闇剣配下での修行
人生初討伐、そしてきっと人生初の武器の使用を終えたスミカはご機嫌だ。
思った以上に簡単だったため、あの魔獣が相当な雑魚と勘違いしている。
そこに、熟練冒険者であるヘイロンが本当の事を教える。
「スミカ、初討伐おめでとう。相当な経験値が入ったんじゃないか?さっきよりも力が漲っている感じはするか?」
「はい、魔獣を討伐した瞬間に何か力が湧いてきました。というよりも、魔獣から力が流れてきた感じですね。さっきよりも明らかに強くなった気がします」
これこそが、六剣配下の補強方法だ。討伐後の強くなった感じの部分が地力に加算されているんだ。
「そうだろうな。自分のレベルよりも遥かに高いレベルの魔獣を討伐すると、ありえないほどの経験値が得られるからな」
「うっ、そうですよね。私は本当の初心者なのであんなに弱い魔獣でもレベル差があるから大きな経験値がもらえるんですよね。でもこれからです!頑張ります!!」
スミカはあまりにも自分が弱すぎるからあんな雑魚でも大量の経験値が入ったと勘違いしているのか、両拳を固く握り、胸の前に合わせて気合を入れている。
「あのなスミカ。お前、あの魔獣が雑魚みたいなことを言っているが、それは大きな間違いだ。お前はこの王都に初めて来たから知らんだろうが、このエリアにのみ生息する、エリア最強の魔獣ダクタイガ、Bランクの魔獣だぞ」
「ふぇ?それって強いんですよね?」
「当たり前だろ!!このダクタイガは夜行性で、少し力が弱っている昼間にBランク以上の冒険者が多数で討伐するのが普通だ。それを、ダクタイガの本領が発揮できる夜に何の苦も無く倒したんだぞ」
「す、すごいじゃないですか??」
「ようやく気付いたか。正直俺だって、いやほとんどの冒険者は昼間であっても、ダクタイガを見たら一目散に逃げだすような魔獣だからな」
あまりに現実離れした話を聞き、スミカは驚きよりも嬉しさが勝っているようだ。
「ロイドさん、お姉ちゃん、本当にありがとう。私、もっと頑張るね。それと・・・今の話が本当だとすると・・・」
「本当だ!!」
スミカの話の途中で、ヘイロンの横槍が入った。
「ご、ごめんなさい。えっと、あのBランクの魔獣、持って帰れないですか?商人時代にも聞いたことがないくらいの魔獣だったので、初討伐の記念になるし、換金すれば良いお値段になりますよね?あとは、きっとおいしんじゃないでしょうか?」
「一番最後が重要なんだろ?」
自分の説明を信じてもらえなかったからか、ヘイロンは手厳しい。
「えっと、そうです。お父さんに教わったんです。ゴースト系統以外はランクが上になればなるほどおいしいって!!」
この娘は、正直すぎて困ったもんだ。
「良いよスミカ。私が持っておく」
「ありがとうお姉ちゃん。大好き!」
そう言って、ヨナに抱き着くスミカ。ヨナも嬉しそうに頭を撫でている。
ヘイロンは若干あきれているが、手のかかる子供を見ているようにも見える。
「よし、それじゃあもう少しでダンジョンにつくから行くぞ!!」
改めてダンジョンに向かい、程なくして入口に到着した。
「おいおい、厳しい修行とは言ってたから途中から覚悟はしていたが、まさかここかよ」
ヘイロンは若干苦虫を噛み潰したような顔をしている。
それはそうだろう。未だ浅層すら踏破できていない王都近接最大ダンジョン、推奨ランクはSランクだ。
冒険者ランクはEから始まりSSまであるが、Sランクはこの王都、いや、この大陸の国家全てを合わせても片手で足りるほどしかいないと思う。
思うと言うのはギルドとは意思疎通ができないので、仲間の冒険者達から聞いた話が情報源になっているから保証ができない為だ。だが、大きく間違ってはいないだろう。
すると、その上のSSなんて言うのは、飾りだろうな。
ある冒険者が言っていたが、これはあの御伽噺に出てきた六剣保持者がSランクと認定され、SSはその六剣を従える最強の無剣を持つ者のために作られたと言われているらしい。
