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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す!  作者: 焼納豆
神と魔神
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<光剣>のナユラ(1)

「キルハお兄様と会うのも久しぶりですね」


 リスド王国に向かっている<光剣>のナユラ。


 元王族だが、さっさと王族と言う立場を放棄して冒険者として活動していた。


 しかし、今回あまり公にはできない魔神の手先が悪魔であるソレントス以外にもいる可能性が極めて高い事、そしてその者が動き始めている可能性も高いことから、後手に回らないように身内の護衛をするために帰国しているのだ。


 今の立場はただの冒険者であるナユラ。


 本来は森の中の街道を長距離移動するのに一人で行動していると言うのは有り得ない事なのだが、<六剣>所持者であるナユラであれば問題は一切ない。


 しかし、街道によく潜んでいる盗賊やら人攫いやらにしてみれば、極上の人物が一人で襲って下さいと言わんばかりにテクテク歩いているのだから、何かの罠だと思うのも仕方がない。


 そのおかげか、ナユラとしてもしっかりと気配を掴んでいた不穏な一団が襲ってくる事は無かったのだ。


「襲ってこないのであれば、今回は見逃しましょうか。一応は急いでいますしね」


 <六剣>の力を使って全力で移動すればそのような輩に発見される事もなく移動時間も最短で済むのだが、あえて普通の人族より少し早い程度の移動速度で行動しているナユラ。


 <探索>能力に長けていない事は理解しているので、ヘイロンのように高速で移動しつつも周囲の情報を得る事は出来ないと分かっている。


 その為、少しでも移動中にも情報を得られるように、速度を落としているのだ。


 キルハ国王が危険な状態になっている等であれば急ぐのだが、テスラムからの情報によれば今の所は全く異常がないと言う報告を受けていた。


 もちろんキルハ国王自身も<光剣>所持者である自分自身の配下になっている上、その他の<六剣>所持者の配下も多数配備されていると言う追加の安心材料もある。


 こうして、街道に潜む不穏な一団からは逆に気味悪がられて距離を置かれているナユラ。

 残念ながら今の所は、何の情報も得る事は出来なかった。


 盗賊達にとってみれば英断とも言える行動によって、ナユラは本当に一切の襲撃を受ける事無くリスド王国に到着した。


「よく来たね、ナユラ。事情はテスラムさんからある程度聞いているよ。私のために申しわけない」


「フフフ。大丈夫ですよ、お兄様。私も久しぶりに家族に会いたかったのもありますから」


 軽い挨拶をした後は、流石は王族と元王族。直ぐに現状の把握を始める。


「一応、あの後も自分を含めた<六剣>配下の者、それ以外の騎士達も修練を怠ってはいないから、安全だと思うのだけれど」


「ですが、悪魔のソレントスのように洗脳系の能力によって侵略される事も有るのですよ?油断は禁物です」


「確かにそうだね。でも、それすらも<光剣>の<浄化>で対処できると思うと……ね」


「お兄様!!そんな考えでは足元をすくわれます。そもそも……」


 しかし余りにも<六剣>の力が強大である事から、確かに必死に修練は行っているもののキルハとしては少々の油断がある事は否定できなかったのだが、そこを厳しく指摘したナユラ。


 冒険者として活動した経験、冒険者としての心得をヘイロンから教わった事、テスラムからの本当に厳しい修業を日々課せられている事、アルフォナから騎士道精神を毎日のように説かれている事。


 こうした積み重ねによって甘い考えは一切捨てていた。


「それにお兄様。王都の外周のとある一角ですが、一部スラム化し始めているようですよ。ご存じですか?」


「……すまない。何も聞いていない」


 たとえ得意ではないとはいえ、テスラムの修行によって<探索>まがいの事は出来るようになっているナユラ。


 以前には存在していなかったスラムができ始めている事を把握していた。


 妹からの厳しい指摘が続いて、如何に自分が油断していたのかを気付いて反省するキルハ。


 実はこの時点で、魔人の一体であるンムリドは既にリスド王国を撤退していた。


 ナユラが、ヘイロンやスミカがアントラ帝国に入った瞬間に感じ取った魔人による異常を感じなかったのは、既に逃走した後だったからだ。


 このンムリド。スラム化している場所から負の感情を得ていたのだが、他の魔人から得られた情報を精査した結果、この場所に留まるのは危険と判断して逃げ去ったのだ。


 テスラムの調査前に逃走済みであり、テスラムとしても広大な領土の一角にスラムが有っても異常とは感じなかった。


 騎士達<六剣>配下の力でもンムリドの存在を発見する事ができなかったのだが、平和な世の中であると言う油断、そして日々の修練にほぼ全ての力を使っていたことから仕方がない部分もある。


 逆に言うと、魔人はその油断、隙を的確についていたとも言える。


「私が来たからには、油断は一切許しません。正に今、前回以上の危機的状況が迫っていると認識してください」


 厳しい言葉が続いているナユラ。

 その足で、<六剣>配下を含めた騎士達の鍛錬場に向かう。


 キルハ王国の騎士は、<六剣>全ての配下が最低でも一人は存在している。

 それぞれの特性に応じた攻撃を繰り広げつつ、各自の練度を上げているのだ。


「ジョルドさん!」


 その鍛錬場に到着したナユラは、<炎剣>の配下である騎士のジョルドを呼びつけた。


 ジョルドは声に反応し、実戦形式の鍛錬として<闇剣>配下の騎士であるローレンスとの戦闘を中止してナユラと同行しているキルハの元に駆け付ける。


「これはナユラ王女……ナユラ様。お久しぶりでございます」


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 共に鍛錬していた相手のローレンスも笑顔でナユラを迎えるのだが、ナユラの表情は非常に硬い。


 なぜならば、この二人の発言から自分自身の来訪を察知していなかった事が明らかだからだ。


 当然彼らにはスライムがついているのだが、緊急事態を除けば基本的にテスラムを含めて<六剣>達から何かを伝える事は無いので、ナユラ来訪も伝えられていなかった。


「お兄様。騎士達の訓練……いいえ、<六剣>配下の訓練を一旦中止してください」


 ナユラの指示によって<六剣>配下の訓練は中止され、全てがナユラの前に並ぶ。


「お兄様……ここにいる<六剣>配下。14人ですね。全員ですか……毎日この状態なのですか?」


「そうだな。そうしているが……」


 何故不機嫌そうな表現になっているのか理解できないキルハは、取り敢えず聞かれた事に正確に答える。


 目の前にいる騎士達もナユラの機嫌が少々悪い事は気が付いているのだが、原因が分からずに困惑していた。


 そんな騎士やキルハを前にして、ナユラは淡々と語り始める。


「皆さん。ロイド様のご活躍で平和が訪れた事は大変良い事です。そしてその平和に溺れずに鍛錬を続けている事も素晴らしいです。ですが、油断、慢心がある事に気が付いておりますか?」


 突然のナユラの宣言に、騎士達は思わず同僚を見回している。


 誰もナユラの意図を正確に掴めなかったようだ。

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