分断された<六剣>
第三者視点
アルフォナとナユラ、そしてヘイロンとスミカがそれぞれ第一階位の悪魔によって分断された。
本来の作戦であればあの場で悪魔一体につき一人を連れて転移門を潜り抜け、第一階位の悪魔三体で<六剣>一人を相手取る予定だったのだが、<六剣>側に思わぬフォローが入ってしまい一体の悪魔に二人の<六剣>が来てしまった。
直接彼らに触れなければ転移門を使えない為そのまま作戦を実行したが、逆に直接一部でも触れることによって理解してしまった<六剣>の実力。
自分達もかなり強くなっていると言う自負があるも、更にその上を行くような強さを感じてしまったのだ。
とすると、悪魔一体に対して<六剣>二人では確実に滅せられると瞬時に判断した悪魔達は、一先ず自分達のみ魔王城に避難した。
その結果<六剣>達は、ロイド、テスラム、スミカの一行と、アルフォナとナユラ、ヘイロンとスミカと言う三つのグループに分断された。
互いの距離は当然大きく離れており、転移門で強制的に転移させられた四人は魔王領の中でも一際瘴気が濃く、魔王以下悪魔達によるあらゆる阻害魔法が施された地域にいる。
そのせいでテスラムは情報を拾えないし、スライムによる交信すらできなくなっていた。
そして場所は魔王城に移る。
第一階位の悪魔である三体、ユルゲン、サファリア、ソレントスは互いに情報を共有している。
つまり、今肌で感じた<六剣>の実力だ。
「俺が連れて行った<六剣>の二人は、はっきり言って俺より強い。あのままあの場所にいれば、俺はここにはいなかっただろう」
「ユルゲンもそう感じたのね。私もよ」
「それほどか。とすると更に分断させて、奴ら一人に対して我ら総戦力で向かう必要があると言う事か・・・」
悪魔三体は沈痛な面持ちをしている。
しかし、魔王の為、そして自らの生存の為に<六剣>を打ち破る必要がある。
もちろん自らの生存を無視すれば<六剣>の一人くらいは道連れにできる技術は得ている。
となると、<六剣>三人と<無剣>一人を魔王一人で相手取る必要が出てくる。
必要があれば魔王の為にその身を犠牲にする事も厭わない覚悟だ。
「誰がどの<六剣>を持っているか把握はできたのか?」
「多分俺が連れて行ったのが<炎>だが、他はわからん。サファリアはどうだ?」
「おそらくどちらかが<光>ね。その他はユルゲンと同じでわからないわ」
彼らとしては、初めに滅しておきたいのが<水剣>のスミカだ。
なんと言っても<回復>が厄介で、仮に<六剣>に重症を負わせても即座に<回復>されてしまうのだ。
そしてその次が<光剣>のナユラ。
<浄化>の力で悪魔の力は弱体化するので、やはり相当厄介なのだ。
偶然ではあるが、あの場にいた力が弱めの二人が<光剣>と<水剣>所持者だったのだが、情報収集能力が高くない悪魔達ではそこまで理解できてはいない。
しかし、サファリアは直接触れたナユラとアルフォナのどちらかが<光>であると判断した。
余裕があれば二人が何の基礎属性の力を持っているか判別できているのだが、緊急対応をしていたのでそれ程の余裕はなかったのが現実だ。
「ならば、あの場所に第六階位と第五階位の悪魔を向かわせるとするか。その時点で確実な属性が判断できるだろう」
「だが、先の作戦で第六階位と第五階位の悪魔はそれほどいないぞ?」
「基礎属性を判明させるだけであれば、それほど人数は必要ないでしょう?」
こうして、転移門で転移させられた面々に悪魔が差し向けられることになった。
「ちっ、なんだこいつら突然現れやがって」
「ごめんなさい、ヘイロンさん。私が油断したばっかりに・・・」
「ナユラ殿、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。ですが、これは私の失態です」
それぞれの転移先で悪魔の群れに襲われている<六剣>所持者達。
しかし、所詮は下位の悪魔であるので彼らの敵ではないのだが・・・数が多くて鬱陶しいのは間違いない。