つまり、このダンジョンはそういうレベルのダンジョンだ。
「まあそう言うなよヘイロン。さっきスミカの状態を見ただろ?地力を上げるにはここ以外にはないだろう?それに、俺たちはまだ見た事はないが、スキルドロップがあるかもしれないぞ?」
「そうだな。手っ取り早く地力を上げるには、ここしかないだろうな。よし、気合入れていくか!!」
両手で頬を叩くと、ヘイロンは自分の武器である両手剣を抜く。
それを見たスミカも、短剣を抜いて準備が完了する。
もちろん俺とヨナもいつも通りの体勢、ヨナは黒い魔力を体に漂わせ、俺は無剣をグローブにして使用する。
近年、このレベルのダンジョンに入り込む冒険者はいないために、周りには誰もいない。
通常のダンジョン周りでは、補給用の物資を販売する商人や簡易的な宿泊所などがあったりするのだが、ここはダンジョンに入る人がいないために、そのような施設や商人も一切確認できない。
今の俺達にとっては、絶好の状況と言える。
噂では、不要な人物をこのダンジョンの奥に送り届ける裏ビジネスがあるらしい。つまり、暗殺になるのか?
しかし、この環境ならばありえなくもないだろうな。
「よし、行くぞ!!」
安全に六剣所持者となる為の修行の一環なので、魔獣や探索などはヘイロンとスミカに任せ、俺とヨナは本当の万が一に対応するために少し後ろを進んでいる。
あの二人には、<隠密>を解除した上で修行してもらうことにしている。
危険が増すほど、地力が上がり易い・・・とはヨナの弁だ。
彼らの補強された能力であれば、いくらダンジョンの閉鎖空間であったとしても魔獣の気配を感じ取ることは容易のようで、無理なく安全にCランクの魔獣を討伐している。
しかし、このダンジョンはSランクのダンジョンであるために、ありとあらゆる強敵が浅層から潜んでいる。
六剣配下として能力が上がったとしても敵も隠密系統の能力を持っている場合があるので、敵の能力値が高いと気配を感じ取ることができない場合があるだろう。
特に、ゴースト系統はスキルによらず発見し辛い。まだこの階層ではゴースト系統の気配は俺もヨナも感じていないが、もし出てきたら注意が必要だ。
ヘイロンが炎剣所持者になって特化スキルである<探索>が使えるようになれば、おそらくこのダンジョンの最深層まで一気に気配を感じ取ることができるんじゃないだろうか。
着々とヘイロンとスミカも魔獣を討伐し、経験値を稼いでいる。
二人共<身体強化>と、スミカに至っては<短剣術>のスキルもいつの間にか得ているようだ。
ヘイロンは元から<剣術>を持っているので、スキルレベルが上がっている。
やがて広大な一階層のボスも難なくクリアし、二階層に進む。
二階層に降りた瞬間、俺とヨナは嫌な気配を感じ取った。
気配関係を察知する能力に一番長けている炎剣であればこの二階層に来る前に気配を感じ取れたのだろうが、俺達ではこれが限界だ。
ダンジョンは、階層毎に見えない仕切り?のようなものがあるのか、階層を飛ばした気配察知が今の俺達にはできない。
その気配は、怪しい魔獣ではなく人だ。
今の俺達には最も相対にしたくない相手だ。強い魔獣であった方がまだましだ。
一旦全員に<隠密>をかけなおしてこの場をやり過ごすことに決定した。
相手はこちらに向かってきているようなので、待ち続けて通過するのを待つよりもこちらからも向こうに進み、すれ違った後に距離を十分取って再度修行を再開する。
ヘイロンとヨナの二人にも、人の気配を察知することができたようだ。
程無くして視認することができたが、仕立てはいいがボロボロになった服を着ている見た目俺と同年齢程度に見えるの女の子が、一人で足を引きずりながら歩いている。
手には弓と、背中には矢筒を持っているが、すでに矢は残り三本だ。
正直に言うと、彼女はこのまま出口までたどり着くことはできないだろう。