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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す!  作者: 焼納豆
神と魔神
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その頃の暗部総隊長ミルキャス

 スライムによってユリナスの元に族が侵入したが難なく排除したと言う報告は、ユリナス本人以外に伝達された。


 それを聞いていたアルフォナ。


 毎日騎士道精神を説きつつフロキル王国と同様に実地の訓練を行っているのだが、遠方からの監視の気配は消えていないのが気になっていた。


 皇帝カリムとしては、今回の失態によって自らの関与が明らかになる事、そして虫獣の存在に気が付かれる事を避けるため苦渋の決断でリスド王国の虫型魔獣を撤退させたので、密偵による情報収集しかできない状況にあった。


 そんな中で、日々行われるありがたい騎士道精神についての説法とでもいうべき言葉を聞き続けているミルキャス。


 特に、この言葉を聞いてから感動が抑えられなくなっていたのだ。


「諸君!諸君達は騎士。誇り高い騎士である。騎士とは、主君と認めた(・・・)お方を、全身全霊を持ってお守りするのが使命。その為には崇高な精神と弛まぬ努力、そして力と知識が必要だ。全ては主君の為。それこそが騎士道精神の本懐!……」


 まだまだ話は続くのだが実はこのミルキャス、立ち位置としては<闇剣>のヨナと同じようなもので、一族がアントラ帝国の皇帝に仕え続けていた。


 そうするように幼い頃から教育され、そしてありとあらゆる術や知識を詰め込まれていた。


 ヨナと大きく異なる所は、自ら認めた主君ではない事。

 そして、その主君のためにと思って行動した事は一度もない事だ。


 そこに、このアルフォナの騎士道精神のありがたい説法。

 毎日感動の涙を流しながら聞き入ってしまっていた。


 今のミルキャスの思いは、何としてもアルフォナの話を直接聞きたいと言う事だ。


 そしてこれほどまでに素晴らしい精神、実践訓練で見せる強さを持っているアルフォナが主君としている人物に会いたくて仕方がなかったのだ。


 日々暗部の仕事だけを心を殺して実行していたミルキャスは、市中の噂は右から左に流れており、<土剣>アルフォナの主君はユリナスとロイドであるという事すら知らなかった。


 もちろん今アルフォナは専ら<無剣>の力を失っているユリナスに付き従っているのだが、この事実すら知らない。


 そこに、同じ暗部の者が皇帝からの直々の指令を持ってきた。


 当然、アルフォナを始末してキルハを亡き者にしろと言う指令だ。


 一瞬で感動によって高揚していた心が冷え、無表情に戻るミルキャス。

 無言で頷くと、指令を持ってきた暗部はこの場から立ち去った。


「私は、この業からは逃れられないのですか……私程度があのお方(アルフォナ)と直接話が出来るなど、淡い希望を持つ事自体が分不相応だったのですね。どの道私程度では手も足も出ないのですから……潔く、あのお方のお姿と声を聞かせて頂いた後に……自ら散る事にしましょう」


 悲しそうに下を向き、手にした手紙を魔術で焼却するミルキャス。


 その動きは実に洗練されており、この動き一つを取ってみても伊達に暗部の総隊長をしている訳ではない事が伺える。


 しかし上には上がいる。

 そう、<六剣>の内の一つである<土剣>を持つアルフォナだ。


 常にミルキャスの事を監視していたアルフォナ。

 明らかに敵意のある物がミルキャスに接触した事も掴んでいた。


 その後のミルキャスの感情までは伺い知れないが、その気配から敵意は一切ない事は理解していた。


「一先ず……諸君。急ではあるが実戦の時がやってきた。良いか、視線を動かさずに良く聞いてくれ。背後の崖の頂部に人がいる。この人物に接触せず、気配を悟られずに、更に先に逃走している人物を捕縛しろ。そうだな……今回はグラデイアとカリーナ、そして補助にトーマだ。今こそ騎士道精神を見せる時だ。私があの崖の上の人物を捕らえておくので、そこに無傷で連れてくるように。出来るな?」


 今回選別された騎士は、<水剣>の配下であるグラデイアとカリーナ、そして<土剣>の配下であるトーマの三人だ。


 本来は一人で対処できるべきなのだが、実力を大きく上げての実戦である為に、力加減を誤って逃すような事が無いように三人選別したに過ぎない。


 アルフォナの言葉を聞いて、三人は溶け込むようにこの場から消えていく。

 重ねてになるが、この動きは決して騎士としての動きではなく、最早誰が暗部か分かったものでは無い。


 騎士の集団から三人が消えた事は、悔しさや寂しさの感情を押しとどめようとして下を向いているミルキャスには分からない。


「私は、あの崖の上の人物を捕らえて来る。その間、諸君は自主的な鍛錬をしておくように。以上、解散!」


 アルフォナも音もなくその場から消える。


 遠くの崖の上にいるミルキャス。


 長きに渡って一族の全ての力を覚えさせられ、そして非情とも言える任務をこなしていた為に、直感で背後に振り向いて戦闘態勢を取る。


 無意識でその行動が出来ているのだが、視線の先には何もない。


 気配も感じる事が出来なかったのだが、何故か強大な敵を目の前にしているかのように、瞬き一つできずにその場から動けずにいた。


「フム。中々の力を持っているではないか。しかし物騒だな。その姿……予想通り暗部の様だ。こちらを監視し続けていたという事は、狙いはキルハ国王か?」


 徐々にその姿を現すアルフォナ。

 何故かミルキャスは指の一本も動かせない。


「しかし、殺気が一切感じ取れないのは何故だ?戦う気がない……のか?そこの所はどうなのだろうか?」


 決して油断はしていないが、ミルキャスが自らを脅かす程の力を持っていないと把握していたので、道行く人に話しかけるような感覚で問いかけているアルフォナ。

 

 ミルキャスは、力の差を見せつけられているので口を開く事すらできなかった。


 このままでは、場合によっては攻撃される可能性が高いと分かってはいるのだが……動けないし話せないのでどうしようもなく、いっそこのまま葬られても良いとさえ思い始めていたのだ。


「む……そうか。申し訳ないな」


 突然アルフォナが謝罪し、一気に体から力が抜けて座り込んでしまう。


 暗部総隊長に就任してから、いや、記憶にある限りこれ程人前で隙を見せた記憶がない程に、無防備になってしまっていた。


「無意識に力を少々開放していた様だ。騎士道精神に反する行為であった。申し訳ない。これで話せるのではないか?」


 戦闘訓練や実戦では自動的にスライムがテスラムに接続される。


 そのため、アルフォナの無意識の威圧によって目の前の女性が動けなくなっているとスライムを通してテスラムから指摘があったのだ。


「お待たせしました」


 そこに現れる三人の騎士と、指令書を持ってきていた暗部。


 暗部の男はこう見えてとある隊の隊長であり、易々と捕まるような男ではないのだが……


 <六剣>配下として十分な力を発揮できる騎士達には関係がなかった。

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