走れ(怠惰物語)
走る、走る、走るー
何故走っているかは分からない。ただ、一つ言えることはここで立ち止まったら全てが台無しになるということだ。苦しい。吐き気もする。視界は時折霞み、歪む。力を一瞬でも抜いたら、大きく転倒するだろう。というより、意識を失うはずだ。
いつから走っているのか?一時間前?一日前?あるいは一年前?
いや、もしかしたら生まれてからずっと、走り続けているかもしれない。もう、正確な日にちは忘れてしまった。
さらにいえば、何者かが追いかけてくる。自分が走り出してからずっと追いかけている。いつ走り出したのか忘れたから、これまた正確な日にちは分からないが…。ただ、走っているのは自分だけじゃないんだと思うと、追跡者に仲間意識を覚える。不思議な安心感も生まれた。後ろの奴がどんな奴が気にはなるが、自分は走るために生まれてきたようなので構っている余裕はない。そこはすまないな、追跡者よ!
ただ、奴に追いつかれたら自分は徹底的に痛め付けられた後に死を与えられるだろう。なぜかはこれまた分からないが、直感がそう告げる。だからこそ余計に、走らなければ。
身体は限界に近かった。でも限界じゃない。だから頑張れる。もう少しやってみようと思える。フラフラになり、足が震えている。そのせいで両足がからまって盛大に転ぶ。痛い。身体が疲れで弱っていたのもあり、余計に強く痛みを感じた。その痛みが黒い縄となって、自分を拘束しようとしてくる。なんとか振りほどく。ありったけの力を込めて立ち上がり、また走る。
走るんだ。何故かは分からない。でも、走ることが自分の役割ならば、生きる意味ならば、やるしかない。いややるんだ。前へ、前を向け。辛苦を糧に走れ、走れ、走れ!
目の前が光に包まれたのは、それから間もなくのことだった。
ー完結ー