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蝶々蜻蛉も鳥のうち

1944年 3月末 インパール


 どこの誰が立てたのか思い出したくもないような作戦だった。一兵卒のオレには何が何だか判らなかったが、行軍を開始した翌日には、もうこれがマトモな行軍ではないということを悟った。



 羊や水牛を連れて険しい密林や川を越える。称して「ジンギスカン作戦」だという。この動物どもを荷駄として使い、さらに進軍の後、食料として転用する腹積もりらしかった。

 最初は重い糧秣や弾薬を背負わなくて済んだため楽な作戦だと思った。オレは海育ちだったから何とも思わなかったが、山育ちの百姓出身者たちは久しぶりに触れる牛だの羊だのに喜んでさえいた。


 だが、そんな考えは数時間もせずに霧散する。馬匹に併せて行軍するのだから、部隊の動きは緩慢だ。やがて早速と疲労で動けなくなる動物が出始め、結局は人間様が糧秣弾薬を背負うことになった。オレたちは重い荷を背負い、動かない動物どもをせっつきながら行軍を続けた。


 ややして川に差し掛かった。チンドウイン川という。見たこともないほどに川幅は広かった。もちろん橋など架かってはいない。ひとりで泳いでも溺れかねない川を、牛だの羊だのとともに渡れと言うのだ。

「陛下から賜った牛である! 絶対に流さぬよう用心せよ!」

 無茶な言い分だ。そもそもこの牛は現地で徴発したした牛ではないか。陛下の“ヘ”の字も関わりのない異国の牛だ。お前も難儀な皇軍の一員か。オレは手綱の先の牛に同情さえした。

 やがてオレたちは川に飛び込み、渡河を開始する。さっそく荷駄や兵隊もろとも動物が流されていく。海育ちのオレは水練には自信があったが、牛を操りつつ泳ぐなどということは当然未経験だ。オレの牛もすぐに流され始めた。


「ええい、こんな畜生と心中はゴメンだ!」


 そう思って手綱から手を離そうとしたが、いつの間にか縄が雑嚢の索具にでも絡まっていたらしい。オレは牛もろとも川の下流へと流されたのだった。



 気が付くとオレは誰もいない密林の川岸に流れ着いていた。鬱蒼とした密林の中、呼べど叫べど友軍の姿はなく、ただ傍でオレの牛が虫の息で唸っているばかり。

 牛は脚も折れ、どう考えても生き延びることは難しいように見えた。運良く一緒に流れ着いた歩兵銃は使えるようだったので、ひと思いに楽にしてやろうかと思ったが、この牛というのは思いのほか頑強だということを聞いていたので、生半可な介錯はむしろ苦しかろうと考え、そのまま看取ることにした。


 牛は半刻もせずに死んだ。


 オレは川に沿って上流へ向けて歩き始めた。途中、友軍の死体や流れ着いた荷駄を発見したが、どうやら相当数の物資や人員、そして動物を失ったものらしい。


 やがてオレは道を失い、密林の中を彷徨い始めた。運良く糧秣だけは充分に確保できたので飢えることはなかったが、すでに完全に迷走して2週間にもなる。永遠にここから出ることも、生きて国に帰ることも叶うまい。


 時折、無事に進軍できた友軍のことを思う。彼らは目的通りにインパールを攻略できたのだろうか。そうであって欲しかったが、オレにはそれを確かめる術もない。ましてや、この無謀極まる行軍を経て辿り着いたインパールで、必勝できるとは思えなかった。


 そして、地獄のような密林の戦闘が待っているかもしれないことを思うと、あるいはオレのように独りで彷徨い歩いた末に平和に野垂れ死ぬ方が遙かに幸福なのかもしれない、そう考えるようにした。


 いずれにせよ、かくしてオレの戦争は牛に流されて終わったのだった。





 7月3日、インパール作戦は正式に中止された。

 本作戦に動員された約9万人の日本兵のうち、生きて撤退できた者は1万人余だったという。亡くなった将兵の半数以上は餓死と病死であった。また、動けなくなった者のうち、相当数の者が自決したとされている。









例によって用語・用法・公証などに間違いや誤用があるかとは思いますが、お許しください。


「鬼畜牟田口」「白骨街道」「コレヲ見テ泣カザルモノハ人ニアラズ」で知られるインパール作戦です。

当初は牟田口さんの弁護をしようかと思いましたが、どう考えてもムリなので断念、

次いで佐藤中将と宮崎少将の忠烈無比な奮戦ぶりを書こうとして資料が少なく断念、

結局、いつものように何だか良く判らない中途半端な挿話のような内容になってしまいました。


しばらく更新していないのに、このクオリティの低さには自分でも呆れてしまいます。

申し訳ありません。

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