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十七試艦戦 烈風

 開戦劈頭、太平洋は日本機の独擅場であった。海軍の零戦、陸軍の一式戦(隼)……これら軽量かつ高機動の戦闘機を熟練の操縦士が駆っているのだ、イギリスやオランダやオーストラリアは無論のこと、アメリカさえも敵ではなかった。

 だが、今や離着陸すら命懸けの経験の浅い操縦士が、欧米に比して格段に劣った旧来機を飛ばし、虚しく散っていくような有り様である。かつて太平洋で猛威を揮った零戦は、まさしく「伝説」の彼方に追いやられて久しい。

 悪循環である。操縦士が未成熟な上に海軍機の主力であるところの零戦52型でさえ、ほとんどのアメリカ機に対して基本性能で劣っているのだ。生きて還ってこなければ誰も熟練操縦士にはなれない。あるいは西澤・岩本・坂井といった伝説的なエースに比す“天与の才”を持った若い操縦士もいたのかもしれないが、その才能を開花させる間もなく散華していったのでる。


 零戦の後継機が企画されたのは、まだ日本が有利に戦争を進めていた昭和15年のことであった。ちょうど零戦が制式採用された頃である。戦争は兵器の更新競争でもある。特に航空機は顕著だ。今の時点で満足できる新鋭戦闘機があったとしても、1年と待たず旧来機に成り下がる。相手に兵器を研究されるよりも早く、新技術を投入されるよりも早く、さらに高性能な後継機を矢継ぎ早に開発し生産しなくてはならない。

 だが、零戦の圧倒的性能に満足しきってしまった海軍は、零戦の後継機を開発することよりも、零戦そのものの改良や増産を優先させた(新型機に有用な新エンジンの開発が進まなかった、軍からの要求がメチャクチャだった、という例によって例の如くの理由もあったが)。零戦の後継機“十六試艦戦”のハナシは一度は御破算になる。


 だが、昭和17年、いよいよ零戦の後継機が必要とされる。ここに“十七試艦戦”の開発が始まった。設計陣は零戦を創った堀越技師と三菱である。選定エンジンの問題、枯渇し始めた資材や技術者、激化するアメリカ軍の攻撃、そういった諸々の困難を越えて、十七試艦戦・烈風が生まれた。



1944年 11月 静岡沖


 洋上を巨大な建造物が波を切って奔っている……何者の目にも触れず、その勇姿を知るものは極端に少なかったが、それは未曾有の巨大空母であった。軍艦の中では元より小型な駆逐艦とは言え、随伴する雪風、浜風、磯風の3艦が際だって小さく見えるのも致し方がないことである。あるいは、その姿を目にした余人がいたならば「大和や武蔵の如く巨大な艦である」と表現したかもしれない。

 その例えは言い得て妙である。もとい、そう表現するのが正しい。「信濃」と命名されたその巨大空母は、大和型戦艦110号艦として起工されながら海軍艦の運用路線変更に伴って、戦艦から作り替えられた史上最大の空母なのである。


 洋上を征く信濃の船足が徐々に緩まり、静止した。ややして、それに合わせたかのように名古屋方面から飛来する戦闘機の一団がある。それは、かつて太平洋上を跳梁していた零戦の姿を思い起こさせる、誉れ高き明灰白に塗装された烈風の飛行隊であった。

 烈風隊は1機また1機と信濃の広大な甲板上に舞い降りていく。零戦よりも一回り大きな機体ではあったが、ことのほか操縦性に優れているらしく特に危なっかしい挙動を見せることなく着艦は易々と進んだ。都合6機ばかりの烈風は順次格納庫に収められた。

 しばらくした後、信濃は大きく回頭しながら航海を再開する。



 この時、転進した信濃の側面を覗き見る格好の位置に潜望鏡が上がっていたことを、まだ誰も知らないのだった。




 例によって用語・用法・公証などに間違いや誤用があるかとは思いますが、お許しください。


 世界最大(当時)にして世界最短艦命だった巨大空母・信濃、そして三菱が生み出した最強(になる予定だった)艦戦・烈風、幻の空母と艦戦のコラボです。当初は烈風だけをクローズアップする予定でしたが、ムチャを承知で信濃にも出張って頂きました。

 史実では、信濃で紫電改の離着陸試験が行われたというハナシは聞いたことがあります。一応は艦戦として企画された烈風ですが、現実問題、キッチリと完成していたとしても艦上で運用するのは(離着艦速度の都合で)難しかったのではないかとされているようです。

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