ソレントスの誤算
第一階位の悪魔であるソレントスから受けた洗脳が完全になくなった第一階位の悪魔二体、ユルゲンとサファリア。
「我らは、先代と今代の魔王様を裏切ったソレントスを滅する義務がある」
「その時までは、自由に行動させていただけないでしょうか?その後の処遇はお任せします」
悪魔、悪魔と言っているが、テスラムのような悪魔もいることを身をもって理解しているナユラとアルフォナ。
同時に、ここにいる二体の悪魔もテスラムのような悪魔であると感じた。
特にアルフォナは、主の為に自身の身を犠牲にすることも厭わずに行動しようとする二体の悪魔を見て、感銘を受けている。
「素晴らしい!貴公達も崇高なる騎士道精神を持つ者であったか。わかった。その希望、叶えられるように我らが主にこのアルフォナが進言しよう」
「ですが、その主・・・ロイド様とは、現状はぐれています。あの方たちの所に連れて行っていただけますか?その時に私からも説明を致しますが・・・」
対する悪魔二体は従順だ。
「もちろんです」
「別の場所に転移したもうお二方についても同じように合流させていただきますが、お二人の何れかに同行願えませんでしょうか?我らだけで向かうと、問答無用で討伐されそうな気がしますので・・・」
ナユラとアルフォナは、悪魔二体のセリフを聞いた瞬間に荒ぶるヘイロンを思い浮かべ、納得してしまった。
ある意味スミカに害を与えてしまった悪魔なのだ。
スミカはヘイロンにとって出来の悪い妹のような存在でもあり、仲間でもある。そんなスミカに害を与えてしまったのだ。
ヘイロンであればいくら悪魔が転移門を使用したとしても、現れた瞬間にスミカ達を攫った悪魔であると判別できるだろう。
そうなると、会話など一切なく問答無用で全力で攻撃してくることは容易に想像できる。
そう、弁明の瞬間すら訪れることは無いのだ。
「む、あの直情的なヘイロン殿であればそうなる可能性が高いな。理解した。我らも共に行動しよう。良いかな、ナユラ殿?」
「ええ、もちろんです。ではお二方、早速向かいましょうか?」
危害は加えられないと理解はしているが、一応警戒態勢は解かずに悪魔二体と共に少々離れた位置にある転移門に向かうアルフォナとナユラ。
悪魔二体がそれぞれ理由を説明してアルフォナとナユラに触れると、同時に転移門を潜ってスミカとヘイロンの近くに転移した。
「便利なものですね。まるで主の・・・いえ、この門はその洗脳した悪魔の元や魔王の元に行けるのですか?」
ロイドの能力を漏らしそうになって、慌てて話題を変えるナユラ。
「ソレントスの近くには行けますが、魔王様の近くに直接は行けません」
流石に魔王の近くは安全の為か直接移動することはできないようだ。
そこに、素早く気配を察知したヘイロンと同行しているスミカが到着した。
もちろん彼らの近くにある転移門から出てきたのだから、すぐに見つかるのは想定の内だ。
「おい、アルフォナとナユラ、なぜそいつらと一緒にいる?」
アルフォナとナユラが無事な状態でこの場にいるので、問答無用で攻撃をするようなことは無かったヘイロンだが、殺気はダダ洩れだ。
「ヘイロン殿、落ち着いてくれ。彼らは敵ではないことが分かったのだ」
「アルフォナ様の言う通りですよ。これから事情を説明しますから落ち着いてください。その後すぐにロイド様とも合流します」
二人から同じような事を言われて、殺気を収めるヘイロン。
だが、警戒心は高いままでさりげなくスミカを背中側に庇っている。
もちろん背後からの奇襲にも対応できるように、<探索>は全力で展開していた。
そんなヘイロンの姿勢を好ましく思いながら、ナユラは事情を説明した。
話が進むにつれて、したくもない行動をさせられて、あまつさえ主を裏切るような行動を取らされた悪魔二体に同情の念を持ったヘイロン。
結局はこの男も情に厚いので、すぐに影響を受けるのだ。
「事情は分かった。お前らも辛かったな。スミカを攫ったことは不問にしてやる。だが早くロイド達と合流しねーと、いきなり今の魔王を討伐しかねねーぞ」
この場にいる第一階位の悪魔であるユルゲンとサファリアは少々焦っていた。
<六剣>の力は強大で、当然それらを全て従えている<無剣>は更に強大な力を持っているからだ。
そんな面々が魔王と対峙したら・・・結果は火を見るよりも明らかだ。
「申し訳ない、すぐにでも事情を<無剣>所持者殿に説明していただけないだろうか?即転移する」
「何卒・・・」
焦る二体の悪魔。
「心配すんな。俺達が話せばあいつも理解するし、何よりテスラムさんもあんた達の事は把握してるはずだ」
実際は、洗脳下にあるかなどまでは把握していないテスラムだが、先代魔王を崇拝し、忠実であったころの記憶はある。
当時の魔王、テスラムの主の妹の態度が豹変したことも理解していたので、洗脳と言われれば納得してくれるだろう。
この高位悪魔二体の幸運なところは、更なる<六剣>分断対象に始めに選んだのが<光剣>のナユラであったことだ。
逆に言えば、裏で魔王を支配しているソレントスの最大の誤算でもあった。
早速全員で転移門を潜り、ロイド一行と合流する。
すかさずヘイロンとナユラが全員に状況を説明し、再度作戦を練ることにした。
その間、テスラムとユルゲン、サファリアは互いに謝罪しあい、裏切者であるソレントスへの敵意をむき出しにしていた。
ソレントスは、未だユルゲンとサファリアの洗脳が解けていることは解っていない。
だが、術者であるソレントスは、同格の高位悪魔である二人の術の効きは定期的に確認し、場合によっては重ね掛けしている。
もちろん今回の戦闘時のように危機的な状況等の外的要因で突発的に洗脳が溶ける可能性はゼロではないので、頻繁に確認しているのだ。
なので、ユルゲンとサファリアの洗脳が解けている事を理解するのはそう遠くない。
そうすると、ソレントスの最後の切り札は魔王アミストナ本人・・・ではなく、当然奥の手も隠してあるのだが、最悪アミストナを人質にとる作戦も考えられる。
その程度の行動はテスラムにとってみれば容易に想像できるので、すかさずソレントスの討伐と同時に、ナユラがアミストナの洗脳を解除するべく向かうことになった。
ナユラの護衛的な立ち位置で悪魔のユルゲン、<土剣>のアルフォナ、<闇剣>のヨナが向かう。
ソレントスに対しては悪魔のサファリア、<風剣>のテスラム、<炎剣>のヘイロン、<水剣>のスミカ、そして<無剣>のロイドだ。
過剰戦力かもしれないが、取りこぼすわけにはいかないので万全の体勢を取る<六剣>達。
魔王領では<空間転移>が上手く発動しないので、移動はユルゲンとサファリアの力を借りて転移門を使用するしかない。
二手に分かれた<六剣>と<無剣>は、早速ユルゲンとサファリアそれぞれと目的の場所に最も近い場所に転移した。