闇剣の配下
「運良くここには闇剣所持者であるヨナがいる。スミカ、ここにいるのは俺の母さんの時代から使えてくれているヨナだ。ヨナの一族は、無剣所持者である俺の一族に長い間仕えてくれている。基本的に隠密行動をするために認識阻害をかけたり名前を伝えなかったりするが、既にスミカは秘密を共有した仲間であると判断したから名前を伝えた」
「ありがとうございます。ヨナさん、よろしくお願いします」
「うん、よろしくスミカ。でも外では決して名前で呼ばないように」
「えっと、それじゃあ、お姉ちゃんで良いですか?」
「ふぇ?お姉ちゃん??え、いい・・・けど」
「はい、それじゃあよろしくお願いします。お姉ちゃん」
何だこりゃ?ヨナが動揺しているのを初めて見た。しかしお姉ちゃんか。姉妹ができて嬉しいのかな?
何だか少々にやけている感じだ。
「話を進めるぞ。六剣所有者がここに一人いるからな。一旦配下に入ってもらってダンジョン深層に行こう」
「ロイドが言っていた地力を上げるためだな」
俺は頷いた。
「いつ悪魔が来るかわからない状況だからな。できる事は早めにしておきたい。もしよければこれから行きたいが、どうだ?」
「願ってもない」
「私もです」
「じゃあヨナ、二人を一旦配下にしてくれるか?」
「承知しました」
ヨナは闇剣を手に取ると、闇のオーラが二人を包んだ。
「お、明らかに強くなったのがわかるぞ。こりゃスゲーな」
「本当ですね。なんだか最強になったような気がします」
「俺達の行動がばれるとまずいから、ヨナに<隠密>をかけてもらうからな」
そう言って、スミカとヘイロンに<隠密>をかけると、ヨナは自分自身にも<隠密>をかけた。
俺は無剣の力で自分に<隠密>をかけることができるので自分でかけて、四人で早速ダンジョンに向かった。
「ところでスミカ、お前の得意な武器は何だ?」
「ヘイロンさんみたいに経験豊富じゃないんで、ちょっとわかりません。これから色々試そうと思っていたんです。ヘイロンさんのお勧めは何ですか?」
「俺としては、今後の事を考えるとスミカは基本後衛に位置するはずだから遠距離か、万が一近接された場合の対応で超近接か?」
「ロイドさんとお姉ちゃんはどう思いますか?」
「そうだな、俺的には遠距離かな。近接にしても水剣の性能があれば問題なくできそうだけどな」
「そうですね、私もロイド様と同じ意見です」
「そうすると、<水魔法>による攻撃にするのか、オーソドックスに弓にするのか、経験を積んで考えていくんだな」
「わかりましたヘイロンさん。現場でまたアドバイス頂けると助かります」
「おう、任せておけ。でもロイドやヨナの意見も聞いて相談したほうが良い。俺たちはパーティーになるんだからな」
ヘイロンは、嬢ちゃんではなくヨナの名前で呼んでいる。
だが、一歩外に出ればこの呼び方も自然に変えてくるだろう。気持ちを切り替えて出発しようとしたが、ヘイロンは続ける。
「でな、お前今何の武器も持ってないだろ?どうすんだ?」
ごもっともな意見だ。
ヨナの<闇魔法>を使用した収納に武器は入っていない。
俺の<無限収納>には、ダンジョンで拾った冒険者が使用していたであろう武器がいくつかあるが、弓はなく短剣だけがあった。
「スミカ、とりあえずこの短剣を渡しておく。ダンジョンでの拾い物だからあまり良い物じゃないが、何も無いよりはましだろ。これから武器を購入するのも目立つ恐れがあるし、悪いが今回はこれで頼む」
「いえ、ありがとうございます。ヨナさんのおかげで力が満ち溢れていますからどんな武器でも、いえ、武器がなくても行けそうな感じがします」
頼もしい言葉を聞いて、さっそく俺達はダンジョンを目指すことにした。
「よし、じゃあ行くか」
一旦<隠密>を解いて主人に挨拶してから、俺達は店の外に出る。
すっかり夜は更け、こんな時間に防壁の外へ出るやつはいない時間だ。
本当に稀に遠くまで遠征していた冒険者が帰還する場合はあるが、逆のパターンの、こんな夜更けに防壁の外に出るなどありえない。
視界が悪い中、夜行性の魔獣に襲われる可能性が高いからだ。
