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伝説の剣を使い、腐った王国を立て直す!  作者: 焼納豆
神と魔神
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ヘイロンの交渉術

 街道にて盗賊に前後を挟まれているヘイロンとスミカ。


 ヘイロンは何とも言えない不気味な笑みを浮かべて手をこねながらヘコヘコし、スミカはそんなヘイロンを見て苦笑いをしつつ、お菓子を頬張っている。


 盗賊に襲われているのに、逃げるそぶりも見せずにお菓子を食べている時点で異常ではある。


「ウェッヘッヘッヘ。旦那ぁ、改めて、今日はどう言ったご用件で?」


「うわっ!ますますキモッ、ヘイロンさん!」


 当然スミカに突っ込まれているが、流石にヘイロンは相手にせず盗賊の首領に向かって媚を売っている。


 ヘイロン自身、渾身の笑顔を向けているのだから余計な事を言うなと言う気持ちで行動している。


 何としてもこの場を穏便に乗り切って、無駄な修行を行わずに済む方向に持って行きたいのだ。


 もちろんヘイロン達にとっては、この場にいる雑魚の中でも一応の強者は判別できているので、盗賊の頭が誰かは分かる。


 突然頭領の目をしっかり見つめながら話されたので、何故この状況で頭が誰かを判断できたのかも不思議に思っている盗賊。


「お、お前ら。随分と身軽な格好だな。目的は知らねーが、命が惜しけりゃ金目の物は置いて行け」


 辛うじて頭領が本来の目的を二人に告げるが、ヘイロンのあまりにも似合わない笑顔を含めて、理解できない事が多すぎるので若干腰が引けている。


「旦那ぁ~。そんな事を言わないでくださいよ~。見ての通り、何も持ってないですからね~。お渡し出来る物と言えば……そこのお菓子位なんですよ」


「うわっ。ヘイロンさん最低。これは私のお菓子です!」


 再び盗賊の前で繰り広げられる喜劇。

 流石に盗賊の頭領としてもメンツ、そして盗賊としてのプライドからか、漸く本領が発揮され始める。


「お前ら。舐めるのもそこまでにしておけ。そんな食いかけの食糧なんぞいらねーよ。それより……お前の腰にぶら下げている剣。それとその女を置いて行けばお前だけは見逃してやるぜ」


「そうだぜ。悪くない条件だろう?」


 頭領が普段通りになってきた事から、他の盗賊も活力が湧いてきたようだ。


 だが、その要求を聞いたヘイロンは急に態度を変える。


「あ?何だとコラ?」


 腰に差している剣自体は貴重な物ではないが、鞘は<炎剣>で作成している代物だ。


 更に、大切な相棒であるスミカを置いて行けと言われては、今迄の通りに交渉できるほどヘイロンは温厚ではない。


「この野郎。言うに事欠いて剣とスミカを渡せだ?ふざけてんのは、その面だけにしやがれってんだよ、カス共が!」


 そう言いつつ、何の変哲もない剣を抜刀するヘイロン。

 もちろん鞘を<炎剣>にはしない。


 <炎剣>を顕現させてしまっては力の制御に対する難易度が下がるために、テスラムから禁止されているのだ。


 少々切れ気味のヘイロンとは言えテスラムの修行に恐れをなしているヘイロンは、ここで指示を違えるような事はしなかった。


「こいつ……漸く本性を現しやがったな」


 激変したヘイロンを見て、盗賊の全員が戦闘態勢になる。


「最初からこうすればよかったのに。アレで本気で交渉できると思っていたら、凄く残念ですよ、ヘイロンさん」


「グハッ……」


 何故かスミカの一言で大ダメージを負ったヘイロン。


「クソ。まあ良い。見ていろよ、スミカ。こうなったら俺の真の実力を余す事なく見せてやるぜ!」


「その意気です。頑張って、ヘイロンさん。モグモグ」


 再び喜劇が始まったのを見て、とうとう切れてしまい攻撃に移行した盗賊。


「テメーら、ふざけんな!!やっちまえ!!!」


「ホッ。ヨッと。ホイサ」


 一応抜剣はしたものの、峰打ちの状態で鬼気迫る勢いで攻撃してくる盗賊達を無力化させていくヘイロン。


 スミカは一切その場を動かず、ひたすらお菓子を食べるために口だけをモゴモゴ動かしている。


 その姿を見ている頭領は、誰一人としてヘイロンに傷を負わせるどころかスミカにすら到達も出来ていない事に気が付くのだが……その時には既に仲間の盗賊の最後の一人がヘイロンによって気絶させられるところだった。


「ヘイロンさん。神経使って疲れちゃいました?でも、一応修行の内容はクリアじゃないですか?」


「どうだ!俺だってやればできるんだぜ」


 とても盗賊の魔の手から逃れられた事を喜んでいるようには見えない目の前の二人を見て、明らかに襲う相手を間違えたと今更ながら理解した頭領。


 逃走するか、玉砕するかを悩んでいる所に、ヘイロンと視線が合ってしまう。


「ま、まて!お前は俺に何かを交渉しようとしていたな。聞いてやる。言ってみろ!」


 攻撃されてはたまらないとばかりに、頭領は今更ながらヘイロンが言わんとしていた事を聞こうとする。


「あ~。なんて言うかな。手加減するのが大変だから、攻撃せずに帰ってもらいたかったんだよな」


 すっかり素になっているヘイロン。


 言っている内容も盗賊にとっては訳が分からないが、現実的に盗賊連中は頭領を除く全員がのされた状態だ。


「わかった。俺達はお前達には手を出さない。これで良いだろう?」


「おいおい。俺達と言っても、もうお前しかいね~じゃねーかよ。今更何言っていやがる」


 当然の返しをされた頭領は、自らの悲劇を覚悟したのだが……


「流石はヘイロンさんですね。最後の一人でも失敗するリスクを恐れずに果敢に立ち向かうなんて!」


 ヘイロンは、ここまで来てしまえば最後の一人も気絶させておこうとしていたのだが、スミカに言われて最悪の事態に気が付いた。


 万が一にも最後の一人である頭領に対して加減が失敗した場合、修行が追加されるからだ。


「……おい、お前。気が変わった。誰一人として意識がないと獣共に襲われる可能性があるからな。お前が責任を持ってこいつらを保護してやれ。それと、こんな下らねー真似、二度とするんじゃねーぞ。流石の俺も二度目は目を瞑らねーからな」


 結局最後にヘタレたヘイロンは、なんだかんだと言い訳して頭領を見逃したのだ。


 そんな喧騒など一切無かったとばかりに、再び歩き出すヘイロンとスミカ。


「ヘイロンさん。結局あの気持ちの悪い態度が交渉……だったのですか?」


「頼むスミカ。忘れてくれ」


 スミカの言葉に軽くダメージを受けつつ、今更ながら自分の交渉術のレベルの低さに赤面するヘイロンだ。

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