長い時間が経過しているので、魔人であるジーダフ伯爵と皇帝カリムは暗部隊長やミルキャスの調査結果を待ち望んでいたのだが……結果は何も分からないと言う報告しか受け取っていなかった。
スライムの監視から外れるために、基本的にはアントラ帝国の皇居にはいないジーダフ伯爵。
とある場所で、残りの二人の魔人と行動していた。
一人はヘイロン達が訪問したことのある集落の近くで行動していたマドレナス。
一人はアントラ帝国の伯爵であるジーダフ。
一人はリスド王国の冒険者として活動していたンムリドだ。
ある程度<六剣>の情報を得た三人の共通認識としては、戦争を起こして膨大な負のエネルギーを取得する事のみが<無剣>と<六剣>を始末できる唯一の方法であると結論付けていた。