当然普通に出ていくと門番に声をかけられるが、今の俺たちは<隠密>の影響で一切気が付かれることなく門を潜ることに成功し、基礎能力が大幅に上がっているヨナの配下となったヘイロンとスミカも余裕で俺とヨナの速度についてきている。
この調子で進めば、あと数十分もしないうちにダンジョンにたどり着くだろう。
移動中も<闇魔法>を使用した周辺の警戒を行っていたが、進行方向から少し外れた位置に魔獣の気配を探知した。
いきなりダンジョン内部という閉鎖空間で、冒険者登録をしたばかりのスミカが初めて渡された武器を使うには少々厳しいと思ったので、慣れる意味でも討伐してもらうことにした。
走るのを止め、スミカに確認する。
「スミカ、今のお前なら気配を察知していると思うが、あそこに魔獣がいる。わかるか?」
「はい、信じられない位よくわかります。こんなに離れているのに。それに今までだって、かなりの距離をすごいスピードで走ってきましたよね?全然疲れていないし・・・信じられません」
「そうだろうな。それで、これからダンジョンに入る前に、一度その武器を試したほうがいいと思うんだ。それに俺の勝手な想像だけど、スミカは魔獣を討伐した経験はないんじゃないか?」
「ええ、冒険者登録をしたばかりですので・・・」
「それならば、今丁度いい状態の魔獣がいるし、早速やってみるか?できそうか?」
「はい。何だか分かりませんが全く不安はありません」
「万が一があった場合は俺達全員がフォローに入るから、安心して行ってきてくれ」
そう伝えると、スミカは短剣を持ち魔獣のいる方向に向かい始めた。
「ロイド、確かに俺もこのとんでもない力に驚かされている。しかし、それを踏まえてもスミカは冒険者登録をしたばかりだろ?武器を使った経験もないやつに、いきなりダクタイガは少し危険じゃないか?俺でもあんな高ランクの魔獣は討伐した経験はないぞ」
ヘイロンの言う通り、あそこにいる魔獣はこの辺りではかなり危険視されている夜の王者のダクタイガ、魔獣ランクはBランクだ。
はっきり言って新人が勝てる相手ではない。というよりも、ヘイロンの言う通り熟練の冒険者でも危険な相手だ。
もちろん魔獣のランクと同等のBランクの冒険者でも、俺の経験から行くと十人くらいでようやく討伐できるという感じだ。
しかも今は夜。ダクタイガの本領が発揮される環境だ。
「ヘイロンさん、問題ないですよ。六剣の配下になっている以上あんな雑魚に遅れをとることはあり得ません」
闇剣の配下となって修行を経験したことのあるヨナは、自信満々だ。
当時のヨナは、相当小さかったにもかかわらず闇剣の配下となって高ランクの魔獣を倒しまくったらしい。
その実体験から、全く問題ないと判断している。
実際俺も、一応は万が一には助けるとは伝えたが全く心配はしていない。
これが、六剣、無剣保持者と、その配下である状態の者達の意識の違いかもしれない。
ヘイロンとスミカも六剣所持者となれば、俺とヨナのように、もう少し与えられた力についての自信がついてくるだろう。
そんな話をしていると、スミカがこちらに戻ってくる。
「えへへへ、初討伐完了しました!!思ったより強くない魔獣でしたね。私でも簡単に倒すことができました。初めてなので私に丁度良い魔獣を選んで頂けたのですか?ご配慮ありがとうございます」
ヘイロンは驚いてスミカを見た後に、遥か向こうですでにピクリとも動いていないダクタイガを視認したようだ。
「・・・・おい、俺はまだ戦闘開始していないかと思って、そっちに意識を向けていなかったんだぞ。早すぎないか?」
「えっ?そうですか?初めてなんで慎重に行こうと思って、そんなに急がずに行ったつもりなんですけど・・・」
「そうか・・・えっと、ロイド。あの魔獣の詳細を教えてもいいのか?」
「ああ、いいんじゃないか?この程度で驚いているようではこれから修行にならないからな」
「どんだけ厳しい魔獣を討伐させるつもりだよ。だが、実際スミカもこれだけ強い、いや、すまん、実際見ていないが結果だけ見ると相当強いんだから、ある程度の強さがある魔獣討伐じゃないと地力は上がらんよな」
「そう言う事だ」
やはりヘイロンは切り替えが早い。さすがは熟練の冒険者だ。