第一階位との戦闘
アルフォナは、今までとは異なる強さを持っている悪魔・・・具体的には第三階位の悪魔の群れと対峙して違和感を覚えていた。
<六剣>全員が揃っていた時と同じような、数に物を言わせた攻撃。
悪魔の実力は違えど、全く同じような攻撃をしてくるのには何か意図があるはずだ。
騎士としての勘、そして長きに渡り修行を続けていた実力が警戒を促していたのだ。
当然いつも以上に辺りを警戒する。<土剣>の力を使えば、地表に接している者達の気配を察知するのはお手の物だ。
これはテスラムとの修行中に、ヘイロンと共に考案して身に着けた技術だ。
そこに、少々離れた位置に一切動こうとしない気配を二つ感知した。
その気配の持ち主は、一度自分に触れている気配も含まれている。
ここまで来れば、アルフォナは悪魔の作戦を看破するのは容易だった。
そう、奴らは更なる分断を狙っている・・・と。
そこで、隙を与えないようにナユラに全力を出すように指示をし、自分はあの二体を逃がさないように近くにある転移門も破壊することにしたのだ。
悪魔の作戦を軽く凌駕する力を示し、更には彼らの行動を阻害までして見せたアルフォナ。
「あれは・・・あの時の悪魔。流石はアルフォナ様。いつから気が付いていたのですか?」
第一階位の悪魔に対して油断なく構えているナユラだが、彼らの存在には気が付いていなかったようだ。
「雑魚の群れが襲ってきたときから潜んでいたぞ。だが私の騎士道精神を持ってすれば、あのような稚拙な隠形を見破るのは容易い」
散々こき下ろされた第一階位の悪魔二体は、表情を一切変えることは無い。
<六剣>の実力が優れていることは理解していたからだ。
悪魔二体と対峙している<土剣>のアルフォナと<光剣>のナユラ。
ナユラに至っては初の実戦だからかあまり余裕がないので、<光剣>の力を全力開放している。
だが、結果的にはこれが運命の分かれ道だった。
彼女の持っている剣は<光剣>。その特化能力は<浄化>だ。
つまり、何かしらの悪影響化にある者を通常状態に戻す力を持っている。
当然、影響下にある者達の判別能力にも長けているのだ。
全力で力を開放しているので、第一階位と言う魔王直属の悪魔達の状態も容易に知ることができた。
「あれ?アルフォナ様。あの二体・・・少し異常状態があるのですが・・・」
「うん?異常状態??悪魔に???」
アルフォナには異常状態を見分ける力は一切ない上、悪魔に異常状態が起きていると言われてしまい・・・彼女にしてみれば理解に苦しむところだ。
「そうか!力を強制的に開放させるとか言うあれか?フフフ、この騎士であるアルフォナを前に全力で来るしかないと理解したのか。その精神だけは褒めてやろう。遠慮なくかかって来ると良い!!」
どうにか自分が理解できる異常状態を探し出し、それが事実であると無理やり自分に言い聞かせたアルフォナ。
だが、真実を知る事のできるナユラは冷静だ。
「アルフォナ様、申し訳ありません。全然違います!」
「な・・・それではどのような異常状態が起こっていると?」
少し恥ずかしがっているアルフォナだが、ナユラにはあまり余裕がないので気が付くことは無い。
「あの二体、洗脳を受けているようです」
そう、実はユルゲンとサファリアは、あろうことか同一レベルの存在である第一階位の悪魔の最後の一体、ソレントスによる洗脳を受けていた。
ソレントスは先代の魔王を亡き者にするために、妹である今代の魔王であるアミストナを洗脳したのが始まりだ。
当時のソレントスでは先代魔王を洗脳する力もなければ排除する力もなかったのだが、先代魔王の忠実な配下であったユルゲンとサファリアを洗脳した。
