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丙戦 電光改・離翔

以前、短編としてアップしていた作品を、こちらに編入しました。

少しばかり手直ししておりますが、短編の時と同じ内容です。

短編に感想や評価を下さった方は、それらが消えてしまった旨、申し訳ありません。

1945年 盛夏 厚木


 この日、日本に2発目の新型爆弾が投下された。

 もはや誰の目にも日本の無条件降伏は不可避であった。


「ワシは認めんぞ!!」

 机を叩いて怒声を上げる小園司令に恐縮しつつも、「やはり」という感じで肩をすくめる副官たち。

「我輩は断固として徹底抗戦をする構えである!」

 暑いさなかにも関わらず、司令のアタマからは湯気が上がっているように見えた。

「……ですが司令。軍令部の噂によると、もう降伏は内々には決定しているとか。陛下の御詔勅に反するような行動は慎まれるべきかと……」

「……ふん! まあ良いわ! ……何にせよ終戦が決定し正式に陛下の御詔勅が下るまで、我々は戦時下の将兵であることを忘れぬように!! 以上!!」


「もう戦争も終わりだ。噂じゃ数日後には降伏勧告を受け入れるって話だ」

「あと数日、何としてでも生き延びないと損だな」

「バカくせえ……上への当てつけに腹でも割って死のうかな」

 厚木にいる者は誰もが投げ遣りな気分で妄言している。

 8月に入ってからは様々な事情により戦闘らしい戦闘は禁じられていた。することと言えばB29が飛んできたら飛行機を空中退避させるくらいなもので、そんな最中にも死ぬ者は死んでしまった。

「どうせ死ぬなら華々しく死にたかったろうに」

「アホ言え、死ぬに華々しいもクソもあるか。死んじまったら同じことだ」

「ここで生き延びたって、せいぜいあと生きても50年そこらだろ。アメ公に占領された日本で、これから50年も平気で生きていける気がしない」

「その前に尉官以上は全員銃殺らしいぞ」

「赤松さんは昨日の晩だけで日本酒を3升ばかり呑んだらしい」

「あの人は人間じゃないな」


 それからしばしの後、白昼堂々とB29の偵察型(RB29)が帝都上空を何度も行き来した。もはや1万メートルの上空を悠々と通り過ぎていくB29を邀撃することのできる戦闘機も燃料も無く、それをどうにかしようとする気力さえ残ってはいなかった。


 青沼と山畑は駐機場の脇にある草むらで、B29が曳いていった飛行機雲を見上げる。

「連中、今さら何を偵察しようってのかね」

「電光改なら邀撃できますよ」

「そうなんだがあ……なにせ命令が下りなきゃあな」


翌日


 青沼と山畑は起床と同時に小園司令直々に呼び出しを受けた。相変わらず司令は不機嫌そうに見える。

「青沼です」「山畑上飛曹、参りました!」

「おう……来たか、休めい」

 軽く敬礼を返してから司令は重々しく口を開いた。

「……貴様ら、最後にもういっぺんだけ上がってくれるか?」

「ま、命令とあれば何度でも」

「勿論であります!」

「正直なところ……」

 司令はニヤリと笑う。

「貴様ら……特に青沼だが、我らが三〇二空でも際立って優秀というわけでもない……態度だけは一丁前だがな……ガッハッハ!」

「ははは……ごもっともで」

「だが、残念ながらあの電光改に乗って戦果を期待できるのは貴様らしかおらんのだ……この切迫した状況下で、今さら他の者に訓練だ何だとやらせている暇は無いのでなあ」

 司令は少し表情を厳しく戻し続ける。

「貴様らも知っているとは思うが、早ければ数日中に日本は全面降伏する。遅かれ早かれ、これは避けようがない。だがしかし……だ、内閣や軍令部の中にはこの期に及んでも徹底抗戦・本土決戦・一億総玉砕を謳っておるバカどもがいるのだ」

「失礼ながら司令も同様なのでは?」

 非礼とも取れる青沼の一言であったが、それを聞いた司令は怒るどころか寂しげに笑ってさえ見せた。

「……そうだ、そうだな……その通りだ……」


『……いいか、青沼、よく聞け。米軍は日本の敗戦、降伏を決定的にするため、最期のトドメを入れてくる腹積もりらしい。これは確かな情報だが、テニアンから少数機のB29が発進した。そのB29に何が積んであるか察しは付くな? 目標は松代か横須賀か……あるいは帝都そのものかもしれん』


 まだ朝靄の残る厚木を後に電光改は飛び立った。


『……実はな昨日の御前会議で降伏は決定されたのだ。今日の正午には陛下ご自身の声によるラジオ放送が全国民に向けられて放送されることになっている。戦争は終わった、日本は負けました……そういう宣言をなさるだろう。だが、我々はその瞬間までは大日本帝国の軍人だ。何があっても日本と日本人を護らねばならない。もし貴様らが無事に任務を果たし戻ってきた頃には日本は大変なことになっているだろう。敗戦直前に武力行為を行った貴様らも何らかの咎めを受けるかもしれない。だから貴様らは厚木には還ってくるな。どこか誰もいないようなところで機を放棄しろ。そして国へ帰れ……判ったな? その後のことは心配するな、なあに、一芝居うって全部ウヤムヤにしてやる』



 日本に3発目の新型爆弾が投下されることはなかった。

 8月20日、厚木基地で勃発していた反乱、いわゆる「厚木事件」は首謀者の小園司令の身柄の拘束によって終息した。

 そして戦争は終わった。





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