それぞれに歴戦の猛者であるヘイロンとアルフォナが付いていたのが功を奏し、既に落ち着きを取り戻して悪魔に対処できている<六剣>所持者達。
彼らはこの襲撃には余裕で対処できると思い力を奮っているが、実はこの行動すら悪魔の作戦による物であったのだ。
「これで判明したぞ。あの男が<炎剣>、そして一緒にいるのが最も危険な<水剣>、あの女が<土剣>で、もう一人が<光剣>だ」
「そうすると、あそこにいるのはテスラムだから<風剣>、残りの二人が<闇剣>か<無剣>ね」
「あの女の方が<闇剣>だ。使っている魔法が<闇魔法>に特化している」
こうして、第五階位以下の悪魔を全て犠牲にすることにより、全員の所持している<六剣>が判明した。
悪魔にも属性特化型の力を持った者達が存在する。
例えば<炎剣>のヘイロンと共に行動している<水剣>のスミカ。
互いに相反する属性を持っているので、一般的には連携しにくいと言われている。
そこで、ヘイロンには<水>属性の悪魔、スミカには<炎>属性の悪魔、アルフォナには<風>属性の悪魔、ナユラには<闇>属性の悪魔を個別に差し向けて更に分断する作戦に出た。
それぞれの二人が連携しなければ、更なる分断は可能であると判断したのだ。
先ずは一番力が弱いと思われている<光剣>のナユラと、それに同行している<土剣>のアルフォナだ。
悪魔側の戦力が分断されて失敗する可能性を排除するために、スミカとヘイロンは後回しになっている。
その為、一旦悪魔の襲撃がおさまったヘイロンとスミカは一休みだ。
「ふぃ~、突然雑魚が群れてきやがって、面倒くせーったらありゃしねーな。スミカ、大丈夫か?」
「はい、でもロイドさん達とは分断させられて・・・ごめんなさい」
「何言ってやがる。こんな事が起こっても大丈夫なように荷物もわけてるし、訓練・・・いや、テスラムさんの拷問か?乗り越えてきただろ?戦場なんて想定外の事が起こるのが当たり前だ。お前が無事だったんだから良いじゃねーか」
「私がまだまだだったから・・・私とあまり変わらない練度のナユラは大丈夫でしょうか?」
「ああ、俺達と同じように悪魔にどこかに飛ばされたようだが、あっちにはアルフォナがいる。全く問題ねーぞ。お前もアルフォナの強さは知ってんだろ?」
「うん」
「そうだ!だからしけた面すんじゃねーよスミカ。いつものお前らしく、明るく行こうや。な??」
下位の悪魔を討伐し終えた二人は、より瘴気の濃い方向に向かって歩を進めている。
もちろん魔王城を目指しているのだ。
一方のナユラとアルフォナ。
「次から次へと・・・」
今までの悪魔とは強さが違う悪魔・・・第三階位の悪魔が現れた事を理解したナユラとアルフォナは、<六剣>の力を完全に開放して油断なく構える。
互いに背を向けて、数多くの悪魔と対峙しているのだ。
アルフォナ側の悪魔は<風>属性を持ち、ナユラ側の悪魔は<闇>属性を持っているが、まだ攻撃を受けていないアルフォナとナユラでは判断できない。
アルフォナとナユラは今までとは異なり、自ら積極的に攻撃を仕掛け始めた。
荒ぶる光と土。悪魔達も相反する属性を持っているので全力で対抗している。
「これは・・・ナユラ殿、奴ら相反する属性で迎え撃っているようだ。油断なく全力で排除を!!」
「了解しました!アルフォナ様!!」
そう、彼らの全力をもってすれば第三階位までの悪魔の群れ、たとえ相反する属性持ちであったとしても何の障害にもならなかった。
少しでも分断する隙があれば、と、傍に潜んで待ち構えていた第一階位の悪魔であるユルゲンとサファリアは驚愕した。
「こいつら、予想以上の力を持っている。一旦撤退だ」
「仕方がないわね」
急ぎ近くの転移門に移動をするが、そこにアルフォナの<土>の攻撃が炸裂した。
緊急回避できたところは流石第一階位の悪魔ではあるが、近くの転移門は完全に破壊された。
こうなると、少々離れた位置にある転移門に向かうしかない。
そこまで<土剣>と<光剣>が黙っているとは思えない。
二体の悪魔は、止むを得ずここで決戦する事を決意した。