先代魔王に召喚されたテスラムも洗脳の対象にしようとしたが、他の悪魔から貶されつつも雑務をこなしている姿を見て、洗脳するのを止めていた。
そう、その姿をみて悦に浸るために・・・
それがソレントスの最大の失敗だったのだ。
まさか<六剣>所持者となり自分達に牙を剥くとは・・・そして魔王であるアミストナまで破るとは思ってもみなかったのだ。
既に<六剣>の力を得ているテスラムに、洗脳が効くとは思えない。
再び魔王城に向かって侵攻してくるテスラム一行を見て、一人歯噛みするソレントス。
差し当たり自らは安全な位置を保持し、ユルゲンとサファリアを上手く使って<六剣>を始末する作戦を開始した。
ソレントスにしてみれば唯一の障害である<六剣>と<無剣>だけ始末できれば、その後は傀儡のアミストナを好きに操れば安泰だ。
万が一の時にも、真っ先に狙われるのは魔王であるアミストナ。
悪魔らしいと言えば悪魔らしいが、自分の欲望に忠実だったのだ。
主さえ裏切り、利用する・・・
しかし、その作戦は<光剣>のナユラによって脆くも崩れ去った。
「洗脳??良くわからないが、とりあえず異常状態を無効にできるのかナユラ殿?」
「ええ、やってみます」
相対している悪魔二体は、自分達よりも強大な力を持っている<六剣>所持者二人を見て動けずにいる。
その隙にナユラは全力で<浄化>の力を解き放つ。
ナユラを中心に光が広がり、悪魔二体を包み込んだ。
直後、二体は意識を失い倒れてしまった。
「ナユラ殿、討伐するのであれば私にも残しておいていただきたかったぞ!一体も相手にできないとなると、騎士の名折れ!」
「アルフォナ様、落ち着いてください。私は攻撃をしたわけではありません。あまりにも強い洗脳を解除したので気を失っただけですよ」
再び恥ずかしがるアルフォナ。
流石に警戒する対象がいなくなったこの場であればナユラでもその態度を理解することはできていたのだが、見ない事にしてくれるようだ。
「ではこれからどうするか・・・あちらに濃い瘴気がある。闇雲に進むよりもあちらに進めば魔王城がある可能性が高いので、ロイド殿達と合流できる可能性が高い」
「そうですね。ですがこの二体はどうしましょうか・・・」
ナユラとアルフォナの前には、気を失っている二体の高位悪魔。
流石に第一階位の悪魔だけあって、すぐに意識を取り戻した。
再び若干の距離を取り、警戒態勢を取るナユラとアルフォナ。
ナユラとしては洗脳の事情を知りたくて、アルフォナとしては気絶している者に手を出すなど騎士として許せなく・・・彼らに手を出すことはしなかった。
二体の悪魔はアルフォナとスミカを認識すると、深く頭を下げ謝罪を始めた。
「今までの非礼、どうか許してほしい」
「私達も魔王様の無念を晴らす必要があるのです。この命が必要であれば、少しだけ猶予をいただけませんか?」
突然の事にどう対処していいかわからないアルフォナ。
だが、実際に洗脳を解いたナユラは、いくつもの想定される事情を考えていたのか落ち着いている。
「つまり、あなた方の洗脳は悪魔の誰かにされたもので、魔王も洗脳されている・・・そして、人族に害を与える行動を取ったのも洗脳のせいである・・と言った所かしら?」
黙って頷く悪魔二体。
「ナユラ殿、どういう事だ?洗脳など騎士道精神に反する行為。もう少し詳しく教えてもらわないと理解できない」
未だ理解の範疇を超えているアルフォナに、ナユラは自分がわかる範囲で説明を始める。
つまり、魔王とこの場にいる悪魔二体は同僚であるはずの悪魔に洗脳されて、意に反した行動を取らされている。
更にはこの場にいる悪魔二体の説明によると、先代の魔王・・・つまり今代魔王の姉であり、テスラムの生みの親ともいえる召喚主も洗脳と言う行為を仕掛けた悪魔の策略によりこの世を去った・・・と言う事だ。