真夏の暑い夜_蚊帳のなか、ああ妹よ。
よしやうらぶれて、異土の乞食と なるとても 帰るところに あるまじや
幼い頃の私は変な子供だった。小学校の帰り道ランドセル背負って二ノ宮金次郎の銅像のように本を読み耽りながら家へ帰ったものだ。
給食前の授業が終わると図書室に駆け込み本を読んだ。先生と一緒にみんなで食べるのが給食で 「良也くん、またいないの?、図書室でしょ、早く連れて来て!」 と言いつけられて呼びに来るのは悪ガキだ。
そうだ、あいつらに苛められない為に私は弁証法を自得したのだ。
ああ 変な子だ。雲雀は高く そして舞い降りる。探しに行ったら 見つからない。大蛇を見つけた!
芹の生えた小川が流れ、タンポポが咲き、鳶が飛び、雲仙の青く透き通った山脈を見つめた。時よ、止まれ!お前は美しい。
たしかに、そう思った気がするのだ。ああ、そうだ、変な子だ。
美しい風景のなかに、妹と私は生きていた。ある朝のこと、起きるにはまだ早い夏の光が、蚊帳越しに、まるでスポットライトのように、妹を照らしていた。「兄ちゃん……」瞼を固く閉じ頬を染め小さな吐息を漏らし、小さな声で言ったのだ。真夏の暑い夜_蚊帳のなか、ああ妹よ。
小景異情 室生 犀星
ふるさとは 遠きにありて 思ふもの そして悲しく うたふもの